2.海底都市
それから少しして、ようやく“到達点”が見えてくる。辺りは真っ暗なのになぜかそこは昼のように明るく、そして一つの街のような景色が見えた。
こんな海の底に、街?
ゆっくり降り立った場所は遺跡のような外観で、大きな岩が数個と祠のようなもの、廃れた建築物。歴史書やニュースで見るような大昔の古代遺跡を連想されるものだ。
キョロキョロと見回すが、他に人の気配もない。果たして“人”がいるのかも怪しい。
もし明らかな異形の化け物がいたらどうしよう。と少女は初めて怖気付いた。
その時、突如として背後から腕を掴まれる。
「ッ!!?」
驚いて振り返ると、向こうも驚愕の表情を浮かべていた。
「…お前…?」
「……」
深い蒼髪の青年だ。歳は少女と同じか少し上くらい。背丈も少女が見上げるくらいにはあり、どこかの民族のような和装であった。
あんまり驚いて、少女は青年を見つめたまま固まってしまった。
「何者だ。なぜ、ここにいる」
「……っ」
おおよそ数時間振りの会話。それも聞き取れる言語での。
なぜ“そう”思ったかは少女自身分からないが、彼女は確かに自覚した。“ああ、逢えた”と。
それは安心感からかもしれない。
思った瞬間、少女はポロポロと涙を流していた。完全なる無意識である。
「…ッ!?ちょ!?」
ギク、と効果音でも聞こえるような分かりやすい動揺を見せた青年。涙が止まらない少女は嗚咽し始めた。
「っ、ひっく、」
よくよく考えてみれば、少女は“天涯孤独”となったのだ。世界でひとりぼっちになってしまったのだ。
そう理解した途端、猛烈な孤独感に苛まれた。
「…ついて来い」
ぶっきらぼうに聞こえるが、声は非常に柔らかい。青年の誘導に、少女は大人しく従った。「会ってほしい人がいる」ということだった。
青年が向かった先は遺跡から離れた場所にある神殿で、そこに待ち人がいるらしかった。
「ヒエン。連れてきた」
中に入り青年がそう声をかけると、奥から一人神主装束の青年が現れて。
「ああ、セイラン。彼女ですね」
優しそうな顔立ちの青年だ。こちらも少女と同じか少し上くらい。
互いに“ヒエン”“セイラン”と声をかけたのを見ると、どうやらそれは彼らの名前らしい。
少女が蒼い髪の青年を「セイラン…?」と確認すると、ヒエンと呼ばれた青年が嗜める。
「セイラン。もしかして彼女に名前を教えていないのですか?」
「今会ったばかりだ。それに、自己紹介よりお前に会わせるのが先決だと判断した」
どういう事だろうと、少女はオロオロする。
「すみません、僕は澄乃江 陽苑。陽苑とお呼びください。ここで神主をしています。で、彼が宇津木 聖藍。僕が貴女をここへお連れするようにお願いしていました」
「…陽苑……聖藍…」
「はい。差し支えなければ、貴女のお名前をお伺いしても?」
不思議と、悪い人ではないと思えた。
「…朧月、神流…」




