私の結婚生活の日常
初めまして、志井田と申します。
今作からこの小説家になろうにオリジナル小説を投稿していきます。
1作目ですので、何か意見や感想がありましたら、遠慮なくどうぞ。
では、お楽しみください。
皆さんはトリップ、または異世界転移という言葉を知っているだろうか?よくアニメや二次小説なんかで使われる設定だ。転移する世界のテーマも様々で現代社会やファンタジー、SFとあげればきりがない。
いきなりどうしてそんな話をしているのかとお思いになっていることだろう。理由は簡単だ。理由は・・・・
「あなたー、朝ご飯の準備できましたよー!」
「ああ〜、今いくよ〜!」
私自身が異世界転移を経験し、現在進行形でファンタジーな異世界での生活を送っているからである。しかも・・・
「・・・おはよう〜。」
「はい、おはようございます♪」
結婚して、嫁つきマイホーム持ちでだ。どうしてこうなったかなぁ・・・。
私が異世界に転移して既に5年の月日が流れている。今年で6年目となって、小学生がもう少しで卒業するくらいだ。意外と長い。
「はい、今日の朝食はジャイアントクロウの卵焼きにカッポチのスープ、パンとサラダです。しっかりと食べて、元気をだしてください。」
「あぁ〜い、どうもサンクスですわ、キシュ。」
「私はあたなの奥さんですもの、このくらいは当然です。」
キシュ、それが私と結婚してくれた女性の名前だ。いや、正確に言えばキシュは私が付けた名前で本来の名前は他にあるけど、二度と使わないそうでキシュを名乗っている。名前の由来は私が生まれたのが9月で、陰暦で9月のことを季秋というのでそこからきている。安直とおもったが、彼女は気に入っているみたいなので採用された。
キシュの容姿は日本では見られない地毛が鮮やかなオレンジ色をしており腰まで伸ばしている。目は黄色、肌の色は別に日本人と大差ない。背は高く173cmもあり、夫である私を優に超している。羨ましい。プロポーションもよくモデルになれるだろう感じで、いつも笑顔を絶やさないようにしている。服装はこれぞ異世界の田舎娘のようにロングスカートに長袖の服、頭に三角頭巾をしている。
正直言えば、なんで私と結婚してくれたのか分からない。それくらい不釣り合いだなと思っている。
「今日の予定はどうなっていますか?」
「ん?えぇ〜と、いつも通りにダンジョンに潜って稼いで、いつも通りに武器の手入れ、そしていつも通りに家に帰ってくる、かな・・・。」
「でしたら、簡単なものでお弁当を用意しますので待っててください。」
「いや、いつも言っているけどそこまでしなくても・・・。」
「いえ、そこまでします。すぐ済みますので準備をしててください。」
キシュはそう言うと、少し駆け足で台所へ向かった。
私は机に置かれていた、冒険者組合情報という新聞に目を向けながら食事を始めた。『冒険者組合情報』、これはゲームでよくあるダンジョンという場所で生計を立てている冒険者たちに無料で配られているものだ。命懸けな仕事であるために、冒険者を纏めている冒険者組合という組織が少しでも生存率をあげるために日々情報を提供しているである。
書かれている内容も、死亡者報告、モンスターの発生状況、町の治安など様々でお得なのだが、現代社会で生きてきた私からすれば見にくいことこの上ない。手書きで書かれた複数の記事を1枚の紙にして、魔法で複製されたものだ。機械で精密に印刷された現実世界の新聞より汚いのは仕方ない。だが、なれないものがある。
しかも、この世界に情報関係を摘発するような制度も法律もないので、記者が思ったことをそのまま書いてある。正直、冒険者でさえ真面目に見ている人も多くない。
「先月の冒険者の死亡数4名、町の治安はいつも通り・・・・武器関係ギルドのサービス開始にモンスターの発生状況は通常か。」
そのくらいの情報があれば十分であり、その他の記事は読まないようにしている。しかし、冒険者が4人も死亡か・・・。危険が隣り合わせな仕事なので仕方なく、いちいち気にしてはきりがないのは分かっているけど慣れない。少し気持ちが沈んだ。
「モグモグ・・・・ゴクン。リアルなファンタジー世界なんてこんなモンなんだよな〜。最初は想像と現実との差にショックをうけていたなぁ〜。」
