# 第八話 ## 「人生、急には変わらない」
# 第八話
## 「人生、急には変わらない」
雨が止んだ翌日。
空は妙に明るかった。
あの夜のことを引きずりながらも、
世界だけは普通に動いている。
それが少し悔しい。
---
雨宮悠人は、
朝の工事現場にいた。
鬼塚の怒鳴り声。
重い資材。
泥の匂い。
いつもの風景。
でも昨日の白石の涙だけが、
頭から離れなかった。
「ちゃんとしてない人といると楽なんです」
その言葉が、
嬉しいのか怖いのか分からない。
---
昼休み。
坂本がスマホを見ながら笑う。
「お前さ、最近ほんと変わったよな」
「どこがですか」
「顔」
「顔?」
「前より死んでない」
褒め方が雑すぎる。
でも少しだけ嬉しい。
---
その夜。
悠人は資格の参考書を開いていた。
珍しい。
工事系の資格。
ずっと後回しにしていたやつ。
ペンを持つ手が止まる。
「俺、何やってんだろ」
急に現実が重くなる。
逃げてるだけじゃないのか。
婚活も、白石も。
---
スマホが鳴る。
白石雫。
【勉強ですか?】
悠人は少し笑う。
【一応やってます】
すぐ返信。
【偉いですね】
【まだ一ページ目ですけど】
【それでもです】
そのやり取りだけで、
少し救われる。
---
数日後。
夜。
二人は河川敷を歩いていた。
特に目的はない。
ただ歩く。
それが自然になってきていた。
---
白石が言う。
「雨宮さんって、
前より話しやすくなりましたよね」
「え、そうですか?」
「うん」
少し間。
白石は続ける。
「でもたまに、
無理してないかなって思う時あります」
悠人は少し笑う。
「無理はしてますよ」
「やっぱり」
「でも」
悠人は空を見る。
街灯が少し眩しい。
「前みたいに、
何も変えないでいるのも怖いんで」
白石は黙って聞いている。
---
「結婚したら人生変わると思ってたけど」
悠人は苦笑する。
「そんな簡単じゃないですね」
白石が小さく頷く。
「ですね」
---
しばらく歩く。
川の音。
風。
---
白石がぽつりと言う。
「でも私、
変わらなくてもいいと思います」
悠人は振り向く。
「え?」
「今のままでも、
誰かとちゃんと繋がれたら」
その言葉が、
静かに響いた。
---
悠人は少し笑う。
「それ、婚活の意味なくないですか?」
白石も笑う。
「かもしれないです」
でもその笑顔は、
前より柔らかかった。
---
橋の上で立ち止まる。
夜の街。
車の光。
白石が言う。
「雨宮さん」
「はい」
「人生って、
急に変わるものじゃないですね」
悠人は少しだけ黙る。
そして答える。
「でも、
変わらないままでもいいって思えるのは、
ちょっと変わった気がします」
白石はその言葉を聞いて、
小さく笑った。
「それ、いい変化ですね」
---
風が吹く。
二人は並んで立っていた。
まだ恋人じゃない。
でも、
ただの他人でもない。
その曖昧な距離が、
今は一番心地よかった。




