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【書籍化決定・コミカライズ企画進行中】悪女のレシピ〜略奪愛を添えて〜  作者: ましろ
第三章

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19.悪意か愛情か


 お祖父様の混乱したお顔を見て、溜飲が下がった。

 やはり、爵位を奪うことはかなりの打撃みたい。


「お祖父様、ごめんなさい? あなたの孫は、悪女ですのよ?」


 奪われたら奪い返す。泣いて諦めるなど、するはずがないの。

 ……まあ、それも皆様の助けがあって成し遂げることができたのだけど。


 そう。最初はここまで考えてはいなかった。お祖父様を呼び戻し、少し懲らしめるだけ。そう考えていたのだ。だけど──


 ◇


「ブランシュ様、少々よろしいでしょうか」


 あら、めずらしい。マルクからの相談かしら。


「もちろんよ。ここで話しても平気なお話?」


 魔法石の処分をあらかた終え、室内には私とマルクのほか、ナタリーとシルヴァン兄様がいるだけだ。


「はい。お二人にも聞いていただいて構いません」

「じゃあ、私はお茶を淹れますね!」

「ありがとう、ナタリー。じゃあ、あちらで話しましょう」


 二人にソファーを勧め、自分も腰掛けた。


「じつは、公爵様に関して気になることがあったため、確認してまいりました」


 ……ん? 確認って、誰に?

 思わず、初手から引っかかってしまった。だってマルクの捜査方法といえば──


「公爵夫人に確認したので、間違いはないかと思われます」

「あ! やっぱりです! マルクならそうだと思いました!」


 お茶の準備をしていたナタリーが声を上げた。

 彼女も薄々感じていたのでしょう。マルクならば、地道に調査するのではなく、正面突破するだろうと。


「……マルク。あなた、諜報員としての技術を学んだのではなかったの?」

「はい。学びました。ですが、ダンドリュー公爵家ほどの警備体制の中で隠密に動くことは正しいとは言えませんし、公爵夫人ならば、こそこそ探るのではなく、正面からお尋ねするべきかと」


 なるほど? でも、あなたなら毎回正面から行きそうな気もするけど。


「それで、お祖母様はなんて?」

「まず、憶測にはなりますが、公爵様はノディエ伯爵家に対し、度々人を送っていたと思われます」

「……なんのために」


 マルクが話してくれたのは、使用人として雇用された人たちについてだった。

 侍女見習い、フットマン、馬丁等。

 彼が知るだけでも五人。いずれも経歴を偽ることなく、公爵様からの紹介として働き始めたものの、短期間で退職していったらしい。


「共通点としては、ただ働きに来たというだけでなく、好奇心が強めな方が多かったように見受けられました」

「……伯爵家内の情報収集?」

「私が見た限りでは、彼ら自身が、外との交流が薄い伯爵家に、他所とは違う雰囲気を感じ取っていただけでした」


 そう、だから好奇心旺盛だったという表現なのね。


「裏を返せば、使用人として誠実に動けない可能性がある人たちが多かったということね」

「……実際、別館の存在を知り、踏み込もうとした者もおりました」

「え」

「行儀見習いで来た、騎士爵の娘でした」

「……その方は、どうなったの?」

「私が止めました。使用人として、主人の秘密を暴くことは、下手をすれば罰せられることになりますから。……申し訳ありませんでした」


 その謝罪は何。もしかしたら、もっと早くに私を見つけてくれたかもしれないから?

 マルクは謝罪を口にしながらも、その眼差しに迷いはなかった。


「馬鹿ね。魔法契約があったのでしょう」


 もしもマルクが止めなかったら、その子だけの罪では終わらなかったかもしれない。

 騎士爵は確か一代限りのもの。ならば、もとは平民だろう。伯爵家の内情を探っていたと訴えられでもしたら、大変なところだった。


「でも、お祖父様の紹介を、お母様は断ることなく受け入れていたのね」

「オレリー様なら、公爵様からの頼みを断ることはなかっただろうと、公爵夫人がおっしゃっていました」


 そういえば、お母様は幼い頃から、英雄であるお祖父様を慕っていたのだったわ。


「お母様が受け入れた理由は分かった。でも、お祖父様はどうして……」

「公爵様もオレリー様を大切に思っていたのだと思うよ」

「シルヴァン兄様?」

「昔、絵を見せてもらったことがある。戦場に来ている兵士にはよくあることだ。家族や恋人の肖像画や手紙、そういったものをよく身に着けていたよ」


 ……それは、シルヴァン兄様も?

 いえ、今は兄様のことを聞くべきではないわね。

 でも、あのお祖父様が、家族の肖像画を?

 ……確かに、家族への情は深かったようにも思える。

 でも、それならどうして、陛下が下されたものより、さらに厳しい罰になったのだろうか。


「……私もね、疑問ではあった。だが、君にしてきたこと、そして反省の色がないこと。それらを踏まえると、厳罰も仕方がないのだろうと当時は思ったんだ」


 シルヴァン兄様が当時を思い出しているのだろう。少し眉をひそめた。

 そうね。あのときのお母様は、ただ言い訳を繰り返し、我が身を嘆いているばかりだった。


「だが、王宮で知った、今のオレリー様の状態を考えると、妥当な罰だとは思えなくなった」

「今の、お母様」

「ああ。過去の魔力暴走による心的外傷が大きい。たぶん、伯爵家では十分なケアができていなかったのではないかな」

「……お母様は、本当に覚えていなかったのかしら」

「あの! 私、聞いたんです!」


 お茶を淹れ終えたナタリーが、意を決したように声を上げた。


「奥様、分からないって言ってました」

「……何が」

「どうしてブランシュ様を別館にいさせるのか分からないって! ただ、怖いんだって! ……私、そのときは意味がわからなくて……でも、エルフェ様のおっしゃるとおりなら、奥様は本当に分からなかったのだと思います!」


 お母様は、ずっと私をなかったことにしていた。

 エマとの別れを、誕生日のプレゼントとして贈られた。

 そこにあったものが、悪意以外だと考えるなんて──




※以前、事故に遭ったのは「両親」と記載していましたが、正しくは「お母様のみ」です。あわせて事故に関する一部表現も修正しました。



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― 新着の感想 ―
書籍1巻を購入読了して続きが気になり、すぐこちらにお邪魔しました。面白くて一気に最新話まで読んでしまいました。続きも楽しみにお待ちしております!
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