ストーカー
レイはクライブからの指名依頼を受けることにした。
本当は嫌だったけどしょうがない。
何故ならクライブはケンと出会わせてくれた恩人であり、ケンをサジテ国から救ってくれた恩人でもある。
奴隷屋にいた時もクライブは死にかけのケンをすぐには見捨てなかった。
それどころか救えそうなレイと出会わせたのだ。
ある意味ケンの命の恩人でもある。
なので話を聞いた時点でレイの答えは一つだったのだが、クライブと顔を合わせることだけがちょっとだけ嫌だった。
(クライブさん最初から私を愛し子だって怪しんでたんだろうなー。だからストーカーまがいの行動してたんだよね、きっとそうに決まっている!)
レイ自身に興味があった。
というよりも、奥様の解呪を出来る人間をずっと探していたと思えば、ストーカー恐怖からちょっとだけ解放される。
ジャックスが用意した馬車に乗り込み、王都の街を進めば、レイたちが拠点とするギルフォードの屋敷を通り過ぎる。
そして五分ぐらい走れば、冒険者ギルド長であるジャックスの屋敷なのか、それとも奴隷屋のクライブの屋敷なのか、どっちにしても二人に似合いそうなダークな色のお屋敷に着いた。
(ううう、まさかのご近所さんだったよ、狙ったわけじゃないよね? 偶々だよね?)
怯えるレイは恐る恐る馬車から降り、屋敷の入り口に足を踏み入れる。
ちょっとだけお化け屋敷に入る時のような心境だが、怖いのはお化けではない。
ストーカーが待ち構えているような気がして怖かったのだ。
「レイ様、私の依頼を受けて下さり有難うございます」
「……ク、クライブさん……」
(うわぁー! やっぱりいたよ!!)
案の定、ルオーテの街にいるはずのクライブはこの屋敷で当然顔で待っていた。
レイは怖いもの見たさな心境でクライブに声を掛ける。
「あ、あの、クライブさんはいつから王都に……?」
「そうですねー、ちょうど一週間ぐらいでしょうか? 娘にも会いたかったので休暇を取って戻ってまいりました」
「ソ、ソウナンデスカー……」
レイとクライブの王都滞在期間はほぼ一緒。
もしかして王都での行動も見られてたのかな? と怖い考えが浮かぶレイの前、頬を染めてレイを見ている一人の少女と目が合った。
「えっと、クライブさん、そちらの方がお嬢様ですか?」
「はい、娘のクララです。クララ、レイ様にご挨拶を」
クララと呼ばれた少女が一歩前に出る。
可愛らしい笑顔だが、クライブに似たチョコレートのような目はレイに釘付けだ。
「はい、レイ様、クライブが娘、クララ・ゴアです。お会いできて光栄ですわ。レイ様がお造りになられた手鏡も大事に使わせて頂いておりますの」
「ソ、ソウナンデスカー……」
クライブの娘クララはカークと変わらないぐらいの歳に見える。
クライブによく似た顔つきで、瞳も髪もクライブに似ていてチョコレートのようだ。
そんな彼女は何故かレイをうっとりと見つめている。
彼女にはレイがチョコレートケーキにでも見えているのだろうか。
初対面でありながらここまで好意を送られるとは……
クライブはクララに何を話したのだろうかと、レイは身震いを覚えた。
(えー? 愛し子だから? それとも私がクララさんの好みど真ん中なのかなぁ?)
男装中のレイなので女の子に惚れられてもおかしくは無いが、レイは八歳ぐらいに見えるらしく、だとしたらこのうっとりは別の意味で怖いものに思えてしまう。
(クララさん、ショタ好き? えっ、その歳で狙うところが私なの?)
クライブの娘なら有り得そうな予想に、レイはまたちょっとだけ怖くなる。
だけどじっちゃんの孫として女性を傷つけてはならないと、どうにか笑顔を保った。
「クララさん、手鏡、気に入っていただけて良かったです」
「はい、一生大事にしてゴア家の家宝にさせて頂きます」
(家宝って……)
突っ込みたいレイだったが、クライブもジャックスもその通りと頷いているためそれが出来ない。
なので笑顔を貼り付けたまま、この恐怖と苦痛に耐え切った。
「さあ、さあ、クライブ、レイ君たちを玄関口で立ったままにさせるなんて失礼だよ」
「ああ、そうでした。レイ様、皆さま、こちらへどうぞ」
「レイ様、どうぞ我が家だと思ってくつろいで下さいね」
「……アリガトウゴザイマース……」
石化状態の家族がいると言うのにクライブ一家に悲壮感はない。
それどころか、まるでこれからレイをゲストにお茶会でもするかのような楽しげな雰囲気で、本当に呪いを受けたんだよね? と疑いたくなるぐらい明るい様子だ。
「さあ、レイ様、お茶をどうぞ」
「焼き菓子は私が選びましたのよ!」
至れり尽くせりな様子でお茶が出される。
レイ様の口に合うでしょうか? と期待が籠った目を向けられ、レイはどうにか笑顔で「美味しいです」と答えた。偉い!
