ニートもいつかは死ぬんだな
(登場人物)
牛田正男 本作の主人公。無職。
それ 神という立場で、牛田を異世界へ転生させた。
俺の心臓が止まってから3分が経過したらしい。じゃあなんで喋れるのかというと、一種の離脱状態ってやつで頑張ったら元の身体に戻れるみたいだ。まずは、死ぬ前の記憶を遡ろう。
「ちょっと、いつになったら仕事するの。」
「わかったって、明日から本気出すから。」
そこまで散らかっていない部屋。なぜなら親が片づけて掃除をするからである。ここにその行為に一切関与しないで、寝転がってスマホをいじる主がいる。俺こと”牛田正男”だ。具体的なことを話すのも面倒だから、とりあえず訳あって職無しってことにしておいてくれ。大学時代までは良かったけれど、就活に意味を見出せなくて頑張れなかった。もちろん親には感謝してるし、飯を食べる時にはちゃんと礼を言っている。親がうるさいと思うはずがないけれど、不安で堪らないだろうから口酸っぱく毎日催促してくれている。
「母ちゃんごめんよ、俺はいけない子だ。」
それは独り言のわりには、まるで観客を意識したセリフじみたものであった。
俺、という存在を自分では価値があると思っている。誰もまだ俺を発見できていないだけで、見つかってしまえばこっちのもんさ。しかしその日を待っている間に、身も心も汚くなってしまったようだ。他のニート仲間なんて素敵な関係など反吐が出る。そんな見えない形も持たない繋がりなんて、傷の舐めあいでしかない。そのはずなのに、孤独を愛せるほど余裕は残ってはいないかな。
「(これから先の時代は、AIが大いに発展してくれる。だから、仕事をするなんて馬鹿らしい時代がくるよ。)」
こういう投稿がある。反応は、お察しのとおりですな。こんな叩いてくださいと言わんばかりの投稿には、ピラニアみたいにすぐ噛みつかれるものだ。人間だから人間を応援して擁護したいのは当然で、俺だってニートを擁護してあげたい時もある。
俺が、他の奴らと違うのは世間様を叩く投稿をしないことだ。その代わりイイネのつかない絵を描いては投稿して、自分でイイネを押すだけ。どれだけ見てもらえたかの表示回数で、満足しているのさ。俺は、このゴミどもの中では価値のあるほうだと自負している。だから、長生きはするだろうし、いつかは成功して金持ちになるだろうな。
「うーん。こいつ馬鹿過ぎんだろ。ブーメラン帰ってきてるやん。」
日課であるSNSの政治投稿の有象無象を見る。実に筋肉の硬直を招く体勢で見ているからか、最近胸や背中のあたりが攣る時がある。
「いてて、あっ・・・いてててて。」
もしかして血管が破裂したかと想像して、それだともっと痛いはずだと落ち着かせている。しかし、それもつかの間に耐えがたい痛みが襲ってくる。それを耐えるという選択よりも、這いつくばって痛みから逃げようとする。脳から血が噴き出して、まるで噴水のように抑えが効かない感覚があって、意識はすでにこと切れようとしていた。
日々をその日のままに生き、無責任に生き放ってきた男には、忍耐強く立ち向かうほどの精神も執着もなく、死ぬと思った時にはすでに死を受け入れている状態だった。
「このまま生きていても面白くないと思っちゃったな。だって痛いんだもん。経験してみって、まぁ経験はできないわな。死んじゃうしな。とまぁこうして、俺はあの世にお先失礼いたしますね。」
「お待ちなさい。」
その声を聞いて、男とも女とも受け取れるようであり、子供のようで年寄りのようでもある。
「ああ、これね。脳の異常が見させてる夢か何かでしょ。」
「あなたの人生、それでよろしいのですか?」
「だって、あんた死んじゃったんだからしょうがないでしょうよ。復活させてってお願いしたらしてくれるんすか。それで、今日からは生き方を変えようなんて思えます?この俺みたいなもんが?」
「お母さまはどうするのですか。あなたを失えば、一人になってしまいますよ。」
「ああ見えて、ちょっとサイコパスなとこがあるんだよ。絶対涙なんか流さないね。そんなことはいいんだよ。早くあの世か天国か地獄でも送ってくれ。」
それは、ひどくがっかりしたようであり、どうにか更生させたいようにも思える。しかし、もしもこれが神なのであれば、なんて慈悲深くて寄り添ってくれるのだろう。このどうしようもない俺に、言葉をかけてくれた。
母のことは、それでいい。母は、母のままでいてさえくれたら。人はいつか死ぬものだし、死を乗り越えてこそ価値のある人生ってもんだよ。
「わかりました。あなたは、社会性がないから卑屈になってしまったのです。」
「そうだろうなぁ。」
「よって、仕事をしてもらいます。あなたには、大変キツイしんどい仕事をしてもらいますからね。それを私たちは見ていますから。」
「おうおう、ありがとよ。」
実際問題、強制的に連れられて仕事させられるほうが、引きこもってる身としてはありがたい。できれば生きている間であればよかったが。
そんなこんながあって、あっさり目が覚めた。煌めく空間とか色とかのワープをくぐって、こっちはウワーッって演技も用意していたのに、夢から覚めるみたいにいつの間にか”そこ”にいた。
「おい、寝っ転がってると殺すぞガキ!」
「働く気がねえなら、そこから飛び降りろ!」
「ん???」
筋骨隆々の幅広い年齢層の男たちが、大きな木の丸太や石や粘土のようなものを担いで、せっせと運んでいる。
「いや、非効率ですよ車か何かで・・・。」
ここはどこだ、というセリフさえ口から出ない。蛇に睨まれた蛙みたいにカチカチになって、眼球を動かすこともできなかった。どうやら、最も肉体的な労働を課せられるであろう場所に来てしまった。当然ながら道は舗装されていないので、重い体重によって角ばった小石が足裏や太ももに刺さる。
「いて。てことは夢じゃないか。」
「おい、生きるか死ぬかどっちだって聞いてんだよ。」
「わ、わ、わかりました。」
そうして、見よう見まねで置いてあった麻袋を両手で持ち、歩く人々の群れに加わった。その誰もが目が虚ろで、目的を持っておらず、ただこの道を行ったり来たりしているだけのロボットのように思えたのだ。
「(おいおい、まさかこの世界でどうにか生きろってんじゃないだろうな。休憩所のひとつも無いぞ。)」
彼の異世界生活がこれから始まる。




