祈り
今日も平和。
「どうした。今日はやけに機嫌が悪いな魔王よ」
「うん。今日新聞を読んだら、過激派の宗教が町の人を襲ったんだって」
「魔王がそれで怒るのか……。まぁ、それで?」
「いや、どうしてそんなことをするのかなって。僕と君は敵同士でも分かり合えたのに」
魔王、憤慨する。
「何が神さ。そんなものを信じて何になるんだよ」
「……まぁ、そいつらのやることがひどいのはもっともだが、あまりそのことは否定しないでやってくれ」
「え?」
「もしも仮に、お前がどうしようもないほどに追い詰められたら最後はいったい何をすると思う?」
「……それこそ祈るさ。神様に」
「ああそうだ」
「あの人たちがそうだと?」
「みんながとは言わないさ」
勇者、苦笑いを浮かべる。
「あの中には利権のため、理想郷を作るため、金のため……、祈りを必要としない人はたくさんいるさ」
「……でも、だからって武器を取って戦うのは間違いだよ」
「ああ、間違いさ。だけど、どうしようもなく救いようのない俺たちはそれしか知らないんだ」
「俺たち?」
「俺だってそう。ろくでもない人間だ。闘争の中をひたすらに走り回らなきゃ、自分が何者なのかすらも見失うほどに」
魔王、腑に落ちない。
「じゃぁ、それ以外のものを見つければいい。戦い以外にもお金だって手に入るし、手段はいろいろあるよ」
「ああ、そうだな。そうに決まってる。でもな、そいつはできない。死んでもできない」
「どうして?」
「だって、そんな方法を知らない。その宗教団も、俺も、生まれた国や故郷、家族友人に至るまですべてがすべて、闘争と闘争の中を歩いてきたから」
魔王、疑問に思う。
「神様がいるって信じているなら、みんなを助けてくれる神様がいるってなんで思わないの?」
「おいおい、それは愚問だ。答えは、誰も神様なんて信じちゃいないのさ。心で思っていても、本能が知っている」
「……じゃぁ、何に祈るの?」
「決まってるだろ。自分の中にいる無二の神様だよ」
「?」
魔王、困惑。
「神様なんて都合のいいのがいるなんて、誰も思っていな。それでも、そんなくそッたれでも祈るしかないんだよ」
「どうして?」
「……お前たち常識人が手を合わせて祈りを捧げる。そして俺達どうしようもない人間は闘争そのものを祈りにするんだ」
魔王、沈黙。
「ほかの人の言う神様ってやつは、自分だけは救ってくれず、いつも泥の中をもがくのは自分だけ。だから自分の信じる無二の神様を正当化するために、自分が明日を生きるために、嫌でも闘争という祈りをしなければいけないんだ」
「……もし勇者がそういう人と出会ったら、どうするの?」
「倒すよ。絶対的に、圧倒的に、力で、己のすべてで、押しつぶして粉砕する。そうでもしなければ俺や奴らの祈りをやめさせることはできない」
勇者、硬貨を取り出す。
「あいつらみたいなのは、これ一枚に命を懸けられる。そしてこれのために相手を押し潰し、こういうんだ……。リンボでまた、とな」
「……ようは貧しくて辛くて、すがるものがないから戦うってこと」
「そういうことだ」
魔王、安堵する。
「よかった。なら君は大丈夫だね」
「なぜ?」
「今はもう貧しくないよね。生活も、心も」
「……お陰様でな」
少しシリアスな二人の昼下がり。
今日も平和。しかし、誰かが世界のどこかで不幸かもしれない。
今回の話はちょっぴりびたー(笑)
あと、書くの飽きたので完結します(唐突)。




