普段なにしてる?
山も谷もなし。
魔王の家に勇者が闘争を求めて尋ねたある他愛もない日、唐突に魔王からその話題が上がった。
「勇者って僕のところに来てない時は何をしてるの? ケンカ?」
「ふむ、私は普段は趣味に勤しんでいるが」
「え? 趣味って闘争?」
「なぜそうなるのだ。私は朝から晩まで戦っているわけではない。少々刺繍を教えている」
「習ってるんじゃないの?」
「教えている。近所の子に頼まれていてな」
勇者、実は女子力高し。
「かつては自分の装備の補修をするための技術であったが、こんな形で生かせるとは思っていなかった」
「へぇ……」
「そういうお前はどうなのだ魔王よ」
「僕? 適当に食べ歩きだよ。パスタの」
「本当にパスタが好きだな」
「まぁね」
「……」
「……」
両者の間に天使が通る。
「しかし、なぜそのようなことを?」
「僕のところにいつも君はいるけど、居ない時に何をしているのか気になった」
「なるほどな」
「……」
「……」
再び天使通過。
「……普通の話題って続かないね」
「ああ、それでは何か面白い話題を話そう」
「例えば?」
「無難に好きな色で。出来れば理由も」
「僕はピンクだよ。ピンクって、ほわほわっとしていてとってもいいんだ。お花畑とかにちょこんとピンクのお花があると可愛いんだ」
「とてもではないが魔王の言葉とは思えんな。私は赤だ」
「どうして?」
「麗しの戦場の色。祈りをささげ、魔物に供物としてささげられる乙女の色。無限に連鎖する血液の鎖音……」
「君らしくて安心したよ」
「……」
「……」
この二人、とことん普通の話が苦手である。
そして、そのまま数分が経過した。
「……何かないの? 面白い話」
「昨日私のパンツに穴が開いていたという話なら……」
「いいよ! 気持ち悪い!」
魔王、赤くなる。
「……暗くなってきたな」
「つまらない一日だった」
「それはすまなかったな」
「全部君のせいさ。だから次来るときは面白い話を考えておくんだね」
「善処しよう」
口下手な二人だけの一日はこうして何もなかった。
本当に何もない。




