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レント・ヴェーレンのサガ ~追放鍛冶師は辺境で平穏を望む~  作者: 神条紫城


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2/10

第1話 追放の鍛冶師

久しぶりに連載作品です。よろしくお願いします。

気合い入れて書いてるので、最新話まで読んでくださると嬉しいです。


 ギルド本部の入り口、レントの帰りをポンクルが荷物を抱えて待っていた。


「アニキ! どうだったっす!?」


 (なか)ば朗報を期待し尻尾を振るが、事情を説明するとショックで荷物をドサッと落とす。


「ふざけんなっす!追放なんて!アニキの剣を汚した奴……オイラ絶対許さないっす!」


 王都中の冒険者がレントの剣を求め、宮中ですら依頼してくる状況はただ腕を磨きたいレントにとっては煩わしいだけだった。

 だが、この追放は話が違う。


 そこに一人の作業着を着た男が現れる。あごひげを触りながらしたり顔で話しかけて来た。


「よぉーレント、追放とは残念だったな!」


「何の用だ、ガルド。お前と話す気はねえ」


 王国一といわれるレントの鍛冶。それを快く思わない者からの嫌がらせは今に始まったことではない。同業であるガルドはそんな輩の代表格のような男だった。


 レントはガルドの笑みを見てピンとくる。


「……お前の仕込みか、ガルド」


 ガルドはわざとらしく肩をすくめた。


「お前にこんな(はかりごと)をする脳はない。王宮の誰かと組んでやがるな。きたねえ奴だ」


「黙れ!何がドワーフの技法だ、インチキ野郎が!」


 レントの指摘に顔を悔しそうに強張らせ声を荒げるガルド。


「お前が偽物作ってすり替えたっす! アニキの剣は魔物を一撃っす!王国一の鍛冶師っすー!」


 ポンクルが弁舌を振るい食って掛かるが、化け術が緩み、狸の耳がピョコッと出る。

 その姿にガルドは嘲笑し突っぱねる。


「亜人風情が!こんな奴が弟子とは師匠の格が知れるぜ。獣にまともな剣が作れるはずがない」


「種族なんて関係ねえ。ポンクルは俺の弟子だ」


 レントは静かに言い、ポンクルの肩を叩く。ポンクルは目を潤ませ、「アニキ…!」と尻尾を小さく振る。


「フン!偽もん同士仲良くやってりゃいいぜ。これからは俺の時代だ!さっさと失せろ!偽物作りのインチキ野郎!」


 レントは真っ直ぐな瞳で言い返す。


「偽物作ってるのはお前だ、ガルド。今に見てろ。いつかボロが出る」


 ガルドの笑みが一瞬凍る。レントはそう言い残し本部を後にした。





 レントとポンクルは、主のいなくなった薄暗い工房に帰宅する。


「さてと、ムカつくがこうなっちまったもんは仕方ねぇ。支度すっか」


 レントは無精ひげを撫でため息を吐いた。


「アニキ! なんでそんな平気そうなんすかー! 追放なんて、ふざけんなっす!オイラこの工房を捨てたくないっすよー!」


「まぁ、待ってろって。確かここに……」


 レントは工房の古びた木箱をあさる。様々なものが乱雑にしまわれており、ガサガサと漁りながら手鏡を取り出す。


「ヒョエーッ!アニキ!『遠見の鏡面(ヴィジョンズミラー)』じゃないっすか!そんな貴重なアイテムをそんなとこにしまわないでくださいっす!」


 驚きで涙が引っ込むポンクル。遠見の鏡面(ヴィジョンズミラー)、遠くにいる相手とも鏡越しに会話ができる古代魔術の遺産(アーティファクト)、幻のアイテムだ。


「うるせ、俺は整理整頓が苦手なんだよ」


 鏡に触れると鏡面が揺らめき、狐の仮面をした青年が映った。細い目の意匠が怪しく光り、赤毛の長髪をなびかせながら明るい調子で話し始める。


「ハイハイ~毎度! ルペス商会、ピンパネでございます~!」


「久しぶりだな、ピンパネ。急で悪いが、例の奴、今から頼む。」


 レントの低い声に、ピンパネが目を細くしてニッコリ笑う。


「これはこれは、レント様!すぐに近くの者を向かわせます、一時間以内には準備できますよ~!」


 ポンクルが鼻をヒクヒクとさせ、鏡を覗く。


「こんな時に商売の話っすか?」


「まぁ、そんなとこだ。それより、移住の準備をするぞ」


 レントとポンクルは食料の買い出しを済ませ、ピンパネからの連絡を待った。

 あわただしい一日だな、とレントが一息ついていると鏡が光り、ピンパネの声がする。


