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ある日の『上葛城商店街』  作者: いなばー
はじめてのデート(恵)
46/60

2.

 とにもかくにもひと通り見て回った。そして時計を見てみたら、お昼は思いっきりすぎている。しまったぁ、夢中になりすぎたぁ……。


「ゴ、ゴメンね、お腹空いたよね?」

「いや、大丈夫大丈夫。じゃあ、メシ食おうか。何が食べたいのある?」

「そうだねぇ……」


 さっき中華料理器具を見ていたから、がっつり中華で行きたい気分です。

 普段家族では行かないような、大衆的なのが面白そうだけど。餃子がおいしいとことか。

 ……いや、さすがにデートで、餃子二人前! とかマズいのは私でも分かる。となると……。


「なんでもいいよ。高瀬君が決めて?」

「お、おう分かった」


 そして二人で牛丼屋に……、などということはなく、カジュアルな雰囲気の洋食レストランに連れていってくれた。高校生が入るにも抵抗がないかんじ。

 案内されてテーブルについた私たちは、それぞれ違うランチセットを頼んだ。

 ここで友だち同士ならちょっとずつ交換し合ったりもするのだけど、それはしない方がいいように思われた。

 それよりも会話会話……。


「桜宮はキレると怖いからなぁ」

「え~、そんなことないよ。常におしとやかですから」

「でも、柳本の頭を踏んづけたじゃん。酷い振り方した件を柳本が土下座した謝ったら、怒鳴りながら頭をぐしゃっ!」


 いやだって、貧乳だからお付き合いできないって言われたんだよ? 頭踏んづけて、どうにか忘れることにしたんだよね。


「そんなこともありました。よく覚えてるよね?」

「あんな鮮烈なシーン、忘れるわけないって。そっからさらに暴れ回ったしな」

「若気の至りですね。高瀬君も常にバカだったじゃない。パンツ一枚で教室走り回ったり」


 しかも一度や二度のことではない。


「そうそう、肉体美を見せつけたいお年頃だったんだよ」

「うわ、ナルシストだ。そのくせ女子に告白とかはできないんだよ。綾小路さんとか」

「えっ! なんで知ってんの?」

「みこが言ってた」

「野宮~! 口軽すぎだろ、あいつ。でも、告白はちゃんとしたんだぜ? 玉砕したけどな」

「あ、それも言ってたな。やる時はやる人なんだよね。私にもちゃんと告白してくれたし」

「え? あ、うん……」


 顔を赤くしてうつむいた。

 あ、しまった。私に告白しただなんて、ここで持ち出す話ではなかったか?

 でも、この機会にちゃんと言っておかないと。


「あの、ゴメンね、返事を保留にしたままで」

「え? いや、いいよ。じっくり考えくれよ」

「うん、そうしたいんだ……。どんな返事になるか分からないけど、待ってくれるととてもうれしい」

「うん、待つよ。それまでメッセージでバカ話してようぜ」


 よかった。高瀬君はやっぱりいい人だ。

 いつまでもそれに甘えてばかりもいられないけど。


「あれ、すごく楽しいよ。ああやって男子とやり取りするの初めてだけど、すごく楽しい」

「へぇ、……初めてなんだ」

「そうそう、今までは連絡とかばっかりだったから。ふふ……。高瀬君は私の初めてばっかりだ。部屋に入れたのも初めてでしょ? バカ話するのも初めてでしょ? デートするのも初めて」

「デートも初めてなんだ?」

「あ、しまった言っちゃった。恥ずかしいよね、高校二年にもなって」


 舌を出してしまう。


「いや、俺も初めてなんだけどな、デートとか」

「そっか、初めて同士だ」

「だな、そのせいでうまくエスコートできてないけど」

「ううん、そんなことないよ。私こそマイペースすぎて振り回してるよね」

「大丈夫だよ、そうやって楽しんでくれたら俺はうれしいし」

「そっか。私……高瀬君が初めての人でよかったよ。とても優しくしてくれるし」

「……なんかそう言うと、もやもやしてくるな」

「もやもや? またよく分からない男心だね。初めてかぁ……これから先も、いろんな初めてがあるんだろうなぁ……」

「えっ! お、おう、そうだな」


 急に高瀬君がそわそわし始めた。トイレかな?


「まぁ、キスとかになってくると、高瀬君とはムリなんだけどね」

「えっ! ム、ムリなんだ……」

「え? だって好きでもないのにキスはムリだよ」

「す、好きでもない……」


 思いっきりうなだれる高瀬君。

 え? マズいこと言った? でも、まだ好きになってないんだから、キスはしないよ? そんなふしだらな女だと、高瀬君には思われたくない。


「いや、好きでもないのにキスはしないよ、私? キスは好きな人としたいもの」


 それが高瀬君になるかはまだ分からないけど。でも、もしかしたら……。


「そっか……そうなんだ。ま、まぁ、覚悟はしてたけど……」

「そうそう、その辺は誤解して欲しくないんだよ。高瀬君には特に誤解して欲しくないの」


 だって、高瀬君は私にとって大切な人なんだから。


「うん、分かったよ。ちゃんと身の程はわきまえる」


 顔を上げた高瀬君の目は、なんか死んでいる。


「え、大丈夫? なんか疲れてるっぽいけど」

「大丈夫、もう吹っ切れた。それよりこれからどこか行きたいとこある? もう一回道具見にいく?」


 あ、もう復活したっぽい。昼の部も大丈夫かな?


