## 第一話 ### 「婚活会場のすみっこで」
# 『また会いましたね、雨宮さん!』
## 第一話
### 「婚活会場のすみっこで」
雨宮悠人、二十九歳。
職業、工事現場スタッフ。
年収、そこそこ。
貯金、微妙。
恋人、なし。
将来、見えない。
「……はぁ」
駅前のガラスに映る自分を見て、悠人はため息をついた。
スーツが似合わない。
というか、
人生が似合ってない気がする。
スマホを見る。
婚活パーティー受付開始
十九時三十分〜
「また来ちまった……」
もう何回目か分からない。
最初は緊張していた。
今は、
慣れた。
慣れてしまった。
それが少し悲しかった。
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会場は駅前ホテルの二階。
受付の女性が、
営業スマイルで言う。
「いつもありがとうございます」
悠人は苦笑した。
「美容院じゃないんだから……」
受付のお姉さんが吹き出す。
「雨宮さん、毎回ちょっと面白いですよね」
「笑い取りに来てないんですけどね……」
参加費六千円。
財布が軽くなる音がした。
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会場へ入る。
男女合わせて二十人くらい。
男たちは、
営業職っぽい爽やか系、
筋トレしてそうなやつ、
時計高そうなやつ。
みんな笑顔が上手い。
悠人は端の席に座った。
「帰りたい……」
開始三分で思う。
すると隣の席の男が話しかけてきた。
「何回目です?」
「え?」
「婚活っす」
「あー……五、六回くらいです」
本当はもっと来てる。
盛った。
男は笑った。
「俺今日初めてなんすよ〜。なんか余裕ありますね」
余裕なんかない。
慣れて絶望してるだけだ。
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パーティーが始まった。
女性が順番に席を回る。
趣味。
仕事。
休日。
好きな食べ物。
テンプレみたいな会話。
「休日は何されてるんですか?」
「アニメ見たり、カラオケ行ったりですね」
「あ〜、そうなんですね〜」
終了。
この“あ〜”で終わりを察する能力だけ上がった。
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三人目。
四人目。
五人目。
全員、
似た空気。
悪くない。
でも刺さらない。
そして悠人も、
たぶん刺さってない。
もう帰ってコンビニ飯食いたい。
そう思った時だった。
次の女性が席に座る。
黒髪。
落ち着いた雰囲気。
見たことがある。
いや。
あるどころじゃない。
女性も気づいたらしい。
目が合う。
数秒沈黙。
そして彼女は小さく笑った。
「……また会いましたね、雨宮さん」
悠人も笑ってしまった。
「ですね……」
白石雫。
婚活パーティーで、
三回目くらいに会う女性だった。
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「白石さんも来てたんですね」
「雨宮さんこそ」
「いやまぁ……なんとなく……」
「私もです」
少し気まずい。
でも、
なぜか他の人より話しやすい。
沈黙が苦じゃない。
不思議だった。
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「今日はどうですか?」
白石が小声で聞く。
「何がです?」
「婚活」
悠人は周りを見た。
盛り上がる男女。
笑顔。
連絡先交換。
陽キャ空間。
そして言った。
「アウェー感すごいですね」
白石が吹き出した。
初めて見た。
この人、
ちゃんと笑うんだ。
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「雨宮さん、毎回来てますよね」
「白石さんもですよ」
「……否定できません」
「お互い婚活の主になりつつありますね」
「嫌すぎます、その称号」
二人で笑う。
婚活会場で、
初めて自然に笑えた気がした。
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会話終了のベルが鳴る。
白石が立ち上がる。
その時。
「雨宮さん」
「はい?」
「今日の人たちの中で、
一番普通に話せました」
悠人は少し固まった。
そんなこと、
婚活で初めて言われた。
白石は少し照れながら言う。
「……じゃ、また」
そして次の席へ向かった。
悠人はしばらく動けなかった。
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帰り道。
コンビニで半額弁当を買う。
いつもの夜。
でも今日は少し違った。
スマホが震える。
婚活アプリ通知。
マッチング成立。
相手は——
白石雫。
悠人は思わず声を漏らした。
「……マジか」




