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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第七章【家族】

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続けてシェトランテへ、

実験の経過と黒い僕が対面の泉で戦ったことを詳細に聞いてくる前にまとめて投げた。


返ってきたのは言葉ではなく、

興味深い実験が偶然で完了してしまったような顔のスタンプ一個が返ってきた。

こちらとしては面倒だったので肩の力が抜ける。


道場へ入ると、床の中央で青髪のショートカットの女の子が刀を納めた。

軽装の胸甲は黒革に薄鉄を重ね、肩は可動域を優先した分割板。

前垂れは短く、腿に沿う布鎧。


手は籠手ではなく鹿革手袋、足は静音の足袋靴。

腰の細帯に予備の鞘金具と小瓶、動けど金具も音を立てない様子が印象に残った。

額が汗でうっすら光り、呼気も乱れていない。踏み込みから収めまでの居合に無駄がない。


「見事です。切先の止め方が何度見ても綺麗ですね」


刀を軽く押し当てる仕草で礼を返される。青髪は鞘に手を添えたまま名乗ってきた。


「ウチはコタツと申しますッス。所属はアルカルド第三部隊、エルメイン隊の戦闘員ッス」

「シオン・ユズキです。剣士です」


僕の名を聞いた途端、トランポリンのような口調のコタツが目を丸くし、次の瞬間に膝をついた。

反射の速度にこちらが戸惑う。


「シオンさんは姉姫様の夫殿でしたッスね。今後は上官・・・」

「待ってください。婚約者、候補です。いまは役割に集中してください」

「承知しましたッス。ですが恋の話は、すこーし興味あるんスよね。姉姫様の笑顔の理由、気になってて」


真剣な顔で純度の高い好奇心を向けられ、返す言葉に困っていると、背後の戸が開く。

エイビスが優雅に歩を進め、手だけでコタツへ合図した。


「コタツさん、傍で待っていてください。すぐにお願いするかもしれません」


僕は百合の花のような表情をした彼女と向かい合い、稽古に入る。

間合い、探り、一手。いつもより刃の出が遅い。迷いの影が速度を奪っている。

カリサの名が、肩の筋を固くしているのだろう。

一本勝負を続けたが、結果は僕の総勝ちで締めくくられた。


「今日はここまでにしましょう。コタツ、休憩の後、少し付き合ってください」

「了解ッス! ただ焦りは禁物スよ」


宝石を見つけた子どものような目でコタツが立ち上がる。エイビスは集中を取り戻そうとしている。

邪魔をする理由はない。僕は二人へ軽く会釈し、道場を後にした。やるべき整理が残っている。

シェトランテとの情報合わせだ。


ミカロは同室で眠っているらしく、シェトランテは僕の部屋で話をしようと提案してきた。

机の上に、セインの手紙と同封のカードキーを置き、

彼女は直線的な金属片に微細な溝と刻印を見た途端に唇を結ぶ。


「ここが示す場所、大体の検討はついている。

 ただ、ロクサリエン内にある場所だから今すぐっていうわけにはいかないわね」

「協力してくれるだけで十分に嬉しいです」

「何、その含み笑い。折るわよ?」

 

無表情のまま、カードを指でぐにゃりと歪ませた。

慌てて手を伸ばし、彼女の指より先にカードへ触れると表面の一部が緑に灯り、

下向きの矢印が浮かび上がった。


「今の、偶然?」

「セインが何か隠したのかもしれない。見てみましょう」


部屋を出ると、矢印は左右へ少し揺れ、じきに一点を指し示直した。

二人で矢印に合わせて移動を始めた。廊下を過ぎ、螺旋階段を下り、また別の廊下。

移動の途中で、シェトランテが横目だけこちらに寄越した。


「そういえば、ミカロとは付き合っているの? 