「道具はたっぷり見たからもういいよ。高瀬君は何かプランある?」

「プランてほどじゃないけど、向こうのショッピングモール行ってみない?」

「いいね、服とか見ていい?」

「うん、見よう」


 そうして二人で外へ出る。

 ふぅ、やっぱり微妙に気を使うなぁ。初めて同士だとこんなものなのかな?

 あ、ちなみに断固として割り勘にしました。




 そしてショッピングモールへ。いろいろなセレクトショップが並んでいて、見ていて飽きない。

 あんまり見すぎると高瀬君が買ってくれようとする危険があるので、その辺は用心しつつ。

 でも、見ているとやっぱり夢中になってしまう。


「これかわいいかも。ほら、こんなの」


 と、ハンガーにかかったブラウスを取り出して高瀬君に見せてみる。


「へぇ、どんなかんじ?」


 高瀬君が私の前に服をやり、腰を落として私と服を見比べた。

 う、ちょっと恥ずかしい。


「おお、いいね。桜宮って、こういうかわいらしいのがよく似合うよな」

「うん、ありがとう」


 みこに仕込まれた通り、褒められたらありがとうを返す。

 というか、実際褒められたらうれしい。

 男子に見てもらいながら服をあれこれ見て回るのは、女子だけの時とはまた違った楽しさがあった。

 あー、見てると段々欲しくなってくる。これとか、すっごくかわいい。

 でも……

 高瀬君を見たら横を向かれてしまった。何を考えているかよく読み取れない。

 やっぱり、二人仲よくのデートなのに、自分でお金出して買い物したりはマイペースすぎるかな?

 かといって買ってもらうのはどうも……。

 むむむ……今日は我慢か?


「あ、もういいの?」

「うん、十分見たよ。さっき言ってたみこ推薦のカフェに行こうよ」

「おう、そうしようか。でも買わなくてもいいんだ? 欲しそうだったし、買えばよかったのに」

「え?」


 買ってよかったの? 自分で買ってよかったの?

 分かんないよぉ……結局どうしたらよかったの?

 デートって、デートって、メンドくさい……。




 そしてみこ推薦のカフェへ。ここは穴場で、ケーキがおいしいらしい。

 穴場とはいえ、そこそこお客さんはいる。女友だち同士だったりカップルだったり。お一人様もいた。

 むー、それにしても、あのカップル……。


「どうした?」

「ううん、なんでも」

「あー、向こうのカップルなぁ……」


 二十代後半ぐらいだろうか? イチャイチャと手を撫で合ったり、女性の手の甲を男性がキスしたり。はぁ……。


「ああいうのって……」


 よそのお客の話なんてしちゃダメなんだろうけど、思わず口にしてしまう。


「憧れる?」

「ん?」

「え?」

「高瀬君は憧れる?」

「そりゃあ、仲がいいのは……いいんじゃない?」

「そっか……高瀬君はああいうのがいいのか……」


 思わず眉間に皺を寄せてしまう。


「え? え? 桜宮的にはどうなんだ?」

「許し難い……」

「え? そうなの?」

「まだお昼なのに、あんな人目をはばからないのは如何なもんですかねぇ。キスとか、人の見てないとこですべきでしょ?」


 我慢しきれず思っていることをぶちまけてしまう。


「ま、まぁ、そうなのかな?」

「でも、高瀬君はああいうのがご所望ですか……。そうですか……」


 じとーっと高瀬君を見る。

 すぐに視線を彷徨わせ始めた彼は、なんとか言い訳を試みる。


「いや、でもさ、愛し合ってたら、多少人目をはばからないとかもあるんじゃない? お互い相手しか見えてないっていうか」

「もっと視野を広く持って欲しいですよね?」

「でも、桜宮も大概視野が狭くなるよな? 集中すると周りが見えなくなるっていうか」

「……まぁ、そういうとこはありますよ? 道具屋さんでも高瀬君放ったらかしにしたもんね」

「いや、それはいいんだけどさ……」

「私だって、自分の欠点は自覚してるつもり。人にそれを言われるとヘコんじゃうし……」


 どうしてもうなだれてしまう。


「悪かったって。無神経なこと言っちまった」


 と、テーブルの上に置いていた左手を、急に高瀬君が握ってきた。

 えっ?