あ、この卵焼き隠し味にレッドクリスタル入っている。甘い中に潜む、少しのスパイスがより味を深めている。って、私はどこの料理評論家だ。
「お待たせしました。お弁当の準備と上着を持ってきました。」
「おっと、上着まで用意させちゃったか、ごめんね。」
「何度も言いますが、妻、なのですからこのくらい当然です。」
何か妻の部分を強調していた気がする。
どうやら物思いに耽っていたか、時間が経っていたようだ。時計を見ると予定していた時間まであと15分だ。私は急いで食事を済ませて、キシュが用意してくれた弁当と上着を受け取った。
「御馳走様でした。じゃ、行ってくるね。」
「はい、お弁当と上着です。」
「ありがとう。」
キシュから弁当を受取りカバンに入れ、上着を羽織って玄関に向かう。
玄関に立てかけてある武器を持ち準備完了である。バックは戦闘で邪魔にならないように肩に背負うタイプである。上着は前の世界からの癖みたいなもので、私服の時は必ず上着を着ている。
「では、あの2人によろしく言っておいてください。」
「ああ、もちろん。」
「はい。」
「・・・・・。」
「あなた?」
あ〜、たまにはこっちから感謝を体で返した方がいいかな。
チュッ
「・・・え?」
突然の不意打ちだったのか、キシュは私からのキスに反応できずにいた。気付いたのは数秒後からだった。
「じゃあ、行ってきます。・・・・いつも、ありがとう。」
「・・・・・。」ポー
呆けている妻を後にして私は扉を開け、ダンジョンに向かう。
そして、私がいつもダンジョンに向かう時に聞こえる何処からか聞こえる大声は、いつもの何割増し気がした。
「誰がいつも叫んでいるのかな?しかも私が仕事に向かう時に限って・・・」
私は家を出て5分くらい歩き、店が並ぶ大通りを通っていた。
ファンタジー世界だから、どこか小汚いイメージがあった街中だが実際はそこまでではなかった。道は綺麗に整えられ、人が20人並んで通れるくらいの道幅があり、道の両端には貴族やギルドの馬車と荷車が通れる箇所がある。しかも混雑しないように右側通行を徹底している。
これで何人かは気付いたかもしれないが、町が綺麗なことや道の仕組みの理由はまた今度話すとしよう。
まだ冒険者組合に着くまで少し時間があるので、私自身について思い返してみることにした。
私の名前は桂秋菊秋という何とも秋に縁がある名前だ。しかも生まれ月も秋である徹底さ。ここまでになると神の悪戯かと思ってしまう。
親も苗字が秋で生まれが秋だからと言って、名前まで秋を付けなくていいと思う。これで何回人生でからかわれてきたか分からない。
でも、まあ私自身が秋を好きなのでそこまでダメージを負うことはなかったのが救いだろう。
そんな私は普通の家に生まれ、学校に行き、悪友たちと遊び、普通に会社に就職した。勉強?そこは聞かないでください。お願いします。
運動はやってないが、上手くないが下手でもないくらいだ。言えば器用貧乏なのだ。しかし、興味はあることにはすごい集中力を見せる。短期間での上達が速いのだが、冷めやすい性格でもあるので長続きしない。
人付き合いは相手に合わせるタイプで自分から主張することが滅多にない。それが私だ。
ある日、夜遅く仕事から帰ってきてマンションの扉を開けると見知らぬ場所に出たという、何ともお約束な展開だ。引き返せば良かったのだが、運悪く既に扉をくぐった後であるため消えた扉に気が付くことも出来ずに異世界に取り残された。
途方にくれている中でようやく人に会うことができ、事情を話して1年間世話になった。その世話になった人たちがとんでもなく、素手で地面から岩石を持ち上げるわ、木刀で林を切り株だけにするわ、おまけにファンタジー世界特有の魔法では一発で山を消すわで常識を超えた人達だった。
しかし、それは異世界、ここではレベルがありそれによって強くなれるというのだ。それなら、強い人はこの人たちくらいのが普通と思って、修行にあてくれた。正直、何度臨死体験を味わったことか・・・。
そのおかげもあり、1年で合格を貰い卒業。1人で世界を回る許可を貰え、今住んでいる都市に辿り着いたのだ。結局、最後まであの人たちに勝てなかったのが心残りだが、それは仕方ないと半分諦めている。
