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関わりたくないひと  作者: ハシドイ リラ


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11/11

11.

妹にコテンパンに締め上げられたロージンは大人しくなった。

……いや、恐らくだが妹にコテンパンに締め上げられたことは1番の理由じゃない。

今まで自分が偉大だと思っていた根拠、子爵家嫡男というアイデンティティが崩れ去ったのが1番だろう。


"男爵?子爵家嫡男と対等に口を聞くな!"

"侯爵子息?三男で卒業後は平民だろう?"


自分より下だと見下していた者たちが、自分では登れない高い所にいると知って。

……そしてそれでもまだ残っていた唯一の拠り所。子爵家の嫡男からも外れると分かって。

辛うじて学園には通っているが、この先どうするべきか道を見つける事もできないのであろう。


可哀想ではあるが、私にできる事は少ない。

もう、嫡男に戻してやるような甲斐性はないのだから。

せめてもの償いに裕福な商家への婿入り先くらい見つけてやれないか、両親に相談してみよう。










「旦那様っ!ロージンが嫡男を外れるとはどういう事ですかっ!あの子は子爵である貴方の息子でしょう?そんな事あって良いはずがない!」


わたしは必死に抗議した。だって!だって自分の息子が嫡男では無くなるなんて!そんなの!


「そんなの、恥ずかしくて取り巻きに言えないじゃない!」


そう言って抗議するわたしに、初めて強い口調が返ってきた。


「君と!君と全く同じ過ちを犯したんだ!もっと早くっ…早く君から離して教育していればっ…。」


「わたしのせいにしないで頂戴!教育方法は貴方達が仕切るって言ってたじゃない。酷いわ!」



「ロージンはな、君と全く同じことをやらかした。エヴルー男爵令息に向かって最下層の分際でって怒鳴りつけたらしい。」


「男爵子息程度ならそのくらい言われても仕方ないじゃあないですか。そんな事を大袈裟に」


「従属爵位だよ。」


「へ?」


「エヴルー男爵も従属爵位なんだ。お父上は引き継ぎ後ダルムシュタット侯爵になられるのだ。ロージンが怒鳴り付けたのはその嫡男だ。お前の愛するロージンは、お前と同じく侯爵家の者に喧嘩を売ったんだよ。」


「なっ、なんなのよ!みんなっ!従属だのなんだのって!そんなに偉そうにしたいなら最初からそう言えば良いじゃない!何なのよ人を見下して!」


「見下したも何も。全て君がやっている事じゃないか。……まあ良いよ、もう全て遅いんだ。」


哀れを隠さない微笑みで最後の言葉を突きつけられた。


「あと10年。テンタイオに爵位を譲ったら、君の実家の伝手を使って隣国に行く。その時までに自身の身の振り方も考えておきなさい。」


そう言いながら部屋を出て行こうとし、


「ああ、そうだ。」


ふと立ち止まりわたしに死刑宣告をして出ていった。


「私は10年子爵として盛り立てねばならない。だから子爵としては異例だけど第二夫人を迎えることになった。こちらの邸は君がこのまま使って良いが…。私が来る事は殆どないだろう。」




※※※※※※





「まあ!ミニーモ子爵夫人、お元気そうでよろしかったですわ。その…お話はお聞きしていましたから。」


心配そうに話しかけられる。……いいえ、分かってる。だって自分がやってきた事だもの。あれは心配している声ではないわ。わたしをバカにしているの。


第二夫人を迎えて夫が貴族向けの夜会に復帰した事は、この低位貴族と平民しかいないような底辺の夜会でも知られてしまった。

その辺りからわたしに侍っていた取り巻きたちがどんどんと離れていった。


近づいてくるのはさっきみたいな当て擦りをしたい人だけ。子爵夫人というステータスが無くなれば旨味がないもの。


ああわたしは一体何をしていたんだろう。

優雅に。人よりも上に立って。憧れの眼差しを一身に受けて。やっかまれても鼻で笑って殿方を味方につけてやり返して。


そんな事よりもやらなければいけない事はたくさんあったのだと今更思う。でも何もかもが今更だわ。

あと数年で子爵夫人というステータスを失うどころか、元子爵夫人として尊重されるなんて未来もない。

実家を継いだお兄様にははっきりと実家に居場所はないと言われた。


「お前、俺の妻になんて言ったか覚えてるか?」


"落ちぶれた男爵令嬢風情が裕福な商会の跡取り夫人なんて随分な成り上がりだわね"

"ああ嫌だ、お貴族のお嬢様って聞いていたのになんて貧乏くさいのかしら"


「旦那様、それくらいでね。」


あの頃とは反対に、わたしを蔑む言葉が次から次へとかけられる。


「裕福な商会でお育ちになったご令嬢が元とはいえ落ちぶれた男爵令嬢風情の情けに縋って生きようなんて、思ってらっしゃるわけないじゃない。」


「何たって子爵夫人でいらっしゃるもの、平民となんて暮らせませんよねぇ。」





結局10年を待たず、5年ほどで子爵位を譲った夫はわたしに離縁を申し入れてきた。


「今ならまとまった金を残してやれる。私に付いて隣国に行けば平民だ。テンタイオの計らいで、ロージンは結婚するまでは子爵子息を名乗って良い事になった。結婚後?それはお相手によるだろうな。上手く貴族家に婿入りできれば良いが…。まあ、確実に平民となる私よりもまだ貴族でいられる可能性はあるんじゃないか。他国で平民からスタートなんて、プライドの高い君には耐えられないだろう?この邸はロージンが貰い受けて良いそうだから、力を合わせれば2人で生きていけるだろう。」


