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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第七章【家族】

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「迷惑は、できるだけかけないようにします。彼女の理想を、邪魔しない形でね」

「濡れた炭みたいな答えだな。まあ、王家の面倒事は慣れてるから、別に気にしねえけどな」


厨房へたどり着くと銅のポットが並び、湯の音が低く続く。エルジードは手際がいい。

僕は茶菓子を選び、彼女は抽出の時間を測る。


「ひとつ、訊いてもいいですか。エルジードはどうして王家と関わるようになったんですか?」

「悪いが契約の内容は王家にしか答えないようにしてるんだ。悪いな」

「構わないですよ」


 紅茶と茶菓子をワゴンへ載せ、待機室へ戻ると、

ミカロがソファに沈み、シャルルローゼスは書見台で城の略図を眺めている。

エルジードが入れた紅茶を配り、香りが落ち着きを連れてきた。エイビスが小さく礼をして、囁く。


「ありがとうございます、シオン様。こうしていると、少しだけ普通の人に戻れる気がします」

「普通の人、ですか」

「そうです。王家の血も、名前も、剣も、一時的に脇に置いて、淹れていただいた紅茶を飲む時間。

 私の数少ない宝物を楽しむ時間ですわ」

「そうか。それは良かった」


珍しく香りを楽しむミカロとシェトランテに、僕は一瞬言葉を失っていた。

二人とも清楚な装いで、色も形も過不足がない。

ミカロは肩のラインがすっきりしたドレス、シェトランテは白衣をやめてシンプルな礼装だ。

僕が見慣れた戦闘服とは違う落ち着きがある。

ミカロは紅茶を飲み終えると僕の近くで立ち止まる。

何か言葉を待っているのか目に僕を捕えるだけで、何も言ってはくれない。

僕は緊張している子供へ話すように口を開く。


「新しい服、すごく新鮮だ。よく似合ってるよ」

「・・・ありがと。シオンも、似合ってる。えっと、シェトランテ、実験はどれくらい残ってるの?」


外に視線を逃がしながら、ミカロはシェトランテへ話題を渡した。

気になることはあるが、護衛を優先しよう。


一方、シャルルローゼスは椅子の端に小さく座り、指先に力を入れすぎているのかカップが揺れている。襟元や髪飾りに触れては離し、落ち着きが空に消えている。


「御姉様。

 ・・・私、このように着飾ることが珍しく、どう振る舞えばいいのか、わからなくなってしまいました」


エイビスは隣に腰を寄せ、微笑んだ。


「大丈夫です。シャルは私の誇らしい妹です。お嬢様らしい作法を少しだけおさらいしましょう。

 背筋は糸で上に引かれる感覚で、顎はほんの少し引く。

 歩幅は広げず、目線は相手の眉より下に落としません。笑うときは目で笑う。言葉は一拍置いてから」

「・・・はい。御姉様、少しだけ、手を握っていてもいいですか」

「もちろんです」


 二人の手が絡み、呼吸が整っていく。そこへ、兵が控えめに姿を見せる。


「ドルフェリア王がお待ちです。謁見の間へ」

王座の扉の前に立つと、シャルの胸の上下が目に見えて速くなった。扉が開く。

謁見の間は海光を取り込む高い窓と、波紋のような床模様が印象的だ。

玉座の前まで進んだ瞬間、ドルフェリア王が一歩降り、エイビスとシャルを抱き寄せた。


「よく戻った。よく・・・」


突然の抱擁に、二人は迷いの表情を見せる。エルジードが前へ出て、恭しく頭を垂れた。


「陛下、しきたりに則り、まずはご宣誓を玉座の前でお受けください。歓談はその後で」

「早く話したいのだがな・・・わかった。しきたりに則ろう」


王が玉座に戻ると、二人は段前で膝をつき、声を揃える。


「私、レチカ・ドルフェン、ドルフェン家に帰還いたしました」

「私、シャルルローゼス・ドルフェン、御姉様と共にドルフェン家に帰還いたしました」


王は短く息を整え、歓迎を述べる。


「よくぞ。感謝と尊敬の言葉はいくら並べても足りぬ。だがまず、戻ったこと自体を寿ぐ。

 ――そして恩人たちにも礼を」


エイビスが続けた。


「シオン様たちの助けがなければ、私たちはここにいません。彼らはドルフェリア帰還の恩人です」


王は僕らに向き直る。


「ロクサリエンに追われている事情は聞いた。城は君たちの楯になる。可能なかぎり協力しよう」


突然、返答の順番が僕に回ってきて、胸の内で言葉の並びを探す。

掌の汗を拭う前に、シェトランテが一歩進み出た。


「ご厚意、感謝します。私たちは安全の確保と、同時に情報の交換を求めます。

 危険の予測と回避には、双方の記録をもって礼と実利を分けず、同時に進めましょう」

「理に適う。まずは休め」

と王は頷いた。


王妃が柔らかく僕へ視線を向ける。疑いの視線には見えない。


「エイビスの目線を見ると、あなたが皆さんの中心にいる方に見えます。

 シオンさん、とお呼びしてよろしいかしら。簡単に自己紹介をお願いできませんか?」

「シオン・ユズキです。剣を持ち、皆さんの前に立つ役を担っています。

 ご縁があり、ここまでご一緒しました」

「簡潔でよい言葉ね」


王妃は目を細めた。


「ようこそ、ドルフェリアへ」


 謁見は流れよく終わり、退出の礼をとる。廊下に出ると、僕は二人を見た。


「立派でした。エイビスのレクチャーも、二人の宣誓も」

「ありがとうございます、シオン様。今後は、きちんとした場の作法をお教えします。

 必要な場面が増えますから」

「そうだね、お願いします」


待機室に戻ると、エルジードが待っていた。


「姉姫様、妹姫様、シオン。今夜、陛下と王妃との食事がある。

 ――妹姫様、その顔は『聞いてない』と言いたいようだな」

「はい。エルジードさん、私はその・・・心の準備が」

「伝えてなかったのは俺の判断だ。先に告げれば、さらに宣誓がぎこちなくなる可能性があった。

 結果としては見事だった。納得できるところがあるなら、それでいいだろ」


シャルルローゼスは息を整え、頷いた。エイビスも視線で同意を示す。


「では、段取りは俺が持つ。――ミカロ、シェトランテ」


エルジードは二人へ向き直り、丁寧に礼をした。


「謁見の協力、助かった。二人の今日の予定は以上だ。王宮で部屋を用意してあるから、そこで休んでくれ」


食事会に胸を躍らせるエイビスとシャルルローゼスを背に、僕は二人を送ることにした。

シェトランテがいつもと異なる服が見れるのは今回が最後なのは少し惜しい。


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