「悪かった、機嫌直してくれよ……」


 どうしよう。振りほどくのはよくないよね? でも……。


「困るよ、高瀬君……」


 少し顔を上げて上目遣いで彼に戸惑いを訴える。

 でも、彼は手を離してくれない。


「許してくれるまで、離さない」


 どうしよう。人目が気になる。あのカップルと同じだと思われたくない……。


「……高瀬君、離して? 私、イヤなの」

「……悪い」


 力なく高瀬君の手が引いていく。

 目に見えて落ち込んでいる。でも、今みたいなのはイヤなんだよ。


「イヤとか言ってゴメン……。急にだから驚いちゃった」

「そりゃ驚くよな、急に手なんて握られたら。彼氏でもないのに……。ゴメン」

「あ、彼氏だとしてもイヤだよ? お店の中でイチャイチャとかはよくないと思うの」

「そう……なんだ。手強いね、桜宮は」

「え? そうなのかな? そういうみっともないのはイヤなだけなんだけど……。私、おかしいかな?」


 首を傾げてしまう。怒っているのではなく、普通に不思議なだけ。

 特に厳格な家庭に育ったわけではないけれど、人前ではきっちりしとくべきだと思っている。


「いや、いいんじゃない。なんか、桜宮らしいというか」

「本音は?」

「手強いな~」


 大げさにうなだれた。


「いやいや、甘いイチャイチャに憧れはありますよ? でもそういうのは二人っきりの時にすべきなんだよ」

「なるほど……。分かりました、反省します」

「よろしい。それよりケーキ食べようよ。おいしいよね」


 甘いけど、しつこくない。いくらでも入りそうだ。

 まぁ、デートで何個もケーキにかじり付くなんて、それこそみっともないけど。


「ケーキとか滅多に食べないけど、これはうまいよな」

「あ、もしかして甘い物苦手だったり?」

「そんなことないぞ。男がしょっちゅうケーキ食べてる方がおかしいだろ?」

「まぁ、そうか。みことしょっちゅう食べにいってる水野君がおかしいのか」

「そうそう、あいつらがおかしいんだよ」

「だよね」


 と、二人で笑い合う。

 よかった、どうにか気まずいのはなくなった。

 その後は楽しく会話して過ごす。

 高瀬君と過ごすのは楽しいな。うん、楽しい。




 そして家へ帰ることに。

 と、駅の売店に料理の雑誌が売ってあった。あ、これ最新刊出てたんだ。


「あ、高瀬君、雑誌買っていっていい?」

「おう、好きにしろよ」


 電車は少し混んでいたので私だけ座らせてもらう。私の前に高瀬君が立つ。

 さっそく雑誌を見てみましょう。今回は焼き菓子の特集なんだよね。

 あ、これとかおいしそう。作るのは……ちょっと難しそうだけど、かえってやり甲斐があってよさそうだ。

 高瀬君に今日のお礼ってことで作ってあげたら喜ぶかな?

 顔を上げると高瀬君は窓の外を見ていた。

 今は黙っていよう。急に渡して驚かせるんだ。うん、そっちの方がいいな。

 他にもこれに合わせてもう一つくらい……。


「雑誌、面白い? 桜宮」

「うん、面白いよ」


 そうか、こんなやり方があるのか。やっぱりプロは違うなぁ。

 あ、調理器具の広告。ヨーロッパのブランドかぁ。ここのは憧れてるんだよね。

 今日見た道具屋さんも面白かった。本当にいろいろあったもん。

 連れていってくれた高瀬君には感謝だ。

 うん、やはり是非ともお礼をしなくっちゃ。

 でも、甘い物はあんまり食べないって言ってたから、甘過ぎるのはやめといた方がいいかな。

 その辺は少し研究してみよう。腕が鳴るぜ。


「桜宮って、ホントに料理が好きなんだな」

「うん、好きだよ」


 お、ケーキも載ってるね。

 今日食べたケーキもおいしかった。さすが甘い物屋さんの娘、みこ推薦だけある。

 でも、手を握られたのは驚いちゃった。おっきな手だったな。力強いっていうか。

 うん頼もしい。前に抱き締めてくれた時にも思ったけど、高瀬君は頼もしい男子だ。

 お店の中じゃなかったら、もっとうれしかったかもなぁ。

 ん? でもお付き合いする前から手を握り合ったりはマズいかな? マズいな、きっと。


「おい、桜宮、桜宮」

「ん?」

「もう着くぞ」

「あ、ホント。ありがとう」


 そして私たちの駅、上葛城駅に着く。




 ああ、なんかあっという間の一日だったな。

 戸惑いもいろいろあったけど、楽しく過ごせた。


「じゃあ、今日はありがとう」


 駅の改札口前で高瀬君と向き合う。


「こっちこそありがとうな。デートしてくれて」

「私も誘ってくれてうれしかったよ。じゃあね」

「おう、またな」


 そして私は西口に。途中で振り返ると、高瀬君はまだその場から動かずに見送ってくれていた。

 彼に手を振る。向こうも不器用に手を上げた。

 これにて桜宮恵の初デートはおしまい。


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