1.
今日はデート日和!
私、桜宮恵は高瀬君とデートします。
デートって初めてだけど……結構メンドくさい……。
「友だちを励まそう(みこ)」の続きです。
前回を読んでおいていただいた方が理解が進んでいいでしょう。
これ単体でも意味は通じるかと思います。
「友だちを励まそう(みこ)」のネタバレを含みます。
●登場人物
・桜宮恵 : 登場作「和菓子屋『野乃屋』の看板娘」、「ある日の『上葛城商店街』」の「はじめての店番(恵)」「彼女が魚を買いにくる(佑哉)」「友だちを励まそう(みこ)」
・高瀬佑哉 : 登場作「和菓子屋『野乃屋』の看板娘」、「ある日の『上葛城商店街』」の「はじめての店番(恵)」「彼女が魚を買いにくる(佑哉)」「友だちを励まそう(みこ)」
・野宮みこ : 主演作「和菓子屋『野乃屋』の看板娘、ちょい役「ふくれっ面の跡取り娘」
目を覚ました私、桜宮恵は、ベッドから下りて窓を開けた。
見上げると厚い雲。白い雲がどこまでもどこまでも空を覆っている。
「うん、デート日和だ」
自然と笑みがこぼれた。
まずは朝食まで済ませた後、今日のお出かけの準備を始める。
服は昨日のうちに候補を絞り込んでおいた。
日差しが強い時用、弱い時用と二種類。
幸いにして日差しは強くなさそうなので、肌を出しても大丈夫そうだ。
よーし、では……ん? んんん?
あれ? 私こんなの選んだっけ?
花柄のショートパンツ。裾がふわりと広がっているのがかわいらしい。
でも短すぎないかな?
なにしろ相手は足が好きな人なので、じろじろ見られそうで恥ずかしい……。
そして上は白のノースリーブ。
二の腕を出しにかかろうと言うのですか、昨日の私。
部活で重い楽器を持ち運びしているせいか、腕は結構逞しいことになってるんですけどもね。知らない昨日の私ではあるまいに……。
さらに生地がシフォンで透け感がある。
下に見えてもいいキャミソールを合わせるにしても、透けたところを男子に見られちゃうのはなんだか恥ずかしい……。ていうか、あえて透けさせるつもりだったの、昨日の私?
どうも、昨日の私は初めてのデートを控えてかなりテンションが上がっていた様子。ほとばしるヤル気が今となってはツラい。
うーん、どうしようかな? 日差しが強い時用のなら、露出はぐっと下がるけど……。
いや、ここは思い切りましょう! 生足も二の腕もがっつり見てもらおうではありませんか!
不退転の決意を固めた私は部屋着のワンピースを脱ぎ捨てた。
陸橋の上にある私鉄・上葛城駅の改札口前。そこが待ち合わせ場所。
小心者の私は人を待たせるのが苦手なので、予定の二十分前にそこへ行った。
そしたら彼は待っていましたよ。
ずっと挙動不審げに私が来るであろう西口をきょろきょろ見ていた。
故にエスカレータを登りきったら即見つかる。うれしいというより、ホッとした顔をした。
「よう、桜宮」
「おはよう高瀬君、早かったね」
「いや、今来たところ」
「それにしたって、まだ二十分前だよ? 待ち合わせの何分くらい前に来たの?」
「あー、二十二分前?」
ホントかよ。
「じゃあ、そういうことで。今日はよろしくお願いします」
深々とお辞儀する私。
「お、おう、こちらこそ……」
向こうも頭を下げた。
よし! 桜宮恵、人生初めてのデートが、今、始まる!
でも、高校二年にもなって初めてとか、ちょっと恥ずかしいので黙っていよう。
とにかくデートだ。どうにも早く来すぎたので、一本前の電車に乗れてしまう。ヘンなかんじのアクシデントだ。
ここから都会までは四十分程度の電車の旅となる。
うまく並んでシートに座れたし、和気あいあいと会話が弾む……なんてことはなく、お互い無言のびみょ~な時間が過ぎていく。
おかしい……高瀬君って、お調子者のバカだよね? 中学の時にはそう呼ばれてたよ? こういう時盛り上げてくれる人じゃないの?
いやいやいや、私は人見知りですから、自分から会話を切り出していくとか大の苦手なんですけど。
おかしい……最近は毎日のようにメッセージのやり取りをしていて、そこではすごく盛り上がっているのに。なのに……なぜ?
高瀬君の方を見てみると、向こうはちらちらとこっちを見ていた。正確に言うと……私の足だ。
ええええ? 会話より足なんですか? それほどまでに女子の足がお好きなんですか?