そんなこんなでダンジョンの上に町がある、通称『探索都市/クエストシティ』の1つであるこの都市で暮らしている。ダンジョンに現れるモンスターを倒し、指定されているモンスターの一部を持って行き換金、組合からのクエストをこなして報酬を貰う、これが生活のサイクルになっている。
あの人たちの下で少し強くなったつもりがここに来て、そんなことはなかったと改めさせられる。スライムという如何にも雑魚っぽいモンスターに苦戦させられるのだ。そう思ってしまう。周りの人はそれより強そうで大きいモンスターを駆っているのに、情けない話である。
こんな私のどこに惚れたから知らないが、結婚してくれたキシュにはとても感謝している。
「あ!アキさ〜ん!」
「・・・お〜。」
物思いに耽っている内に組合に着いていたらしく、玄関で掃除をしていた人物に名前を呼ばれた。その人物は掃除を中止して私のもとに走ってきた。
「おはようございます!今日も早いですね!」
「いや、早いのはそっちだよワルム。」
「これが仕事ですので!」
ない胸を強調するかのように張るのは、ここ組合で受付嬢をしているワルムという女の子だ。
少し小柄で寝癖のようにはねている髪が印象に残る娘だ。年は15歳で、この世界では10歳で仕事に就くのが普通のことのようで驚きもしない。いや、最初は驚いたが異世界だと納得した。
来ている制服も学生服を思わせるデザインで、そのお蔭で胸の大きさが強調され男の冒険者からは人気の職業でもあるらしい。ワルムの場合はない胸がさらに強調されているので、何か哀しく思ってしまう。がんばれ、お兄さんは応援しているぞ。
「キャメリは来てる?」
「はい!既に受付でお待ちです!」
「了解、お勤めご苦労さん。」
「アキさんこそ、お気を付けて!」
元気があってよろしい。
私は掃除を再開したワルムを後にして組合に入っていった。
「朝早めだから、結構静かだよな。」
組合の中は数人の冒険者と受付嬢だけで騒がしくなかった。ま、私が騒がしいのが嫌いなのでこの時間帯に来ているわけなのだが。
「いつも通り、予定通りのお時間ですね。」
突然、受付から声を掛けられてきた。
「冒険者は信用が大切、でしょキャメリ。」
「はい、覚えているようで私も嬉しい限りです。」
無表情のままで私と話しているのが、受付嬢のキャメリで長年この職に就いていて何人のも新人を教育している。ワルムもその1人だ。
この世界の女性の平均身長155cmくらいで赤い髪をしている。いつも被っている少し大きめのベレー帽がとくに印象的である。釣り目で結構怖いイメージを持たれるが、可愛いもの好きというギャップがある。制服はワルムたちと違い、ショールのような物を羽織っている。これは一人前の受付嬢という証であり、認められた人のみ羽織ることを許されるのだ。デザインは指定することができ、個人のイメージを入れている人もいる。
キャメリのショールは何の変哲もなく、組合のマークを付けている。しかし、私は知っている。いつの日だったか、寝ぼけていたのか裏返していて猫のマークが描かれていたのを。さすがにそのままでい行けないと思い、さりげなく注意しておいた。顔を真っ赤にして急いで元に戻したところは可愛かった。
実はこのキャメリには他に秘密があるのだが、本人が気にしているので私は気にしないようにしている。
「今日も1人で?」
「そうそう、いつも一緒のことで私1人。」
「そうですか。もう注意する気もないので、これだけは言っておきますが。」
「あまり深い階層に行かずに、危険と思えばすぐに引き返せ、でしょ?」
「よろしい。その低能な脳でも理解しているようで何よりです。」
このやり取りも名物と言えるくらいやってきた。
「では、十分に気を付けてください。」
「りょ〜かぁ〜い。あっ、そうだ。キシュがよろしくって〜。」
「・・・・わかりました。こちらこそと言っておいてください。」
これも何回やったか分からないやり取りである。
私は組合にある大きな扉の前に来て、冒険者カードを掲げた。すると、カードが少し眩しく光り扉が開いた。
便利なのもである。魔法でカードが扉を開けるキーになっている。複製も難しく、管理もしっかりしている。
「じゃあ、いつも通りにいきますか〜。」
武器を片手に持ち、カバンを背負い直して地下に続く階段を下りていく。
