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11 ついに公式、魔法少女るるなる

天球の灯(スフィア・ランタン)』の執務室では、報告を聞き終えたエレオノーラが薔薇色の人魚の涙(プールス・ウニオー)を満足げに見つめ微笑んだ。


「噂どおり、美しいこと。さぞ、あの子を彩るでしょうね」


 しかし、それもつかの間。穏やかな表情が一転しスッと目が細められた。冷徹な視線に射貫かれて、リンとガイは戦慄する。


「ところで貴方たち、事もあろうか、この私に報告し忘れていることがあるのではなくて?」


 パチリと扇子が閉じられて、パシパシと手のなかで踊る。


「ほ、報告漏れ?」


「待って、本気で何の事か分からないんだけど…。はっ!?まさか、レオンにご飯おごってもらったこととか?」


 プルプルと野うさぎのように、二人で寄り添い、絶対強者を伺い見る。


 言動から嘘がないことを感じとり、エレオノーラは、閉じた扇子を顎にあてて、困ったようにため息をついた。


「あら、本当に心当たりがないのね?ただの愚か者ということかしら。それはそれで、情けないわ」


 酷い言い様だが、誤解は解けた。ホッと息を付いて、改めて確認する。


 聞き出したいことがあると言うなら、答えるが、何の事か教えてもらわないと対応のしようもない。


「で、何の話だ?」


「『魔法少女るるなる』について、ですわ」


 リンとガイの顔からストンと表情が抜け落ちたことを誰が責められるだろうか。


「どこで…その、話…を?」


 ようやくひねり出した声が震える。何の話か分からないが、碌でもない話な予感がひしひしとする。


「子爵が『娘が大変夢中である』と、報告の際に。まぁ、世間話ですわ」


 なんでも、「『るるなる』のようになりたいなら」と付け加えるだけで素直に勉強に励むので大変やりやすくなったと、談笑していったそうだ。


「『るるなる』とは何かと、お伺いしたら、貴方たちが教えたと言うじゃないの」


 なんなのかしら、それは?


 …微笑みの圧が恐ろしい。リンとガイはドラゴンと親交の深い例の町、岩の根の町(ロック・ボトム)での人気紙芝居『魔法少女るるなる』について、知っている内容の全てを説明させられたのである。


 ガイに至っては、紙芝居を直々に伝授されていたので、優雅に微笑む侯爵令嬢の前で披露するという辱しめまで受けた。


「……『トキメクきらめき、るるなるよ!』……うう…。上司の前でこんな…!!」


「続けなさい」


 震える声で決め台詞を放つガイ。それに対し、エレオノーラが無情に先を促す。

 両手で顔を覆い涙にくれる相棒の肩を、リンが優しく叩いた。


「貴方たちは、本当にポンコツだということが、良く分かったわ」


 すうっと扇子が開いた。それは、エレオノーラが自分の考えをまとめる際の癖でもあった。扇子で口元を隠し、瞳の奥に冷ややかな算盤を弾く。


 そして、パチリと閉じられるその瞬間は決定事項のお知らせの時間の始まりである。


「この物語には大変なお金の匂い(可能性)を、感じます。子供が夢中になるものには、親の財布を開かせる力がありますわ。……これは慈善事業ではなく、市場の独占です」


「なんか、言い出したぞ、おい」


「子どもを食い物にしようという思惑が透けてるよ」


 ヒソヒソとエレオノーラの構想に口を挟んでみるものの、当然聞き入れられるはずもない。明日のドレスを決めるような気安さで命令される。


「従ってまず、岩の根の町(ロック・ボトム)の婦人会から、この物語の権利を買い取っていらっしゃい」


「意義あり!それはギルドの方針『リリアーヌお嬢様の平和を守る』とは無関係だ」


「そうだよ、業務外案件だよ!帰ってきたばっかりで疲れてるんだから休暇頂戴よ!」


 正直、魔法少女の呪縛から逃れたいリンが必死で抗議の声を上げる。紙芝居の実演で精神を削られたガイも必死で抵抗する。


「お黙りなさい。貴方たちの手元の報酬明細をご覧なさい」


 はた、と二人は手渡された明細書を確認する。


「無い!マイナスがないぞ、ガイ!」


「本当だ!ゼロだ!マイナスが付いてない明細書、久しぶりに見た!!ゼロが並んでるのがこんなに美しく見えるなんて……!」


 数字にはプラスもないのだが、可哀想な魔導士たちは気がつかない。そこに聖女のような慈愛に満ちた微笑みでリリアーヌが畳み掛ける。


「そこに、プラスが付くわよ?」


 ばっと顔を上げた二人が「マジで!?」と飛びついた。


 二人が依頼を引き受けてしまったその場に、騙されてますよと忠告するものがいなかったのは不幸なことである。


「あとは、そうね。魔法少女仕様の魔法ペンを開発させます。それら全てを侯爵家の知的財産とし広く公式に普及させましょう」


 エレオノーラは一度だけ、満足げに微笑んだ。


「リリアーヌが見てみたいと言っているのですもの。……中途半端なものは許しませんわ」


 こうして侯爵家監修のもと、観劇は大人のものという概念を切り崩した、子供用の演劇という新たなジャンルが立ち上がる事となる。


 それは大人も巻き込み社会現象となった『魔法少女』シリーズを爆誕させるのであった。



ありがとうございました!もはや、これがおまけみたいな話になってしまったのでこのお話はこれでおしまいです。今日の夜からまた、別の依頼が始まります。

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