エピローグ
ところで。
サンディや由利香や椿の方はどうなったかって?
ディナーが始まる少し前に、再びサンディが『はるぶすと』を訪れていた。
「ホーッホッホッホ、いやあ、《あまてらす》と過ごした一夜は、本当にたのしかったよ~」
彼はとっても上機嫌で、心なしか来たときよりも肌つやまで良くなっているようだ。
「日本ではこの時期、ゆず湯とか言うのに入るんだねえ。とっても良い香りだし、ずっとポカポカしてるし。サウナも良いけど、湯につかる日本の風呂もいいもんだねえ」
「うわ、ゆず湯っすか、いいっすねえ。俺たちも去年入りに行きましたよ。また行きたいなあ」
「うんうん、また行っておいで。ところで、ディナーの方はどうなってるの?」
「はい! これです!」
元気よく返事した夏樹が、ディナーセット一式をサンディに渡す。
それを受け取るとサンディは、うん、と一つ大きくうなずいた。
「じゃあ、また来年」
「またね」
「サンディまた来て下さい~」
来たときと同じく、ぎゅうと温かいハグをしてくれるサンディ。
また握手だけで終わらせようとしたシュウも、当然ハグの餌食? になっていた。
ただ、苦笑しつつそっと伝えたシュウの言葉に、サンディがことのほか喜んだのは言うまでもない。
「ではまた、300年後にも」
そしてここは椿と由利香のマンション。
リビングにはテーブルを出しておくだけでいいと言われていたので、部屋には12月に入って飾ったツリーの根元に、贈られてきたカードやプレゼントが置かれているだけだ。
「本当にこんなで良いのかしら? 地味だってサンディがっかりしたらどうしよう」
「本人が良いって言うんだから、良いんだよお」
そわそわと落ち着きなく言った由利香の声に応えたのは、椿ではなく。
「「サンディ!」」
紳士の出で立ちで現れたサンディだった。
「ごめんねえ、サンタクロースの格好じゃなくて。このあとすぐ帰らなきゃならないんでね~」
「十分よサンディ! とっても素敵!」
ハグしにきた由利香を暖かく受け止めて、彼は上機嫌だ。
「ホーッホッホッホ嬉しいねえ。それでは、始めようじゃないか、一日遅れのクリスマスディナー」
そう宣言して、サンディがその場でクルンと一回りした途端。
部屋は昨日の『はるぶすと』のように美しく飾りつけられていた。
そして何の変哲もないテーブルにクロスが掛けられ、本日シュウたちがお客様に出すのと同じディナーが目を見張る美しさで並べられていた。
「わあ」
「すてき……」
「さあさあ、冷めないうちに召し上がれ。私はもう行かなくては」
「サンディ!」
今度は少し湿っぽい声で由利香が抱きつく。
「あれあれ、悲しいのはごめんだよ。私は幸せを運んできたのだからね。また来年、またその次もその次も、君たちに幸せと喜びを運ばせておくれ」
「はい、ありがとうサンディ」
「また来て下さいね」
お見送りしますと言う由利香たちを手で制して、サンディはまたふいに姿が見えなくなった。
「どうやって帰るのかしら、どこかにトナカイさん隠してあるのかな」
由利香が言うと、なぜか外からクラクションの音が聞こえる。
思わず顔を見合わせ、もしやとベランダから外を見た2人はびっくり。
「ホーッホッホッホ」
と、手を振っているのは間違いなくサンディ。
けれど彼はなんと! ピカピカに磨き上げられた、超格好いいスポーツカーから顔を出してこちらを見上げている。
ブオン
と重厚な音を立てたそれは、あっという間に通りを走り抜けて見えなくなった。
「あれで帰るのかしら」
「フィンランドまで? まさか」
可笑しそうに笑う椿が「冷めないうちに頂こうよ」と、由利香の手を取ってテーブルの方へ導いた。
シャンシャン……、シャンシャン……
由利香と椿が食後のデザートを味わっている頃。
北極の方角へ空を飛んでいく、2頭立てのそりが確認されたとかされていないとか。
【お・ま・け】
「あ、それから。その食器はさ、『はるぶすと』の大事な逸品だから、綺麗に洗って返してよね。ぜったいに、落として割ったりしちゃ、だめだよ?」
優雅に時を過ごして大満足の2人。けれどシンデレラの魔法よろしく、デザートを食べ終えると、しばらくして飾り付けやクロスは綺麗に消えてしまった。
だが、なぜか、食べ終えた食器はそのまま残っている。
そしてついさっきまでは目に入らなかった、ブルーレイディスクが一枚。
「なんだろ?」
と、再生してみると。
「いやっほー! 椿、由利香さん、料理はどうだった?」
なんと夏樹が登場したのだ。
その後に出てきた冬里の台詞が、冒頭のもの。
後ろの方でシュウが申し訳なさそうに苦笑している。
「あ、あいつらあ~」
なんと秋渡夫妻は、食後の洗い物をさせられたんだとさ。
めでたしめでたし?
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
走り抜けるようにクリスマスの物語をお届けしました。
いろいろ大変な時代ですが、皆さまに、幸せと平和と調和と喜びが訪れますように。
そして『はるぶすと』も、来年も変わりなく営業致します。
また遊びに来て下さいね。
Merry Christmas & Happy New year
良いお年をお迎え下さい!