でもハッキリ言ってお茶の味もお菓子の味も分からない。
だけどホッとするクライブたちを見て、レイはやりきった感で一杯だった。
「レイ様、解呪をお願いする妻の呪いですが、本来それは私が受けるべきものでした……」
皆がお茶に口を付けるとクライブが語り出した。
クライブとジャックスは学園時代からの友人で、お互いの家を行き来する仲、親友だった。
そしてクライブがジャックスの家に行けば必ずジャックスの妹と顔を合わせた。
そうすれば当然クライブと妹も仲良くなっていき。
いつしかジャックスの妹とクライブは恋に落ち、恋人同士となった。
だがジャックスも妹も貴族の子供。
一方クライブは有名な奴隷屋の跡取りだが平民。
当然親は結婚に大反対した。
「友人であればまだ許すが、平民との結婚はあり得ない」そう言われたそうだ。
ジャックスはそれもあり妹と一緒に親とは縁を切った。
その後ジャックスは冒険者ギルドに勤め、すぐに頭角を表し注目された。
クライブは奴隷屋を継ぎ評判を高めていった。
友人関係も良好。
家族仲も良好。
ただし、それを許せなかったのがジャックスの親だ。
娘を取り戻すため、美しいクライブの妻をずっと好きだった男を使い、クライブに解けない呪いを掛けようとした。
だがそれは失敗に終わる。
身を挺してクライブを守ろうとした妻が間に入ったからだ。
「犯人の男はね……ずっと妹に付き纏っていた奴でねー……」
「つまりそいつもストーカーか……」
ぽそりと呟いたレイの言葉は誰にも聞こえなかったようで、ジャックスの話は続く。
「何度も何度も注意してやっと大人しくなったとそう思っていたんだよ。それがまさか、僕たちの親に唆されていたとはねー……知ったときは信じられない気持ちだったよ……」
ストーカー男は魔法使いだった。
最悪な事にそれなりの手練れでもあった。
だが、石化の呪いを発動させ魔力を使い切り、ストーカー男は死んでしまった。
そのせいで解呪をますます難しくさせた。
「呪いは術者が死ぬとより強力になるそうなんだよ……」
それも術者はストーカー気質の粘着タイプ。
かけられた魔法もそんな相手に似たかのようで、高位の聖職者でも解呪は出来なかった。
「私は妻の為、呪いを解ける術者の情報を集めました。そしてルオーテの街にあるスピアの森にS級冒険者がいると、噂を聞きつけたのです」
それこそが元S級冒険者のロビン・アルク。
レイのじっちゃんのことだった。
クライブは妻のためルオーテに拠点を移し、じっちゃんに接触を図ろうとした。
S級冒険者ならば解呪に効くポーションを持っている可能性もあるし、依頼で解呪出来る者を探してもらえるかもしれない、そう思ったからだ。
けれどじっちゃんは森から出なかった。
それはレイが居たからだが、じっちゃんは街に出なくとも森の中だけで十分生きていけたからだった。
「そんなある日、レイ様が私の前に現れました。幼いながらも博識で愛情深く、艶やかな黒髪を持つ少年……私は失礼ながらレイ様を鑑定させて頂きました」
「鑑定?」
(いつの間に?!)
だがレイはクライブの鑑定を弾いてしまった。
クライブにとってそんな事は生まれて初めてで、物凄く驚き、それと共にある事に気がついた。
「レイ様は愛し子ではないか……と気づいたのです」
「お、おおう……」
(バレバレやんけ)
その日からレイのことが気になって仕方がなく、クライブはマルシャ食堂へ向かった。
するとケン達はすっかり元気を取り戻し、傷も何もなくなっていて、普通に働いていた。
そして冒険者としてのレイの活動を調べて行くうちに、クライブはその行動の不思議さからレイは絶対に愛し子だと確信をした。
だがレイを守る者は多くいる。
それにGランク冒険者に指名依頼は出せない。
そうこうしているうちにレイが王都へ向かった事を知る。
クライブはここぞとばかりに伝手を使うことにした。
「レイ様が栄養ドリンクなるものを配っている事を知りました。残念ながら我が店には来て頂けませんでしたが、それがあればと思ってもいました……」
「ひっ、す、すみません、クライブさんのとこならポーションなんて沢山あると思って……」
「いえ、レイ様が貧しい者たちへと配慮するお気持ちは分かっておりますので」
まったく責められていないのだが胸が痛い。
苦手なクライブを避けただけに良心が痛む。
「王都に来たのならばレイ様なら冒険者ギルドに行くのではないか、そう思いました」
ケンとカークも王都に出かけた。
ならばレイが冒険者ギルドに行く確率は高い。
ルオーテの街にはないツテが王都にはある。
クライブはジャックスに願い出て、一か八かで指名依頼を出した。
そして今、レイはそれを受けクライブの家にいると言う訳だ。
(えー、あの気持ち悪い視線は言いたいことを言い出せなかったからってこと? クライブさん、絶対私の反応楽しんでたよね? そんな気がするー)
「レイ様、どうか、妻のことをお救い下さい」
クライブ、クララ、ジャックスがレイに頭を下げる。
この場で「無理」とか「出来ない」なんて小心者なレイが言えるはずがない。
「あの、クライブさん、石化の呪いは解いた事がないので百パー出来るとは言えないのですが……クライブさんはケンの恩人です、なので精一杯のことはさせて頂きます。だからどうか頭を上げて下さい」
レイの言葉を聞き顔を上げたクライブたち。
その顔には羨望の色が濃く出ていて、レイはちょっとだけ背中に悪寒を感じた。
(ひっ、なんか怖い!)
「レイ様有難うございます。ゴア家はこのご恩を一生忘れません」
(いえ、すぐに忘れて下さい!)
心の中でそう叫んだレイだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
またブクマ、評価、いいねなど応援も有難うございます。
クララは愛し子であるレイの凄さをクライブからいっぱい聞いてすっかりファンになっています。決してショタな訳ではありません。
それとレイたちに内緒で付いてきた影たちは大慌てです。




