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誰かのエピローグが彼らのプロローグになった


 人が人の命を奪う。それが当たり前で無い世の中のなんと希少なことであろう。


 人は死ぬ。老いて死ぬ、病で死ぬ、放っておくと死んでいく。なのに人は、自らの意思で他者の命を害し奪わんとする。


 それはどれだけ人間の倫理や理性が発達しても無くならない悲劇だ。人が人である以上、超えられない壁だ。


 普段は巧妙に隠されているだけで、殺人は至るところに存在する。加害者は力ある成人だけに留まらない。守られるべき存在である子供でさえも、時に他者の生命を終わらせることがある。


 例えば、ある少女は両親の復讐を成した。ある児童は義憤をはき違え、またある少年は衝動に支配された。


 意図的な悲劇に限らなくとも、事故や自殺で人は人を殺していく。殺人に対する倫理性を放棄し可否のみで語るならば、「あなたは人を殺せるか」という問いに「いいえ」と答えられる人間は実のところ、少ない。力あるならば、知性あるならば、相手の心臓を止め身体を死にいたらしめる方法などいくらでもあるのだから。


 被害を被った誰かが加害者を殺さないのは、その誰かの道徳心によるものだと、皆が忘れている。


 動機などなくとも、凶器などなくとも、人は人をあっけなく殺せるし、殺される。


 殺人など、なんと簡単なことだろう。


 そしてまた、とある誰かも──


   ◆  ◇  ◆


 そこはおよそ、地獄と呼ぶに相応しき場所だった。


 暴力、凌辱は当たり前、痛みと屈辱が怨嗟えんさを呼ぶ地下に作られた異空間。尽きることなきあらゆるはずかしめに耐えられず、泣き声と悲鳴だけが延々と途切れぬそこで、最初に言い出したのは誰だったか。


『君が殺してくれよ』


 苦しいのは嫌だ。痛いのも嫌だ。でもあんな奴に殺されるのが一番嫌だ。死にたくない。でも、生きてても意味がない。もう家には帰れないんだから。


『だって、こんなに汚れちゃったから。きっともう誰もボクだって分かってくれない』


 ただれた顔の誰かが泣き笑いですがりつく。

 その誰かの願いを叶えて振り返ると、そこには痛ましい輝きに瞳を染められた友人たちの姿があった。


『殺して』


 期待のこもる声。


『殺して』

『助けて』

『終わらせて』


 その歓喜が、彼らがもう戻れないことを示していた。


『どうか。どうか。僕らを殺して──僕らを救って』


 ──その誰かは、四方から届く悲痛な願いに…………。


   ◆  ◇  ◆ 



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