「レント様、準備できました! そちらで魔方陣起動すれば、いつでも飛べますよ~!」


 レントは「恩に着る」と呟き、荷物から(きら)びやかなペンを取り出す。金色に輝く不思議な文様が刻まれており、美しい光沢がちりばめられている。


 レントは外に出ると工房全体を一周するように魔方陣で囲む。ポンクルが窓から不思議そうにこちらを見ていた。


「よし、完成だ」


 レントは工房に戻り呪文を唱える。


「書くは運命、辿るは星の道」


 呪文の詠唱に伴い、眩い魔方陣の光が天へと昇り王都にあった工房が姿を消した。

 次の瞬間、窓越し、美しいルヴシール湖の(ほとり)が現れる。澄んだ湖面に夕陽が映り、魚たちが跳ねる。


 その神秘的な情景に工房を飛び出し、はしゃぐポンクル。レントは手を広げ湖畔の風を感じ、親方と過ごした静かな工房を思い出した。

 湖の対岸には山と森に囲まれた集落が見える。木造の家から細い煙が上がり、農夫が家畜を連れて歩く。


 レントがうまくいってよかったと工房を眺めていると、馬車のガラガラ音に気が付いた。

 鮮やかな赤毛の長髪に、上等なコートをまとう男。ピンパネだ。狐の仮面が夕陽に怪しく光る。


「レント様! いい場所でしょ? アッシのセンスはいかがですか!」


 ピンパネが馬車を降り、意気揚々と声を掛ける。


「ピンパネ!来てくれたのか」


「こちら側の魔方陣の仕込みは部下に任せてたんですが、幸い、近くで商いがありまして」


 二人のやりとりを不思議そうに見つめるポンクル。


「アニキどういう事っすか?あの魔法は何なんすか!てか、ここはどこっすか!」


 尻尾を振り、まくしたてるポンクルをレントが諌める。


「まぁ、移住は前々から検討はしてたんだ。後で色々と説明してやるよ」


「ところでレント様。お代の方ですが…」


 ピンパネが羊皮紙を差し出す。


「お貸しした『運命と星のペン(ディスティニースター)』の使用料、人件費を含めこんなところかと。あ、ペンはアッシが預かりますぜ」


 レントは「安いもんだ」と金貨の袋をどかどかと置いた。


 ポンクルが羊皮紙を見て目を丸くする。


「ギョエーッ!ふざけんなっす!なんすかこの法外な額は!アニキ!この狐野郎に騙されてるっす!」


 尻尾をバタバタ振って食ってかかるが、化け術が緩み、狸の耳がピョコッと出る。


 その未熟な様子をピンパネがあざ笑う。


「おやおや、狸のガキ、変化も自在に操れん奴は引っ込んでな!」


「こんだけ手伝ってもらったんだ、いいだろ」


 レントがポンクルの頭をポンと叩く。鍛冶以外はからきしなレントは法外な額を支払ってもケロッとしていた。


「アニキ~!だから金勘定はオイラがやるって言ってるのに!なんで相談してくれなかったんすか!」


「うるせえな、また鍛冶仕事で稼げばいいだろ」


「こんな辺境で誰が仕事を持ってくるんすか~!」


 ピンパネが不敵に笑い、指を立て提案する。


「まあ、アッシが売れば、剣は高値ですよ~。お取引の際はまたご連絡を」


 流石は商人。行動すべてが商売に繋がっている。レントは感心した。


「そういえば湖畔の反対側、向こうの集落では農具や武器が足りないみたいですよ~。仕事、あるかもしれませんね。こちらの情報はサービスです」


 ピンパネは一つお辞儀をすると馬車で去っていった。湖畔に静けさが戻る。


 レントは工房の前に座り、湖面の魚を見つめる。


「今はただ、静かに鍛冶の腕を磨きたい。ここなら最適だ」


「アニキ!剣ばっかじゃ駄目っすよ!明日は集落に仕事に行くっす!」


「わーったよ!みなまで言うな!」


 湖のせせらぎとポンクルの笑い声が響く。

 レントは湖面を見つめながら、王都のギルドで目にした羊皮紙を思い出す。


 王宮に納めた剣が折れ、第一王子が怪我をした。それが王命による追放の理由。

 その剣は偽物だ。

 だがその理由も、黒幕の正体も、まだ何もわからない。

 

 場所が変わったところで、やることは一つ。自身の鍛冶を極めること。レントはそう決意した。

 静かな湖畔は、そのための最高の環境だった。

 しかし、 その純粋な鍛冶への探求こそが、 皮肉にも、やがて王都を揺るがす巨大な陰謀を招いていく。

 

 そんなことはまだ、つゆぞ知らず。物語(サガ)は動きだす。

  

 ――レント・ヴェーレンのサガ。


 



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