しばらく階段を下りて行くと広場に出る。これはダンジョンにある安全地帯で『セーフゾーン』と呼ばれている。ここでギルドが商売をしていたりする。ダンジョンに挑む前の最後の準備期間だ。
朝早いのか、まだ商売の準備中のようでワタワタしている。余談だけど、私はこの商売の準備を見るのが好きでもある。補足しておくとこの世界のダンジョンは地下に降りていく系となっている。たまに隠し部屋なんかもあるらしいが、未だに見つけたことはない。
「また1人で挑戦か?」
「ん?お〜、パシオンも早いね〜。」
「あ、ああ、そうだな、奇遇だな。」
「そうだね、かれこれ連続153回目の奇遇ですな。」
「そ、そうだ、奇遇だ。」
そんなわけあるかぁ〜い!そっちはギルドの仕事でいるだけしょうに。まあ、心優しい私は深く追求しないのだ。お仕事ご苦労様です。
彼女はパシオンと呼ばれる、この都市では少し名が売れている女性冒険者だ。翠髪で前髪を右上がりで切り揃えているオカッパヘア、鎧を着ている剣士だ。鎧と言っても何も体中を覆っているわけでなく、お腹、胸と脚と腕といった戦闘で動きやすい恰好をしている。武器は片手剣を腰に付けている。 ただし、鎧は胸の大きさは分からないタイプの型で彼女の胸のサイズは分からない。男の冒険者の間では胸の大きさの議論が続いてる。私はどっちでもいいから参加していない。背は私より少し、すこ~しだけ高い。
「いい加減にどこかのギルドに入ったらどうだ?組合からの特典もあるし、ダンジョン攻略も楽だろ?」
「確かにそうだけど、私は1人が気楽なんだよ〜。誰かに命令するのもされるのも嫌いだからね〜。」
「はぁー・・・。分かっていた。だが、気が変わったのなら声を掛けろ。私のギルドの連中もお前を気に入っている。」
「その時にね〜。」
パシオンが所属しているギルドは『燃える魂/バーンソウル』は戦闘向きのギルドで彼女はそこの幹部の1人だ。あそこ暑苦しいから嫌いなんだよな〜。リーダーは『炎の剣闘士』って言われるくらい熱いのだ。物理的にも。
「あ、キシュがよろしくってさ。」
「ああ、分かっている。よろしくするさ。」
「じゃ〜ね〜。」
「ああ、気を付けろよ。」
なんでキシュは私がダンジョンに行くたびに2人への伝言を頼むのだろう。謎である。
パシオンと分かれて奥に進むといくつかの分かれ道にでた。ここから誰が呼び始めたか知らないけど初心者向けや上級者向け、死亡願望向けなどに分かれている。
私は先生たちからお知られたとおりの道に進んでいる。先生たちからは3つの道を教えられ、順番に攻略していけとのことだ。お恥ずかしいことか、まだ1つ目を攻略できていない。
今日こそは攻略を目指して頑張ろう〜。
「さ、いきますかぁ〜。」
私は警戒を強め、指定された1つ目のルートにチャレンジする。
―1時間経過――
「これでっ、5匹目っ!」
「・・・!?」ブクブク
私の武器である、刀がスライムを切り裂いた。スライムは光りになって消えていった。消えた後には少しのスライムの一部が落ちている。
「5匹目で2個目のスライムゼリーゲット〜。今日は運がいいのかな?」
モンスターは倒されると体の一部を落としていく。これがドロップアイテムであり、ダンジョン攻略の成果であり冒険者の資金の元だ。しかし、倒せば必ず落とすという甘いことはない。このように5匹倒して、よくて1つ落とすのが普通なのだろう。
「ここのモンスター、数は少ないのに強くてドロップ成果は大体1日で5つだから割に合わないよな〜。」
愚痴ってもしかたないので、ゼリーをビンに詰めてカバンにしまう。普通は奴隷なんかを雇うのものらしいけど、面倒くさいので私は雇っていない。だって、トリップ先で異世界の住人の奴隷を買ったり雇ったりすれば面倒事は避けられないのがお約束な気がする。
「前にこっちのルートに行った人も1人だったしね。こっちも必ずしも奴隷を雇うわけじゃないかもね〜。」
そう、なかなかこっちのルートで人に合わないのだ。初心者過ぎで誰も来ないのだろう。出てくるモンスターもスライムに蝙蝠、スケルトンが主なのだから当然なのだろう。
「先生たちも、もっと簡単な探索都市を紹介してもよかったのになぁ〜。意地悪なんだよね〜。」
サシュッ!