うーんうーん、どうしよう。足を見るなと言うべき? でも、足を晒してるのは私なんだよね。見られる覚悟は固めていたけど、こんなふうに無言で見られ続けるのは微妙すぎる……。
そ、そうだ。メッセージを送るというのはどうだろうか? それならいつものように会話ができるはず。
冗談ぽく、『これ以上足をチラ見すると通報ですぞ』とか送るのだ。
うん、そうしようそうしよう。
……でも、せっかくのデートで、本人が隣にいるのにメッセージもいかがなものか?
ぐむむむ……。
「あ、ゴメン桜宮」
「え? ううん、大丈夫だよ、通報はしないから」
「通報? いや、退屈……だよな?」
「退屈? そんなことないよ?」
脳内はかなり忙しいことになってました。
「でも……ため息……」
「ため息? 私ため息ついてた?」
「あ……うん……。はぁぁぁ……」
「今度は高瀬君がため息?」
しかも思いっきりうなだれてる。
「ゴメン、こんなことになるとは……」
「え? え? どういうこと?」
「いきなり退屈させるとかなぁ……。こんなつもりじゃ……」
なんか、ヘコんでるぞ。
「だ、大丈夫だよ、高瀬君。まだ始まったばかりだから」
「そ、そうか?」
情けない顔で私を見上げてきた。
「ぷっ、くくく……」
思わず吹き出してしまう。
「え? わ、笑うなよ……。笑うことないだろ?」
「ゴ、ゴメン。昨日のメッセージだと、すごい自信満々だったから。なんか、その落差が……。くく……」
ようやく高瀬君が身体を起こす。
「酷ぇなぁ……。あ、でも桜宮はちゃんと言ってたとおりだな」
「ん? なんて言ってたっけ?」
「『生足? オッケーオッケー! バッチリ出すし、バッチリ見てねっ!』ごちそうさまです」
ぎゃあああああ! 確かにそんな破廉恥なことを口走ってました!
ていうか、今まさにガン見されてるっ!
手のひらを広げて太ももを覆う私。
「ち、違うんだよ! 昨日の私は、テンションがそのぉ……」
涙目で高瀬君の顔を下から覗き見るようにすると、向こうは慌てたように足から視線を外してくれる。
は、恥ずかしい。
「ま、まぁ、その……昨日は二人ともおかしかったよな」
「だよね。あっ! 言ってた高級フレンチを奢れとかあれウソだからね?」
「え? そうなの? 予約したのに……」
「ウソッ!」
それはそれでうれしいけど、高校生だけでそんな贅沢はマズいのでは?
「ウソだよ。あの辺は二人とも滅茶苦茶言ってたからな。ヘリで都会の夜景を見せてやるとか」
「ああ、言ってたよね、高瀬君。値段検索したら微妙に実現しそうな額だったんだよ」
「そうそう、バイト代突っ込もうかと本気で悩んだって」
「ウソだー。すぐに土下座したじゃない。顔文字で」
「まぁなぁ、よくよく考えたら高いんだよ。十分程度なのに」
「だよね。3D映画を二時間観た方がよほど楽しめそうだよ」
「って、なんか発想が高校生だよな」
「まぁ、高校生ですから」
と、笑い合う。
あれ? じゃあ映画も観ようぜ! って話にはならないのか。高瀬君、チャンスをスルーしてるよ?
ともあれこのやり取りでお互いほぐれ、そこからは普通に会話を弾ませることができた。
「そういえば、いつも私の話ばかりで高瀬君の話ってあんまり聞いてないよね?」
「そうか?」
「そうだよ。学校じゃどんなかんじなの? 相変わらずのバカ?」
「酷ぇなぁ。マジメにやってるぜ? 黒板消しトラップも五回しかしてないし」
「あの扉の上に挟んどく奴? 五回もやれば十分だよ。でも、あれってうまくいくの?」
「先生にはうまくいかないけどな。昼休みになる直前に授業抜けて仕込んどくんだ。そしたら授業終わったと同時に学食へダッシュする奴が引っかかる」
「酷いっ!」
「それやる時は先に廊下へ出て待機しとくんだよ。そして食らった瞬間をパシャリ。昼飯のことしか考えてない奴が不意打ち食らうんだからな。かなり笑える顔するぜ?」
「やっぱり相変わらずのバカだね」
私が笑ってしまうと向こうも照れたみたいな笑みを見せた。
別に褒めてはないんだけどね。
そして都会に到着。
駅から道具屋さんが並ぶ商店街までは少し歩く。
うーん、夏休みだけあって人が多い……。
「大丈夫か? 桜宮。人が多いの苦手そうだけど」
「うん、そうだね、あんまり得意じゃないかも……」
あんまりどころかかなり苦手だけど。
