第十一話 ガレナ。
目を覚ましたラナは庭に出て井戸で水を汲み、廃材の中から燃えやすそうな木片を選んで〈収納〉に入れた。
火を起こし、土間にあった鍋でぐらぐらと湯を沸かす。
部屋の隅に立てかけてあった行水用と思われるたらいに湯を張り、水を足して丁度よい温度になると服を脱ぎ、埃まみれだった顔や身体を洗い流した。
肌着も服も全て新しいものに着替え、髪を梳いていると扉をノックする音が聞こえてきた。
「ラナちゃん、開けてー」
カティの声だ。
閂を外し、扉を開ける。
「行水してたの?」
中の様子を見てカティが言う。
「水汲み大変だったでしょ。大丈夫だった?」
「私、〈収納〉スキルがあるので大丈夫なんです」
ラナがそう言うと、カティはへぇ、と感心したように呟いた。
「いいなぁ。便利だよね、〈収納〉あると」
「そうですね」
「ラナちゃん、お昼食べに行こうよ」
引っ越し祝いに奢るからさ、とにこにこと笑いながらカティはそう言った。
そういえば、ずいぶんとお腹が空いている。
街の様子も知りたかったラナは、カティの言葉に甘える事にした。
道々、カティはこの街の事を色々教えてくれた。
職人やその家族が多く住み、その殆どがオニキスと取り引きをしている事。
自警団があり、そこそこ街の治安はいい事。
愛想は悪いがものはいい店、とにかく安い食料品店など。
それと、カティの母親は今から行く食堂で働いているという事も。
食堂に着くと、昼時という事もあってずいぶんと混み合っている様子だった。
席が空いていないと言われ、カティはため息をついた。
「仕方ない。屋台でファロでも買ってきて食べようか」
お昼を食べるついでに、母親にラナを紹介しておきたかったんだけどな、とカティは笑った。
広場に移動すると、屋台が立ち並んでいた。
こちらも混み合っていたが、カティはその中をすり抜けファロとルッコの実のジュースを買ってきてくれた。
「あそこのベンチで食べよう」
「はい」
二人で並んでベンチに腰を下ろす。
空は晴れていて乾いた風が吹いている。
外で食べるにはいい天気だ。
熱々のファロはラナの家で作ったものとは違い、濃い真っピンク色だった。
中には山羊の乳から作ったチーズが入っている。とろりと溶けたチーズが生地に絡んで大層美味しかった。
(……皆にも食べさせたいなぁ)
父親がたまに買ってきてくれる干し肉を刻んで混ぜたファロが、ラナの家では一番のご馳走だった。
熱々のファロを頬張って笑顔を浮かべるルイやリンの様子を思い出す。
「そういやさ、ラナちゃんはここでどうやって暮らすの?」
二個目のファロにかぶりつきながら、カティが首を傾げてみせた。
「〈収納〉スキルと、あと〈鑑定〉スキルもあるのでそれを使って何でも屋さんみたいな事をしようと思っています」
んー? とカティが首を捻る。
「なら、ギルドのあるオニキスまで行った方が良かったんじゃないかなぁ?」
それはラナも考えた。
だが、ラナは武器の扱いに長けている訳でもなく、魔法が使える訳でもない。
掃除や家事の手伝いならともかく、配達や採取の依頼を幼いラナが冒険者達と争って手に入れられるか、と言われればおそらく不可能だ。
故郷の町でも、ラナに依頼がもらえたのは他に出来る人がいなかったからだ。
それなりの規模のこの街にもギルドはない。
馬車で半日も行けばオニキスのギルドがあって、そこで依頼が出来るからだ。
「だから、ギルドに依頼するほどでもないけど、でも、人手が欲しい人からなら依頼してもらえるかな、と思って」
ラナの話を聞き、カティはなるほどと頷いた。
「じゃあ、まずは自警団の人達に話をしておきなよ」
首を傾げるラナにカティが言う。
「ラナちゃんがまだ小さいからって、料金を踏み倒そうとする奴がいるかもしれないからさ」
自警団の人達に話を通しておけば、そういう時に味方になってもらえるよ、とカティは笑って言った。
カティの言うことはもっともだ。
故郷でトラブルが起きなかったのは、小さな村や町でほとんどが知り合いだった事と、大人の男である父親が間に入ってくれていたからだろう。
ラナは素直にカティの忠告に従う事にした。
「はい。そうします」
「じゃあ、帰るついでに自警団の詰所に寄って行こう」
立ち上がったカティが陽気に笑う。
「ラナちゃん。我が街、ガレナにようこそ!」