言ってるそばから今度は後ろから蝙蝠が襲ってきた。面倒なんだよな、ここのモンスターは。
スライムは音もないので察知しにくいし、蝙蝠は羽音が近くでしか聞こえないくて後ろから来るから反応遅れるし、スケルトンは土に潜っていている潜伏タイプだし、たまに出るレアモンスター?のレイスは魔法が鬱陶しいし、どんだけこの町の冒険者のレベルが高いのか考えたくない。
「おお、蝙蝠は1匹目で牙ゲット!今日は運がいいのかな?」
ヒュンッ! ドッカーン!!
体を横に移動させると、すぐ横を火球が通り過ぎて爆発した。
「不意打ちって酷くないかな、レイスさんや〜。」
まあ、魔法の気配が分かっていたから避けられたけど。今度はレイスが音もなく浮かびながら2匹こっちにやってきた。
「まあ、こないだのスライム5匹にスケルトン2匹、蝙蝠7匹が一気に出てきたときよりはマシだけどさー・・・。」
そう言いながら、私は刀を脇構えにして戦闘準備を行う。お互いの間に静寂がはしり、睨み合いが続いた。
「・・・!!」
先に動いたのはレイスの1匹で、炎の魔法を放ってきた。
「せいっ!!」
刀を脇構えから一気に振るい、その斬撃の衝撃で炎ごとレイスを一刀両断した。まず1匹。
「もういっちょっ!」
素早く振り上げた刀を持ち直して、右足を踏み込むのと同時に斬撃を飛ばす。
「!?」
2匹目のレイスは何も出来ずに切り裂かれ消えていった。ドロップ結果はなしである。
一応、周りを警戒して敵の姿がいないのを確認してその場を後にした。
しばらくして小腹も減ったので弁当タイムにすることにした。
どのルートでも途中でセーフゾーンがあるのだが、このルートはまだ辿り着いたことがない。よって、周りの敵を殲滅してからの食事なのだ。
「モグモグ・・・うまいね〜。」
一人で食べるダンジョン飯は何かつらいこともあるけど、慣れてしまっているので気にしない。
それにたまにこうして休憩していると人を見かけるのだ。っと、言っているそばに。
「あんた、何しているんだ。」
おおう、メッチャ軽装備でここまで来たのか。はやりこの都市の冒険者はレベルが高いみたいだ。
それにしてもこのルートで4か月ぶりに人に会ったな。
「なにって飯くってるよ?」
「・・・そうか。」
何か滅茶苦茶に落ち込んでいるようですな。顔を疲れているように見える。装備から見るにお金に困ったが冒険者としては初心者過ぎて、己の実力に絶望しているのかな?
