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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第四章【解毒】

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「あれ、逃げてる?」


僕たちの前で残る二体の大木が、突如として動きを止めたかと思えば、ゆっくりと後退し始めた。巨大な根をずりずりと引きずるように、こちらとの距離を取っていく。


「今更さよならなんて、甘いよ」


セインが銃を構えながら吐き捨てるように言った。けれど――僕は妙な違和感を覚えていた。逃げているのではなく、何かをしようとしているような、そんな予感。

そしてそれは、すぐに現実となった。

二体の大木が互いに絡み合い、蔦を縫い合わせるようにして融合を始めた。幹と幹がねじれ、枝がひとつに束ねられ、まるで巨大な心臓のように脈打ちながら膨れ上がっていく。


「・・・気持ち悪い」


ミカロが呟くのとほぼ同時、セインが銃を構えた。


「今のうちに壊す!」


放たれた一発は、空気を裂いて融合の中心を突き抜ける――はずだった。

だが次の瞬間、融合体は粘土のように形を変え、その軌道をずらして弾丸を躱した。視認できないほどの速さだった。


「避けられた?」


セインの声に、皆が息を呑んだ。


「まさか私の弾道、読んでる?」

「いや、それだけじゃない」


僕は声を張りながら、大木の動きを注視した。セインの弾道だけじゃない。僕の足の動きも、剣の構えも――まるで、こちらの戦術を見透かしているかのようだ。


「これまでの戦い方、全部覚えてるって感じか?」


オラクリエも顔をしかめて呟いた。


「・・・学習能力があるってこと?」


ミカロの問いに、僕は頷いた。


「セイン、さっきの動きは何か知性を感じる?」

「そうだと思う。私の射線を変えるほどの反応速度は、生き物じゃないと無理。しかも一度だけじゃなくて、何度も」

「だったらこっちも、パターンを崩して挑むしかない」


僕はすぐに作戦を立てた。


「僕とセインが囮になって動きを引きつける。その間に、ミカロとオラクリエで決め手を打ってくれ」

「無茶ぶりでしょ、シオン。……でも、悪くない」


ミカロが皮肉まじりに笑う。


「よっしゃ、俺もやるぞ。やるときは全力で決めないとな!」


オラクリエも軽く槍を回して構える。作戦は決まった。僕たちは動き出す。


「行くぞ、セイン!」

「了解、シオン君!」


僕は先に駆け出した。大木の蔦が僕を認識し、次々と足元に伸びてくる。切っても切っても次がくる。ならば――


「《氷雨連斬》!」


無数の剣撃を、氷の雨のように蔦へ浴びせかける。けれど、相手の蔦は強靭だった。一部は切断できても、全体を突破するには至らない。


「まだ……!」


囲まれた。天井にまで広がる蔦の檻が、僕を完全に閉じ込めるように動きを変える。焦りが喉をかすめた、そのとき――


「シオン! そのまま、こっちに乗って!」


ミカロが風をまとい、上空から手を差し伸べてきた。その魔力が、僕の周囲に心地よい風を巻き起こす。


「風……風を利用すれば……!」


考えるより早く、僕は魔力を剣に流し込んだ。


「焦陽輪舞!」


ミカロの風を受けた僕の剣が、赤く燃える輪のような斬撃を放つ。その炎が、天井を覆っていた蔦を灼き切った。


「っは……!」


風に乗って外へ飛び出した僕の身体は、ミカロの風にふわりと支えられて宙を滑る。


「ナイス連携、シオン!」

「ありがとう、ミカロ……助かった」


空中から地上へと着地した僕の目の前には、変貌した醜悪な木の怪物が、再び蔦を広げながら僕たちを見据えていた。

まだ、終わりじゃない――でも、光は見えた。


「なんて数……っ!」


足元に絡みつく蔦の量が、それまでの比ではなかった。僕の剣が届くたびに切断されていくが、それでも次から次へと地面から湧き出すように蔦が増殖していた。


「シオン、下!」


ミカロの声に気づいた時にはすでに、両脚は地面から引きはがされるように蔦に絡め取られていた。


「くっ……」


足を取られるどころか、僕の体は逆さに吊るされるように空中へと引き上げられていく。隣にはミカロ、少し離れてセインも同じように宙に浮かび、三人ともまるで捕獲された獲物のようだった。


