匂いの男
俊は部活があるからと放課後すぐに教室を出て行った。
俺は帰りの支度を始めながら今晩のメニューを考えていた。
「今日はスーパーが安くなってるはずなんだよな…豚肉を使って炒め物とか…ああ、あと父さんが好きな麻婆豆腐とか…」
立ち上がり廊下にでたその時、気づいた。嗅いだことのある匂い。俺が好きな匂い、入学式の時に嗅いだ、あの、匂いだ。
どこからだろう?でもたしかにする。あの時の匂いが。こっちの方からだろうか。
俺は匂いに惹かれ廊下を一歩一歩慎重に歩いた。しばらく歩いて辿り着いたのは今は使われてない旧校舎の隅にある教室。いつの間にこんなところまできていたのだろうか。
「そもそも匂いに惹かれてくるとか俺ってどんだけだよ…。」
少しの後悔とともに見つけたのは一人の男。少し長めの髪の毛は後ろで束ねてあり綺麗なその黒い髪は夕焼けに照らされている。切れ長の二重な目と筋の通った鼻。いわゆるイケメンといわれる部類の男はこちらを睨みつけるように見ていた。
その威圧的な雰囲気に俺は少し尻込みしてしまう。
「お前…誰?」
「あ、えと、倉持慶太、ッス…」
「なんでここにいるの」
その質問になんて答えようか迷う。素直に匂いに惹かれてきたと言うのか、それじゃただの変態じゃないか!
「僕がここにいること探るように誰かに言われたの?」黙り込む俺に男は痺れを切らしたのか呆れた表情で喋り出した。
「例えばさ、クラスの女子とか。困るんだよね、せっかく遠回りしてここまで来たって言うのにさ。ここなら誰にも見つからないと思ったのに。」
なにか…勘違いをされてるのか…?すごい目で睨まれているし完璧に勘違いをされている。いやでも変態と思われるよりマシなのかもしれない、どうせ今日しか会わない人なんだろうし…。
「………そうだ、ちょっとした弱味でも握っちゃえばいいのか。」
「へ?」
笑顔を浮かべた男は俺に近づいてくるといつの間にか外していた自分のネクタイを俺の両手首へと巻きつけキツく縛り上げた。
「ちょ!な、何する気ですか!別に俺、アンタの匂いに惹かれてきただけッスよ!!」
「……は?」
変な危機を察知した俺は言ってしまった。
驚きを隠せないような表情を見せた男はしばらくしてプッと笑いをこぼした。
「なんだ君、変態なわけ?匂いって言っても僕なんにもつけてないし、もっとマシな嘘ついてよ。」
「え、なんにもつけてないんスか…?こんなにいい匂いすんのに…」
驚いた俺の姿を見た男は呆れたのか俺の言葉を信じたのかわからないけどネクタイを解いた。
「…小鳥遊亮。」
「え?」
「僕の名前。君が嘘ついてるようには見えないしさ、今回は信じてあげるよ、倉持くん。」
「あ、えと、はい。…………ああ!!!!」
ふと時計に目をやるとはりはもう6時を指していた。
「えと!あの!そう!べつに俺変態とかじゃないスからね!!ただ、アンタの匂いには惹かれるっていうか…何と無く、何と無くだけど、好きなだけッスから!じゃあ俺スーパーのセールあるんで!!!」
「え、あ、うん、バイバイ。倉持くん。」
きょとんとした顔でこちらに手を振る彼、小鳥遊亮さん。彼との出会いで俺の運命が大きく変わることになるのはまだ少し先の話なのかもしれない。