「なんで、あんたはここでそんなに楽しそうなんだ。こっちは遊びで来ているんじゃないだぞ・・・。」
声に覇気がない。どうやら私も考えは正解のようだ。気持ちは分かるぞ、先生たちの実力を目のあたりにした時は私も絶望したものだ。これは元気づけてやれねば。
「遊びってことはないけどね。どうしたの、そんなに落ち込んで?まだ若そうだし諦めるには早くない?」
「うるさいな。俺にはもう何も残っていないんだよ。なにもな・・・、もう諦めるしかないんだ。」
おおう、これは重症みたいだ。少し真面目に話しをしようかな。
「本当に何も残っていないの?」
「・・そうだ、なにもない。ここまでなんだ。」
「そうかな?ならここまで来ないでしょ?」
結構な実力の持ち主と思うけどな。
「運が悪かったんだよ。」
どうやら、モンスターの攻撃が予想以上に激しかったようだ。
「で、本当に何も残っていなくないのにここで諦めると。」
「・・・あんたなんかに何がわかるんだ。本当に何も残っていないんだよ。」
「いや、残っているね。断言できる。」
「え?」
私は日本からこの世界に何も持ってない状態で来た。言えば、あっちでの生きた証なんかも残っていないの状態だった。でも有るものある。
「今までの思い出は残っているでしょ?」
「思い出・・・。」
「本当に何も無くしたのなら、ここまで来ないよ。寧ろ何もしたくなくなって動きも出来ないはず。ここに来たのは無意識に救いを求めてじゃない?」
「説教か?一度も何も失ったことがないような奴がいい身分だな?」
「あるよ、失ったこと。」
「なに?」
「だから、一度全部無くしているんだよ私は。」
「・・・・。」
男は俯いて黙ってしまった。
私にはあっちで生きてきたことを証明する物はないが、生きてきて経験したことは自分自身の中に残っている。
「そりゃ、生きることで苦しいことは忘れないくらいあると思うけど、それ以上に嬉しかったことは確かにあったしそれは苦しいこと以上に忘れられないものだよね?」
「・・・嬉しかったこと。」
「そうそう。私も助けてもらった身だからきっと大丈夫とか無責任なことは言えないけどさ、人生そうそう捨てたモノじゃないと思うよ?私は今、何もない状況からこうして冒険者やっているしね。」
「・・・・。」
どうかな?少しは悩みを軽減できたのならいいけどな〜。
「俺にも。」
お?
「俺にも、出来るかな。もう一度最初から・・・。」
「それを決めるのはあんた次第じゃない?まあ、こっちも話した手前、何の手助けもしないわけにはいかないけど。」ゴソゴソ
私はカバンから今日の戦利品の1つであるレイスからドロップ出来る大きな布を男に渡した。ここのモンスターのドロップ品の中では換金した時の金額は一番多い。
「はい、これ少ないと思うけど取っておいてよ。」
「いいのか?それはあんたの物だろ?しかもそんな高い物を・・・。」
「まあ、これは私の自己満足みたいなもんだからね〜。今度は私が少しでも手助けしたいんだよ。」
「・・・・わるい。」
「そう思っているならさ、私が困っていたなら次はあんたが助けてくれればいいし、他の人を助けてやればいいよ。経験した人じゃないとさ、話に重みもないしね。」
「ああぁ、あんたみたいにやってみたい俺がいるようだ。」
しばらく男は静かに泣いていた。同じ男なので、ここは黙って泣き止むのを待ってやった。
それからしばらくして男が泣き止み、折角なのでダンジョン攻略を中断して男を受付まで送っていくことにした。キャメリにはお人よしと言われ呆れられて、ワルムには尊敬の眼差しを向けられた。正直、こそばゆかった。
受付で戦利品を換金すると全額で25,000フォルチだった。日本円で言い換えれば、10フォルチで1円くらいなので2,500円となる。途中で探索を中止したとはいえ少ない稼ぎである。いつもの稼ぎの半分くらいである。ちなみに硬化は3種類に札が2種類である。銅貨=1フォルチ、銀貨=100フォルチ、金貨=1,000フォルチ、下札=5,000フォルチ、上札=10,000フォルチとなっている。
この世界で冒険者が1月に消費する平均額はおよそ500,000フォルチである。武器や防具の購入や手入れ、税金、食費と宿賃なども含まれる。これは冒険初心者が頑張って20日で稼ぐことが出来る金額だ。これにより私は初心者よりは実力が上なのは分かるが道のりは遠い。
