愛し子様の鑑定だぞ!
第一王子ジェラルドの娘ジェシカ王女は、偏食があるのか果物を摂っていなかったらしく、体調に問題は無いようだった。
つまり捜査の結果、呪いの毒林檎を食べていたのは両王子の妃様とジェフリー王子のみ。
犯人がどこまで狙ってのことなのかは分からないけれど、王家を断絶させたいのか? と疑いたくなる所業だ。
ジェフリー王子が良い子ですっかり気に入ってしまったレイとしては、犯人への怒りが爆発寸前だ。
我儘な王様以外の王族は家族仲もとても良く、皆かなり愛情深い。
王様がアンジェリカ王妃を大切にし、ギルフォードに執着しなければ、ここまで関係が崩れることはなかっただろう。
それに王族間に隙を作らず毒を盛られることなどなかったはずだ。
レイは王様への怒りもマックス。
そして犯人への怒りも超絶マックス状態になっていた。
(王様、自分勝手するなら王位を譲れよ! ほんとアホが上に立つと下の者が苦労するよねー。会ったら一発殴っとくかな)
レイが沸々と危険思考に陥っていると、部屋の扉が叩かれ、タロイの下に部下らしき人物がやって来た。
使用人の服を着ているその人物もタロイ同様目が鋭くどう見ても忍者。
シャキッとしたそのカッコいい立ち姿に感動し、レイは忍者がタロイに報告する様子を見つめる。
「そうか、分かった……」
普段の優し気な表情とは違い、タロイはキリッとした顔つきで部下に答えると、報告を終えた部下は一礼し素早く部屋を出ていき、タロイはジェラルドの傍による。
そしてそっと耳打ちすると今度はジェラルドの表情が変わる。
「そうか、分かった……」
そう一言応え頷けば、妃たちがジェフリーに声を掛ける。
「ジェフリー、着替えをして私の部屋へ参りましょうか」
「母上のお部屋に?」
「ええ、少し歩く練習を致しましょう。サブリナ様も宜しければ私の私室でお茶にいたしませんか?」
「ええ、是非。ああ、それでしたらジェシカも誘っていいかしら、ジェフリー殿下のことをとても心配していたのよ」
「はい、是非、ジェシカ様なら大歓迎ですわ」
「僕もジェシカ姉さまに会いたいです」
そんな会話を交わし妃二人とジェフリーは退出の挨拶をすると部屋から出ていった。
ジェラルドの目配せだけで大事な話があると理解し素早い行動に移せるのは流石王子妃だと思う。
できればレイも一緒に誘ってもらえたら嬉しかったけれど、仕方がない。
探偵役として事件を解決しなければならないレイとしては、今はとにかく情報が欲しい。
ジェフリーが離れて行ったことを確認すると、立っていた者も皆ジェラルドに言われ席へ着く。
そしてジェラルドがタロイからの報告を伝えてくれた。
「あの林檎は予想通りギャイル家からの差し入れだ。父上とギャイル侯爵は仲がいい、友人とも言える間柄だ。だから領地の林檎を父上に送ったのだろうが、父上が果物をそれほど好まないことは友人であれば知っているはずだ。そして母上の実家リアード侯爵家とギャイル侯爵家は仲が悪い。それを知る父が母に林檎を渡すはずがない。そうなれば当然果物好きな子供であるジェフリーに林檎が回る。母親であるキャロルも当然口に入れるだろうし、同じ孫であるジェシカにも林檎を回せば、私の妻サブリナも口にしただろう。城の鑑定士に林檎を鑑定させたが、呪いや毒は分からなかった……ただ【ギャイル家の特別製の林檎】と結果が出来たらしい。術者の力が城の鑑定士よりも強いのか……高価な水晶を使い改ざんしたかだな……使った水晶や呪いを掛けた術者を超える能力者を探せば答えは出せるのだが……」
「……」
なるほど、なるほど。
証拠の林檎があるのに証拠として使えない状態なのか。
(鑑定かー、鑑定できる人って確か珍しいんだよね?)
鑑定士と聞いてレイには一人の男性の顔が浮かぶ。
もちろんそれはレイの友人クライブだ。
彼はレイを鑑定しようとして鑑定出来なかったと言っていた。
それはもしかしたらレイが自分の秘密を無意識に守ろうとしていたからかもしれない。
けれど水晶の時やリュックを作った時などは、レイは自分の身元がバレるなど気にしていなかった。
特に水晶の方はどんな感じなのだろうと、ワクワクとしてさえいた。
そして水晶を使っての改ざん。
レイの場合は名前をアルクに変えてもらっただけだけど、ギャイル家は毒林檎を特別林檎と変えたのかもしれない。
もし愛し子であるレイが鑑定したらどうなろうなるのだろうか。
あの失礼な水晶はレイの時だけ特別枠で表現してくれた。
ケンの鑑定結果を見てレイは水晶に理不尽さを感じたものだ。
だけどそれがレイのせいだったとしたら?