「・・・最悪。服の裾、めくれそうなんだけど」

「いや、そういう心配してる場合じゃない!」


大木は、動かぬ幹の中心で、不気味に口のような形状を開いていた。中には光の粒が渦を巻き、やがて大砲のようなエネルギー球体が形成されていく。


「撃つつもりかっ!」


セインが反応し、宙に逆さに吊るされながらも無理やり銃を構える。


「せめて――こっちに撃たせないように……!」


彼女の銃弾が、発射寸前のエネルギー弾に向かって放たれた。狙いは正確だった。だが、大木は器用にも口を閉じ、まるで唾を飲むように弾を呑み込んでしまう。


「・・・避けた?」

「ちょっと、アイツ、知性あるやつじゃん!」


オラクリエがそう呟くと、目を細めた。


「・・・なるほど。セインちゃん、もう一発、同じように撃ってくれない?」

「え、なんで?」

「いいから。あとで分かるって」


セインが再度弾を放つ。大木はまったく同じ動きで弾を呑み込んでかわす。瞬間、オラクリエの槍が闇の中に走った。


「記録よ、呼び起これ。ブレイザー・メモリア!」


彼の記録魔法が大木の口元へ出現し、木製の巨大な槍が上空から突き刺さる。命中と同時に、大木の身体が一瞬強く震え、口の中にため込んでいたエネルギー弾が暴走した。


「まずい、あれ暴発するぞ!」


「シオン、気をつけて!」


爆裂の衝撃波が周囲を包み、吊るされていた僕たちは一瞬、蔦の動きが弱まったその隙に――


「今だっ!」


僕は剣を逆さに構え、蔦の結合部分を一気に切断する。セインもまた、銃のストックを使って自身の蔦を砕いて地面に着地した。


「助かったな……けど、まだ終わってない」


その言葉通り、大木はまだ動いていた。オラクリエがミカロと共に大木へ詰め寄ろうとしたそのとき、残った蔦の一部が盾のように彼らの前に立ちふさがった。


「このままだと、ミカロの攻撃が届かない!」


オラクリエはすでに攻撃体勢に入っていた。だが、タイミングを誤れば彼女の魔法は遮られる。僕とセインは互いに目配せし、同時に行動を起こした。


「セイン、僕が右から蔦を引きつける。君はその隙に撃ち抜いてくれ!」

「任せて、シオン君」


僕が走り出すと、蔦はそれを察知して僕の方へ一気にうねりながら伸びてくる。その隙を、セインが逃さない。


「クリムゾン・ライン!」

炎をまとった銃弾が、蔦の根本を焼き切る。空間が開かれた――今だ!


「ミカロ、今よ!」

「ライジング・ブリーズ!!」


ミカロの魔法が放たれ、風の刃が大木の身体を斜めに貫いた。オラクリエも槍を構え、飛び込みながら渾身の一撃を叩き込む。


「グラン・ヴェルディア!」


爆発のような衝撃が走り、大木の中心に大きな穴が開いた。ぐらりと揺れたその巨体は、ついに崩れ落ちるように沈んでいった。

呼吸を整える間もなく、僕たちは再び集まり、倒れた大木の中心に立つ。


「・・・これで、本当に終わりだよな?」

「終わらせたのよ、アンタとセインと、みんなでさ」


ミカロの顔には疲労と、少しの誇りが浮かんでいた。オラクリエは槍を肩に担いで、満足げに笑った。


「よし……次は、あの建物の中か」


僕たちは互いに頷き合いながら、ようやく木造の研究所へと目を向けた――新たな戦いが、待ち受けている場所へ。


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