私のお金の使い道といえば武器の手入れと食糧、税金に消えるので中々贅沢できないでいる。今日みたいな人助けもたまにやっているが、後悔はない。少しずつ貯金もしているのだ。その3年分の貯金で家を買うことが出来た。
私は換金を済ませ、冒険組合を後にした。
いつもより早いが家に帰ることになり、少し心苦しいがキシュに今日の出来事を話すことにした。夫婦の間に後ろめたい隠し事があってはいけないのが私の人情だ。
普通は少ない稼ぎに呆れるか怒るかしてくれれば、こちらも少しは気が楽になるのだが。
「貴方らしくて素敵です。」
これである。私に対して非難の言葉が出てこない。これでは、本当に私を好きで結婚したのか少し疑いたくなる。いやね、信じているよ。信じてるけど、こうもね、私にどこまで着いていきますの姿勢は嬉しいし好みなのですが、こうも喧嘩の1つもないと不安になるのですよ。
しかし、結婚してお世話(生活管理)されている身としては何も言えず、早く帰って来ては家事を手伝うことしかできない。
「座ってていいんですよ?」
「いや、手伝いたい気分なんだ・・・。」
こうでもしないと私がキシュの役に立つ機会がないのだ。
そんなこんなでもう夕食の時間になりました。本日のメニューはベースをアオマトをベースとし青色の鍋である。ちゃんと野菜多めなので栄養面も大丈夫だ。ちなみにアオマトは青いトマトをイメージすればいい。味もトマトに似ている。朝食に食べたカッポチは皮が薄いカボチャである。
「・・・・。」
美味しいです。結局食器の準備しかできなかった私は夫失格でしょうか・・・。
「美味しくありませんか?」
「いや、美味しいよ〜。」
「よかったです・・・。」
ああ、その笑顔が心にしみるぅ〜。全国のお父さん、これが結婚した後に付き合わないといけない有能な妻との自分の差を感じるやつですか?前の世界のお父さん、今までバカにして御免なさい。
「あなた。」
「ん?なに?」
もしかして顔に出していたかな?これは失敗の予感が・・・。
「私は今、とても幸せです。」
「・・・・。」
しなかったようです。恥ずかしいです。こう真正面から言われたるのに弱いのです。それにしてもタイミングがいいな。
「あ〜、その〜・・・・、私も、キシュが結婚してくれて嬉しいよ。」
「はい♪」
あ〜、照れ隠しに目が泳いでしまった。その笑顔は反則ですよ奥さん。15歳でその身長とプロポーションと美貌は本当に反則です。
15歳で結婚であっちの世界では犯罪だが、この世界では普通らしい。10歳で結婚相手を決めるくらい普通のようで最初は驚いたのです。まあ、これがこの世界の常識であるのなら、よその世界出身の私はそれに従いましょう。先生たちの異常な身体能力も、高レベルだったらあれが常識なのだろう。
「・・・あっ、そういえば玄関先が少し荒れていた気がするけど何かあったの?」
本当に少しの変化だったが、話題を変えないとやっていけない。そのくらい内心ドキドキなのです。
「あれは・・・その・・・勧誘が少し長引いてて、その、直接的にお話を・・・。」
「勧誘?ギルドや新聞?」
直接的ってなんぞ?
「・・・そんなものです。」
どの世界でもその手の勧誘はあるんだよな。結構しつこいんだよね。よし、ここは頼れる夫を演じてあげて。
「でも、大丈夫です。もう来ないくらいお話ししましたので。」
できなかったよ。なに私の妻、有能ですわ。
「そうか〜、助けになれなくてごめんね。」
これくらいしか言えねぇ。
「そんな、私のことをそこまで心配してくれるだけで私は満足です。」
え?そうなの?・・・本当のようだ。キシュの顔が今日1番にいい笑顔である。幻覚かな、周りにマンガによくあるキラキラが見える。
「手助けと言うなら、私、子供が欲しいですぅ・・・。」
「ブフゥッ!?ごほっ、げほっ・・・。」
む、むせた・・・。不意打ちすぎるよこの娘。いきなりミサイルランチャー撃ってきやがった。
「そこまで驚かなくとも・・・。」
「い、いやね、結婚したしね、もう夫婦だしね、その話もくるかもと覚悟していたけどさ、そんな行為も何回かしたけどさ、子供って早くないっ!?」
「何を言っているんですか。結婚してもうすぐ半年ですよ、子供が欲しくなってもおかしくありません。」
「そ、そういうものなの?」
「そうです。ここではこれが普通です。」
ま、まじか!この世界の常識は計り知れん!