そう考えるとレイの鑑定は特別になる可能性があった。
「あの、鑑定したものって証拠となるんですか?」
レイの問いかけにジェラルドが反応する。
「ええ、愛し子様、鑑定師は鑑定する際に小さな水晶を握ってそこに結果を残すことが出来ます。それは証拠品扱いとなり、犯罪の決め手となりえます」
「なるほど、なるほど、つまり小さな水晶がUSBメモリ替わりってことですね。ほんと変なところでハイテクですよねー、この国」
「えっ? ゆ? ゆうえすび? はいていく?」
レイの呟きを聞きジェラルドは疑問顔になったが、レイは頷き納得をした。
つまりレイが鑑定すればジュダス・ギャイルの悪事が詳しく分かるということだ。
(くっくっく、失礼な水晶はジュダス・ギャイルのことをなんて表現するのかなぁ?)
水晶に怠惰と言われたレイは得意げにニヤリと笑い、ジェラルドに声を掛けた。
「ジェラルド様、私に鑑定させていただけませんか?」
「愛し子様が鑑定を……?」
「はい。ダメもとで是非」
鑑定魔法など一度も使ったことなどないけれど、不思議と出来ない気がしないレイだった。
レイの鑑定の準備はタロイの働きであっという間に準備された。
水晶と毒林檎を持って来るだけなので当然ともいえるかもしれないが、忍者らしい素早さを見れてレイとしては満足だった。
「レイ、大丈夫かい? 鑑定なんてしたことがないんだろう?」
ギルフォードの問いかけにレイは素直に頷く。
失敗するかもしれないけれど、やらない理由にはならない。
それにレイには自信があった。
たぶんレイは無意識に鑑定をしている気がするからだ。
レイが冗談で言っている『シックスセンス』がまさにそれだろう。
ジェフリーや妃様方の体調不良の原因が分かったこともそのせいだと思う。
「ギルフォードさん、たぶん大丈夫。だって私にはじっちゃんに鍛え上げられたシックスセンスがあるからねー」
サムズアップし胸を張ればギルフォードは苦笑いだ。
S級冒険者どんだけだよ、とその顔が言っていて笑えた。
「じゃあ、行きます、『鑑定』」
【ギャイル侯爵領特別林檎
ギャイル領で採れた普通の林檎をジュダス・ギャイルが呪いを入れて特別甘く美味しくした毒林檎
一口食べればみんな虜になることは間違いなし
男性が食べれば血が濁り衰弱し
女性が食べれば血が濁り子供が出来なくなる
自尊心の高いジュダス・ギャイル自慢の一品
誰にも看破されないとジュダス・ギャイルの誇りと奢りが詰まった一品】
レイの頭の中に鑑定結果が浮かぶ。
色々と無駄な情報もあるけれど、これならば言い逃れできないだろう結果にレイは大満足だ。
「鑑定出来ました。ジェラルド様、見てください」
「はい、愛し子様、確認させていただきます」
ジェラルドがレイから水晶を受け取り、鑑定結果を確認する。
手に取り魔力を流し水晶を見た瞬間、ジェラルドは口を開け固まった。
「兄上? 結果はいかがでしたか?」
「兄上? もしかして不思議な言葉で書かれていましたか?」
弟二人の問いかけにジェラルドはどうにか頷き水晶を差し出す。
そして今度はジェイクとギルフォードが鑑定結果を見て、あんぐりと口を大きく開けた。
「レイ……これがレイの鑑定結果なの? 物凄い詳しい結果なんだけど……」
(ぬふふ、でしょうねー。水晶は私に対して特別仕様になるんで、そこは当然でしょう!)
自慢高々な気持ちを隠しレイは「そうですかぁ?」と誤魔化して見せた。
ギルフォードの「凄いよ、レイ!」という言葉に密かに照れ笑いを浮かべたレイだった。
「これでジュダス・ギャイルを追い詰めることが出来る、全て愛し子様のお陰だ。皆犯人捕獲は絶対に失敗は出来ないぞ」
「「「はっ」」」
ジェラルドの言葉にこの部屋にいるレイ以外の皆が返事を返す。
毒盛り犯人ジュダス・ギャイルとはレイもこの後会う予定だ。
第一王子ジェラルドの執務室に、ジュダス・ギャイルは呼び出される。
その時彼がどう出るか。
そして彼の実家ギャイル家がどこまでこの呪いに関与しているのか。
国の重鎮である侯爵家を追い詰めるのだ。
失敗は許されない。
やはりここでもレイ以外の皆の顔には、気迫のようなものが浮かんでいたのだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
次話が長いので今日は少し短めです。




