冷たい食事
ダラダラと尋常でない汗をかいて、その汗が乾いてカピカピな層を作り出した頃、不思議とまったく汗をかかなくなっていた。フラフラの足取りでも、辛うじて頭を働かせることはできた。その世界が普通ではないことを示すように、一向に日が暮れる素振りを見せなかった。
「いつになったら……。」
夜になるということは、一日を強制的に終わらせることができる装置である。しかし、その装置が壊れてしまうなんて思いもせず、ありえないはずだった。この世界は、あの神のような存在が都合よく作り出したに違いないと、課せられた仕事をやるしか生きることができない現実と共に、確信していた。
彼らも腹が減ることはあるようで、それが仕事の効率性とどれぐらい関係があるかまでは、彼らも知らないのだろう。
「おい、早く飯を食え。仕事を待たせるな。」
器に盛られた具沢山のスープを頂いて、地べたに座ってただ口にかきこむ。スプーンというものは無く、食べやすさをまったく考慮していない。
「ズズズッ・・・、うわ。」
体調を気にしてしまうほど、スープは冷めきっていた。本当に火を入れたのかどうかも怪しく、根菜やニンジンは固く、イモ類はスープに溶けてしまっていて、ごろごろと不快感だけが残る。
「(みんな、これを食べているのか。)」
周りを見渡せど、笑顔というものは当然ながら無い。せっかくの食事休憩をここまで粗末にできるものだろうか。
そこに、牛田は勝機を見出した。この食事を根本的に改善をすれば、この集団に自分の価値を見出させて、認めてもらえるような気がした。あくまで、以前いた時代の価値観でしかないが、この世界においても温かい食事を食べることの素晴らしさを、伝えることができるはずだ。
当たり前のように爆速で飲み込んだ後、労働者たちは仕事へと向かって行く中、牛田は食を仕切っていそうな配膳係に話しかける。
「すいません、自分も食事提供の仕事をやらせてくれませんか。」
「じゃあ、明日から。」
期待していた答えのはずなのに、冷たく素っ気ない返答に納得感を得られなかった。
「あの、食事は温かいものを提供した方が、仕事のやる気を出させることができると思うんです。だから、自分にも調理をさせてほしくて。」
「何を言っておるんだ。それと仕事とどう関係がある。」
転生をした人間の問題は、以前の時代の知識や常識や慣例や暗黙の了解を持ってきてしまうことだ。この世界では”温かい食べ物を食べることの利点”はまだ証明されていない。それを実際の行動によって証明していくことが一番であろうが、そこに至るまで幾人もの肉体的精神的なマッチョを説得しなければならず、牛田の人間性や説得力にかかっていると言っても過言ではなかった。