「でもですね、色々問題といいますか、計画があってですね。」
「貯金でしたら、きっとそう遠くない未来で解決しますので大丈夫です。」
え?なんで将来の為の貯金のことを知っているの?
「妻の情報網を甘く見ないでください。」
「まだ何も言ってませんが・・・。」
「妻たる者、夫の考えを顔で察し出来ないでどうしますか。」
「まだそこまで経験を積んでないよね私たち!?さっきキシュも言ったけどまだ半年だよ!?」
「愛の深さに年月は関係ありません。」
なに、なんなのこの娘、なんで今日はこんなにテンション高いの?
「・・・それにさ一番の問題はさ、そこじゃなくて・・・。」
「分かっています、異世界人と結婚しての出産率は非常に低いということですね。」
「まあ、ね。」
キシュには結婚した初日に私が異世界人ということを明かしている。しかし、キシュは全く問題にならないようで笑顔で「なら、たくさん子づくりしないといけませんね」と言ってくるしまつだ。
「前にも言いましたが、その程度のことが何の障害になりましょうか。」
「でもさ、その、初代冒険者組合長も異世界人だったらしいけどさ、奥さんがたくさんいたのに結局子供は2人しか生まれないでその血筋も潰えたって話だし。」
そう、すでにこの世界には私以外の異世界人が来ていたのだ。その異世界人によって生活の改善などが行われたのだ。都市の道が綺麗なのはこれが理由だ。他にも色々改善しているけど、それはあとで。ちなみに組合の制服があっちの学校の制服みたいなのは、初代の趣味のようだ。ロリコン?制服フェチ?
「それが私たちに何の問題になりますか。それなら、初代組合長たちより努力をすればいいのです。私は本気であなたの子供が欲しいです。」
「あ〜・・・・ありがとう。」
そこまで言われてはこっちも覚悟をしないと男ではない。
「その、私も頑張るからさ、お互い頑張るってことで。」
「あなた・・・。」
感動したようにキシュは涙目になった。私なりに頑張って覚悟を表現したけど伝わっただろうか?
「では、さっそく努力を実行しましょう!」
「・・・はい?」
「実はすでに準備は出来ています!寝室の準備もお風呂の準備も完璧です!」
「ほんとにどうしたの今日は!?何かめっちゃっテンション高くない!?」
「何言っているですか!今頑張ると言ったじゃないですか!」
言いましたけどさ!そんなすぐに行動しなくてもよくないかなっ!?
「あ、明日の準備を。」
「明日はダンジョン攻略はお休みの日です。」
「しょ、食器の片づけを。」
「そんなの水に浸けておけば、明日やりますので!」
「・・・こ」
「今はちょうど子供が出来る準備期間なので、確率は少しでも上がっています。」
た、退路がない、だと。
ガシッ!
「では、早速イキましょう。準備しておいたあの下着を披露します。」
それは楽しみな気がしますけど、目が、目が怖いんです!少し息も荒いよ!?
それになんでこの娘、こういう時だけ力が上がるの!?地味に振りほどけないんだよ!
「さあぁ、いっしょに、なりましょぉぉ。」
あ、ダメ!は、離して、て、あああーーっ!!
このあと無茶苦茶夫婦の愛を深め合った。
こんな感じで私は異世界で結婚生活を満喫?しております。正直、何が常識か分かりません。
お疲れ様でした。
楽しんでくれたのなら嬉しいです。
世界設定など色々不明な箇所があっと思いますが、それはこれから少しずつ説明してきます。
思い付きの投稿となっているので、投稿スピードは遅めです。
登場人物紹介は少し先となります。
次回は1話の夫以外の視点で投稿します。