ロージンは子爵家から仕事を貰えた。おかげで贅沢しなければ親子で暮らしていく事ができるくらいの給金が支払われている。

……何から何まで使用人にして貰っていた頃が懐かしい。今の給金では最低限を任せる通いの使用人を1人雇うのが精一杯だ。



わたしは。わたしは。優雅に生きていける場所が欲しかっただけなのに。



そう思いながら、今日もロージンの帰りを待つ。

最近やっと慣れてきた手つきで、通いの使用人が作り置きしてくれた夕飯を温めながら。

……明日も、明後日も。この先ずっと。




※※※※※※




「君は良かったのかい?私と離縁すれば祖国で過ごせていただろうに。それに今の君なら再婚相手だって簡単に見つかっただろう?」


隣国との間には大きな川がある。丸一日の船旅だ。部屋で過ごすのに早々に飽きてしまい、景色を眺めに行こう、と妻を誘った。少し冷たい風を受けながら問う。


「何をおっしゃってますの?もう5年ですよ。これでハイさようなら、なんて言われたらわたくし化けて出ますわよ。」


彼女は第二夫人としてわたしを良く支えてくれた。だが、彼女が選ばれたのは"継承問題をこれ以上ややこしくしないため"という周囲の思惑が滲み出たものだった。


彼女の1度目の婚姻は子供ができないから、という理由で破綻になった。血を繋がねばならない貴族としては致し方ない点もあるのだが、それにしても彼女の婚家の態度は酷かった。

離縁された当時、得意げに語る元夫の口ぶりに全くの無関係であった私でさえ嫌な気持ちになったものだ。

そんな、行き場をなくした彼女を私の両親が連れてきたのだ。第二夫人に、と。

だから彼女の自尊心はとても低かった。公の場であの調子だ、私邸での扱いなどそれより高いなどと思えないからな。


「それに、貴方のおかげで元夫にも一泡吹かせてやることが出来ましたしね。」


イタズラっぽくいう彼女だが、あれは私も小気味良かった。


"我が家では役に立たないと思った女でも拾う男がいるものなんだな。"


新しく娶ったらしい胎の膨れた女を連れて私の元に嫌味を言いに来た時は腹が立って仕方なかったが。


「貴方はこんなに可愛い子を授けてくれたんですもの。ふふっ、私のお腹を見た時のあの人の顔ったら!今思い出しても笑ってしまいます。」


そう。後継問題に煩わされないために選んだ妻が妊娠したのだ。

元夫殿は目が飛び出しそうな顔で驚き、後妻の顔色は真っ青から真っ白へと。


「確かにあれは小気味良かったなあ。……あそこのご嫡男は最近舞台俳優に似てきたとか何とか。」


2人でひとしきり笑ったが、妊娠が分かった時我が家は大騒ぎになった。


アンジランは弟か妹が出来ることに純粋に喜んでいたが、両親は後継問題を考えて頭を抱えていた。


「アンジランがいるのにその下の子に後継云々は考えていませんよ。父上がアンジランを手放さずに私たちに育てさせてくださったことに感謝しておりますし、これ以上問題を大きくする気はありません。」


父上が驚きの表情で叫ぶ。


「ええっ!せっかくの子を堕ろすとでも言うのか!」


あまりにも明後日の方角にズレた解釈を慌てて否定する。


「違いますよっ!少し早いですが、テンタイオに爵位を譲らせて欲しいのです。」


そう、5年も早くなったのはこの子のためだったのだ。幸い女の子だったので話はそこまでややこしくはなかったのだけど、夫婦で決めたのだ。


新天地で親子4人やって行こう、と。


「あっ!ニーナ!父上と母上は今夫婦の大切なひとときなんだよ!こっちで兄様と待っていよう!」


アンジランは早くにカンティーナから離せたおかげで貴族の常識も学べた。結局平民になってしまったわけだが、決して邪魔になるものではない。

カンティーナの実家で引き取るとの話もあったけれど、あちらはあちらで後継問題が出れば肩身が狭くなるだろうから、とアンソワが言ってくれた。


カンティーナの実家も代替わりしていて、とても常識的な義兄殿が仕切っているので、こんなややこしいことになった元凶の妹の責任を取る、という事で隣国で商会を1つ任せてくれることになったのだ。

元妻の実家を頼るのは些かバツが悪いものだけど、アンジランは甥っ子だから不幸にしたくないとも言ってくれたので覚悟ができた。



「アンソワ、そろそろ部屋に戻ろうか。冷えていないかい?」


「そうね、少し寒くなってきたわね。ふふ、子供達とひっついてあっためてもらいましょう!」


そう言って小走りで部屋に戻っていくアンソワを見つめながら。



この平穏が長く続きますように。


そう願ったのだった。

これで一旦おしまいです。ご覧いただきましてありがとうございました!


うーん、連載に煮詰まって短いのを一丁書いてみるか!と始めたはずが3万字越え。なかなか思い通りにいかないものです。

そして、話はほぼ出来上がっていたのになかなか投稿まで辿り着けなかったのは…。

エピソードタイトルが!タイトルが思いつかなかった!というお粗末な理由です。

考えても考えても思いつきそうもないので、とりあえずアップして良いのが思いついたらタイトル付けるかも?見切り発車ですいません。


ロージンも結構キャラが強いので、長すぎカット!と思った文章が沢山あったりします。

このまま勢いでロージン主人公で一本書くか、連載に注力するか…。連休中は悩む事になりそうです。




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