最強の治癒術師は幸せに暮らしました
婚約発表から二ヶ月ででの挙式に、本人達はもとより周囲の人間があたふたしたのは言うまでもない。
しかし、そこは筆頭公爵家のホグナー家と優秀な家令とメイド頭が支えるミレイド家。
この短期間でしっかり準備を整えて、冬に差しかかる前の晴れた日に無事に結婚式を行うことが出来た。
私のドレスはマリアさんとベイルさんが侃々諤々に戦っているうちに、デザイナーさんのイラストの中からひょいっとアラル君とジェシカちゃんが決めてしまったが、それを見て二人が納得したので丸く納まった。
結婚までの二ヶ月は、ミレイド家で大切に温かく、ゆっくりと家族団欒で過ごした。
早く結婚したくって、一緒に暮らしたいベイルさんは若干不服そうだったが、私は年の離れた妹と弟と過ごす時間が愛しくて、それを言えばベイルさんも我慢してくれていた。
「全く、ジェシカちゃんやアラルくんには勝てる気がしません」
と苦笑していたが時折私たち四人で過ごす時は二人に優しいベイルさんを見て、子どもが出来た時を思い描いていいパパになりそうだとちょっと楽しみになったりした。
その事を伝えた時には、ベイルさんもにこっと笑って言ってくれた。
「ユウも、二人と接する時は優しくって、楽しそうで微笑ましいですよ。ユウもきっといいお母さんになりますね」
その時と、その後はお察しください。
実は初めて好きになった人が、旦那さんになるという事態に結構気持ちが慌ただしくて大変だったりしますが、そこは歳上な旦那様なのでしっかりリードしてくれちゃうし、早々に私が恋愛初心者なのは把握されたので、ベイルさんは多分結構手加減してくれてると思う。
それも、今日までですが……。
明日はいよいよ、結婚式です。
これからは、プロポーズしてくれたベイルさんのお屋敷で一緒に暮らすわけで。
明日が、初夜なわけです……。
現代日本にいたので、この歳ではしっかり耳年増状態で、経験なくとも知識はあるって感じの私は徐々に緊張していたのだけれど、明日に備えてのメイドさんたちによるエステによって、半強制的に眠りの世界に送られたのだった。
晴れた挙式当日、私は控え室で綺麗に着飾った花嫁姿で呼ばれるのを待っていた。
ノックの後、ミレイド家一同が仕上がりを見に来てくれた。
「ユウ姉様、すっごく綺麗よ! ベイルおじ様、綺麗すぎて言葉をなくすわ!」
それはそれは、盛大に褒めてくれるジェシカちゃん。それを頷いて見守る笑顔のマリアさんにアラル君。
その横で、大きい体でグズグズ言ってるのはクリストフさん。
「父様、いい加減泣き止みなよ。姉様困っちゃうわ!」
ジェシカちゃんに突っ込まれるも、なかなか涙は止まらないようで、グズグズ言いつつもクリストフさんも言った。
「ユウ、き、綺麗だよォ!こんな早く嫁にやりたくねぇぇぇぇ!」
「あら、まぁ、最後が本音だわねぇ。いい加減諦めなさい。ベイルならすぐ里帰りすることも出来るんだから」
「だって、せっかく来た娘なのにぃぃぃ」
先日、結婚前の挨拶をした時に聞いた。
マリアさんとクリストフさんはマリアさんが十八歳で結婚して、直ぐに子どもが出来ていた。
しかし、その子は死産。
少し、私の方が歳は上だけれど、二人は私を見た時に直感的に、その子が帰ってきたと思ったという。
私も直ぐに二人に慣れたことに少し不思議ではあったけれど、その話を聞いてなにかが腑に落ちた。
そうだったんだと、思えたのだ。
そんな二人の元からお嫁に行ける、私は幸せだなと思う。
「お父さん、私ちゃんと幸せよ。だからキリッとした顔で、一緒に歩いてね?」
元に戻るまで、ちょっと時間がかかったのはご愛嬌としておきましょう。
そんなてんやわんやがあっても式は無事に済んで、私はユウ・アルバ・ホグナーとなったのだった。
異世界からこの世界に来た歴代最強の黒の乙女は、癒し姫との二つ名の通り結婚し公爵夫人となってなお、流行病があれば治癒を惜しみなく使い、国の安寧を担い続けた。
そして、その力は彼女の子にも伝わり公爵家の子ども達に受け継がれていった。
その力は、最強の治癒術師と言われた公爵夫人には劣るものの、その心根と知識はしっかりと受け継がれていき、ホグナー家は治癒師として連綿と国を支えていくのだった。
ユウ・アルバ・ホグナーはその後も史実に度々登場するが、そのどれでも優しさと慈愛に溢れていたという。
最強の治癒師は異世界にて、自身の幸せも見つけて結婚後は穏やかに日々を過ごしたそうな。
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