 君の彼女、毎日何種類もの服を出しては迷って服を置きっぱなしにするから、

 部屋を変わってほしいのよ」

「否定はしないよ。ミカロは年下なので大人の女性の目で見守っていただけると助かります」

「ま、君のおかげで新しい研究材料が出てきそうだから、暇している時間はなさそうね。

 それと、ミカロに私を気にしてこっそり部屋を出なくても、

 勝手にイチャつきに行ってることくらい分かってる、って伝えておいて」


シェトランテは僕の反論を待っているのだろう。そう思い、僕は話へメスを入れた。


「それは自分で行ってくださいよ」

「嫌よ。私が言うと、気を引く子供っぽく聞こえるもの」


とりあえず吹き出さなかっただけ良かったが、同じ話題について話そうとしても彼女は反応しなかった。

矢印は地下へ地下へと導き、気づけば第二層。無骨な鉄の扉の前で止まった。

読み取り機は見当たらない。カードを扉の継ぎ目へ当てると、ライトグリーンの線が走り、錠が外れる。


中は散らかった倉庫の趣。湿度が高く、床が濡れている。

水面が揺らいだと思ったら、四つ足の影が形を取った。

水の体を持ったジャガーが低い姿勢から飛び出し、爪を振りかざす。

剣を半身に起こし、刃の腹で受け流して一閃。水躯が崩れると、体は床へと帰った。


「弱いわね。ドルフェリアは海に集う生物へ敬意を払う文化かと思っていたけれど、

 どうやらそうでもないみたいね」

「同感です」


シャルルローゼスから連絡が入る。

公務はカリサ対策を優先して延期となり、警護をする心配は特になくなったとのこと。

お礼を送ると、エルメインへ連絡し、連携を図る


――そこまで考えたところで、奥の水が膨れた。

倒した個体が合わさり、獣が二つ分の長さへ変形する。背に棘、顎は二重、目は三つ。


「シオン、前」

「どうやら、軽いデモンストレーションだったみたいですね」


シェトランテの呼び声に応じ、側面から切り込む。刃が滑る。

合体で硬度が上がっている。彼女の円盤による打撃は皮膚を貫いた。肩の節が割れ、獣が体勢を崩した。

安堵しかけた瞬間、壁面の装置が起動する音がして、水が室内へ流れ込む。


天井際、扉の手前だけに空気の帯。そこへ向けて足を蹴り出す。

合体獣は水を得て速度を上げ、横合いから体当たりで狙ってくる。

水属性で牽制しようとしても、水は手のひらからすり抜けるだけ。

酸素が薄くなり、肺が警告を上げる。悪い流れだ。


「投げるから、そこで止まりなさい」


シェトランテが風を放った円盤で小瓶を送り込む。獣の額で割れ、液体が広がっていく。

冷気が水中で増幅され、表面が白く曇った。全身が凍りの膜に覆われる。

空気帯まで上がり、息を一杯入れ替える。すぐさま落下、火と水の合せ技を起こす。

温度差で渦を作り、刃に四つの層を重ねる。狙いを変えず、加速だけを伸ばす。


斬撃が獣の節目に吸い込まれ、四方へ裂けの線が走る。塊が分解し、形を失った。

手応えの種類が、いつもと違う。属性の挙動は、理屈よりも僕に追従した感覚がした。

対面の泉の後遺症か、あるいは――。


結論を待つ間もなく排水が始まった。床が見え、呼吸が整えると、

シェトランテは濡れた上着を外し、肩の見えるインナーだけで髪を絞り始めたので一応目を反らした。


カードキーで錠の外れた音が聞こえると上着を着直したシェトランテが資料束をピックアップし始めていたので、僕はそのまま警護に移った。

ミカロへ今の状況を送ったが、返答がいつもより遅い。まだ眠っているのだろう。

エルメインへも連絡を入れたが、合流は難しいという返事だったので、

連携の提案は夜か明日の朝になりそうだ。


シェトランテが戻ってくる。目の温度がいつもより低く見える。


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