遠慮しすぎる性格なので、人が前から来ると無駄に大きく避けようとするのだ。それであっちにこっちにとふらふらしてしまう。気苦労がとんでもない。
あっ! そうやってふらふらしてたら高瀬君とぶつかっちゃった。
「ご、ごめん高瀬君」
「おう、いいよいいよ。もうこっち寄っとけよ。向こうで避けてくれるし」
「そ、そうかな」
そうやって高瀬君に近寄ると、腕同士が何度も当たってしまう。
うう……白いくせに筋肉質な腕だなとか思われたらどうしよう。ていうか、高瀬君の腕がごつごつしていて硬かった。
バスケ部に入ってるって言ってたな。中学の時はハンドボール部だったけど、高校にはなかったのだ。
頑張って部活してるんだろうなぁ。
あっ、前から来る人、こっち見てない。当たっちゃう……。
と、不意に高瀬君と反対側の肩が誰かに触れられた。
「ひゃっ!」
「あっ! 悪い悪い、ぶつかりそうだったから……」
「ううん、ありがとう、ありがとう……」
びっくりした、こっちに寄せてくれたのか。そうやって守ってくれるのは、……うん、うれしいかも。
かといってそのままずっと抱き寄せてくれるわけではなく、手はすぐに離れちゃう。
肩を抱かれて歩くとかデートっぽいけど、……まぁ、この人ヘタレだしなぁ。それに恥ずかしすぎる。
そして商店街に。
「わぁ、すごい」
「だよな」
道に食べ物屋さんの前にあるような看板がいっぱい並んでいる。カラフルで楽しい。お店の中には鍋から包丁から本当にいろいろと並んでいる。
もっと中まで入ってみたいな。
「ね、ねぇ見ていいかな?」
う、なんか声が上ずっちゃった。興奮しすぎだぞ、私。
「おう、そのために来たんだしな」
ああ……同じ用途の鍋だけでいろんな大きさがある。あ、この小さいのかわいい。ちょっとした一品を作るのによさそうだよね。わぁ、寸胴だ。これがあればラーメンだって作れちゃいそう。うんまぁ、豚をさばくのは大変そうだけど。あ、こっちのお店は食器だ。こういう和風のもいいよね、私の家は洋食器がメインだし。こういう柄を見ているだけで料理のイメージが沸いてきちゃう。あ、セイロだ。これくらいの小さいのなら使いやすそう。中華もいろいろチャレンジしたいかも。となると、必要なのが中華鍋ですよ~。大きくて黒光りしていて最高ですな。ああ、これくらい大きいと火もうまく通っておいしいのができそう。
「気に入ったの? その中華鍋」
「ん?」
あ、ヤバい、夢中で見ていて彼の存在を忘れていた。こうやって集中し始めると他のことが目に入らなくなるのが私の悪いとこなんだよ。
「欲しかったら買ってやろうか?」
「え?」
買ってくれる? この中華鍋を?
「いやいやいや、いいよ、こんな大きいの」
「でも欲しいんだろ?」
「でも、持って帰る大変だし」
「俺が家まで持っていってやるよ」
この、人が多い中を中華鍋担いでうろうろするの? それはいかがなものか?
というよりも。
「いいよいいよ。買ってもらう理由がないし」
「いや、今日の……デートの、記念とか?」
中華鍋が? う、うーん、確かに道具屋さんめぐりを象徴してはいるけども……。中華料理作りながら、「ああ、この時のデートは楽しかったな」とか思い出すの? それって変じゃない?
それにやっぱり。
「結構高いし、恋人でもないのに買ってもらうのは悪いよ」
「……恋人でもない。だ、だよねぇ……」
「だよ」
「そうだよね……。あ、ゴメン見るの邪魔して」
「ううん、大丈夫大丈夫」
あれ? 目に見えてヘコんじゃったよ? あ、恋人でもない発言がお気に召さなかった? でも事実だしねぇ……。
はぁ、どうも高瀬君は私のために調理器具を買ってくれようとしているようだ。ヘタに手に取ったりするのはマズいかな?
だけどじっくり見たいんだよねぇ。ああ、このフライパンもよさそうだ。でもなぁ……。
「あ、ゴメン、もう邪魔しないよ」
「あ、そうしてくれると助かるよ」
「そっか……」
あ、またヘコんだ。今度は何に引っかかったんだ?
かえって遠慮するのもマズいらしい。じゃあ、手に取った方がいいのかな?
あ、このフライパン、持ちやすくていいなぁ。って、……高瀬君じっと見てるんですが。
「あ、いや、別に欲しいわけじゃないよ?」
「あ、うん、だよね」
ふう、気を使っちゃうなぁ……。もっと集中して見たいかも。
なんていうか、メンドくさい……。
ええ? デートってこんなにメンドくさいものなの?
初めてだからよく分かんないや……。




