第四話 岩場。
フライリザードの巣を探しに、ラナは岩場へやって来た。
岩肌に蔓が這っているが、ラナの細い腕では登る事も出来ない。
仕方ないので、その周りをうろうろしてみる。
一番いいのは肥料に使えそうなものが見つかる事だが、岩塩や食べられるものも探したい。
だが、やはり森と違って植物の数は多くない。
それでも岩の隙間に生えていた茸と、良質な岩塩は見つける事が出来た。
(もう少し、食べられるものがほしいな……)
そう思っている内に、普段来ないような岩場の奥まで来てしまった。
岩と岩に挟まれた迷路のように入り組んだ道の奥に、太い幹の大きな木が一本だけ立っていた。
(こんな所に木?)
土もほとんどないような場所に、どうやって根を張っているのだろうか?
濃い緑色の葉を蓄え、根元にはラナの手と同じくらいの大きさの実がたくさん落ちていた。
「え!?」
食べられるだろうか、と〈鑑定〉スキルを使ってみたラナは驚きの声を上げた。
〈アブラノキ 硬い実の中身は油として使える。食用可〉
胡桃に似た硬い殻の大きな実を一つ拾ってみると、確かに中からたぷたぷと液体が入っている音がする。
「これ、油なの!? やった!!」
油は町で買ってくる以外に手に入れる方法はなかった。
ラナの家にそんな余裕があるはずもなく、灯りは薪を燃やすかまどの火のみである。
それに、食用として使えるなら揚げ物が作れる。
ラナはひたすら実を拾っては、〈収納〉の中に入れていった。
岩塩だけでなく、この実も町で売れるかもしれない。
そうすれば、父親が町に行った時に肥料を買って来れる。
夢中になって拾う内に、いつもよりだいぶ遅くなってしまった。
ラナは慌てて家に向かった。
迷路のように入り組んだ道も、〈危険回避〉と〈鑑定〉を組み合わせて使えば特に問題はなく、ラナはなんなくいつも通りの場所に戻れた。
おそらく、この迷路のような道ゆえに今までアブラノキは誰にも見つからなかったのだろう。
家に帰るついでに、野草を少し採った。
この根をすり潰すと粘り気が出る。
無味無臭なので好んで食べるものはいないが、つなぎ代わりに使えるはずだ。
家の近くまで行くと、ひどく慌てた様子の母親が駆け寄ってきた。
「ラナ!!」
母親の形相を見たラナは、その場でぴたりと立ち止まり一歩も動けなくなってしまった。
怒鳴られる事も。
殴られる事も。
別にたいした事ではない。
ただ、優しいこの人に嫌われる事が怖かった。
「ラナ、無事だったのね!!」
けれど、ラナを抱きしめると母親は安堵のあまり泣き出してしまった。
「よかった……。帰りが遅いから、何かあったんじゃないかって……」
「……」
胸の奥がぎゅうっとなり、ラナの目から涙がこぼれた。
「ご、ごめんなさい……」
胡桃に似た殻の隙間にナイフを入れると簡単に割れた。
中に入っていた黄色みを帯びた透明な液体を皿に移し、古布の切れ端を撚り合わせた作った灯芯に油が染み込むのを待って火を点けると、ぱぁっと家の中が明るくなった。
安い油が燃える時のようなムカムカする匂いもしない。
「うわぁ、おひるみたいだねぇ」
そう言って無邪気に笑うリンの瞳に柔らかい灯りが反射して、きらきらと輝いていた。




