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レイののんびり異世界生活~英雄や勇者は無理なので、お弁当屋さん始めます~  作者: 夢子


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萎れた王子と真犯人

 王城からの帰り道。

 馬車の中でギルフォードの表情は暗く重く、とてもじゃないがレイは『アンジェリカ、ルオーテ移住計画』をギルフォードには持ち出せなかった。


(ギルフォードさんのキラキラが萎れてる……お兄さんとの話し合い、もしかして上手くいかなかったのかなぁ?)


 もしかしたら第一王子はレイの推理を信じてくれなかったのかもしれない。

 そして実行犯メイドのこともアンジェリカの差し金だとギルフォードの話を信じてくれなかったのかもしれない。


 ギルフォードの余りの硬い表情に、無言が続く馬車の中レイはそんなことを考えていた。


 そしてテンプレ行事も何もなく無事屋敷に付き、メアリに笑顔で迎え入れられ、レイに与えられた部屋へ向かおうとしたところでギルフォードがやっと声を掛けてきた。


「レイ、疲れているところ悪いけれど、夕食の前に少し話が出来るかな?」


「うん、勿論だよ! 着替えたらギルフォードさんの部屋に向かえばいい?」


「ああ、そうだね、部屋に来てもらえると助かるかな」


「分かった、じゃあ、急いでいくから待っててね!」


 レイが笑顔でサムズアップを見せれば、ギルフォードは少しだけ微笑んでくれた。

 でもその顔にはいつもの覇気がなく、レイの横に立つメアリも心配そうだ。


「ギルフォード様はどうされたのでしょうか……」


 ギルフォード色のドレスから普段使用のワンピースに着替えさせてくれながら、メアリがレイに問いかける。


 手際はいつも通り素早いけれど、メアリの笑顔もしぼんでしまった。

 ギルフォードが心配で仕方がないようだ。


「うーん、全然大したことじゃないんだけど、今日私が毒を盛られちゃったんだよねー」


「えっ……ど、毒……?」


 レイの黒髪をハーフアップにし、リボンを付けかけていたメアリの手が止まる。

 毒を盛られたレイが生きているのが不思議なのか、その茶色の目が大きく見開かれた。

 それを見てレイは自分の言葉足らずに気づく。


「ああ、全然、問題ないんだよ。毒は未然に防げたし、ゾーイさんとメイソンさんが犯人を取り押さえてくれたからみんな無事だったし、誰も死んでもいなんだけどねぇ」


「……」


 ざっと説明しただけでも十分に問題がある話だが、レイは驚いたままのメアリを安心させるため話を続けた。


「王妃様が犯人だってされてる事件は、全部今日私に毒を盛った犯人が王妃様に押し付けたことだったんだよねー。だからかなぁ、ギルフォードさんもちょっとショックを受けちゃったみたい。そりゃあそうだよねー、ずっと犯人だと思って恨んできた人が犯人じゃなかったんだもん、ギルフォードさんのショックも仕方がないと思うんだー」


 きっと第一王子もまたギルフォードから話を聞きショックを受けただろう。

 第一王子もアンジェリカを犯人だと信じ、自分の母親を責めてきた。


 二人の話し合いがどうなったかは分からないけれど、重いものになったのは確実だ。

 名探偵でなくてもレイには分かる。


 でもレイはこの後、ギルフォードをもっと苦しめる話をしなければならない。

 レイの話を聞いた時、ギルフォードはどうなってしまうだろうか。

 もしもの時はレイがずっと傍にいて慰めてあげよう。


 そんな覚悟を決め、レイはアンジェリカが話してくれたギルフォードの母親(エミリ)の真相を話すつもりでいた。


「……あの、メアリ? 大丈夫?」


「あ、レイ様、申し訳ございません」


 安心させるつもりで今日のことを話したけれど、メアリは真っ青になり具合が悪そうな様子になってしまった。


「もしかして、メアリもアンジェリカ様が犯人だと思ってた?」


「ええ、その……はい……申し訳ございません」


「仕方がないよ、王様だって王子様達だってみーんな真犯人に騙されてアンジェリカ様を犯人だって信じちゃってたんだもん、メアリが信じちゃうのもしょうがない、ギルフォードさんを護る人たちから話を聞けば尚更だよねー」


「……」


 申し訳なさそうに肩を落とすメアリを励ましたけれど、レイの髪に結んでくれたリボンはちょっとだけ曲がっていて動揺が見て取れた。


 そんなメアリと共にギルフォードの部屋へ向かう。

 着いたギルフォードの部屋には、メイソン、ゾーイ、ケン、カークが居て、皆も部屋着に着替え友人として寛いでいた。


「レイ、こっちの席へおいで」


「うん、有難う」


 レイが部屋へ入ると、ベイリーが新しいお茶を準備してくれる。

 これから重要な話があると気が付いたメアリはそっと部屋を出ていこうとしたけれど、ギルフォードがそれを止める。


「メアリにも話を聞いてもらいたい」


 レイから今日のことを簡単に聞いていたメアリは既に心の準備が出来ていたのだろう。

 決意を固めた表情を浮かべ頷いた後、レイが座るソファーの後ろに立った。


「……今日、王妃のお茶会で、レイが毒を盛られた……」


 まだ聞いていなかったベイリーだけが息をのむ。

 だけど流石家令だけあって声に出すことはなくその表情は落ち着いている。


 ギルフォードはそんなベイリーに視線を送り頷いた後、話を続けた。


「今日、長兄であるジェラルド兄上にはレイの推理を話した。ジェラルド兄上は今日中に次兄のジェイク兄上にも事件のことを話す予定だ。それと、王妃の態度からしても、そしてあの犯人のメイドの証言からしても、レイの予想は正しいと僕も思う。きっと兄とタロイがメイドの裏を調べれば、これからもっと詳しいことが分かるはずだ……」


 第二王子も第一王子からアンジェリカのことを聞けばショックを受けるだろう。

 自分たちの母親を犯人だと思い込んでいたのだ。

 その衝撃は強いはず。


 アンジェリカと友人になったレイとしては (息子たち、反省しろよ!) と大いに言いたいところだが、全ては真犯人が悪い。絶対に裁いて(捌いて)やる!


 あとついでだが、レイは自分勝手なこの国の王様も大っ嫌いになっていた。



「それで……兄上と話して、僕はある一人の人物を真犯人ではないかと疑っている……」


 レイによってヒントを出されたギルフォードは、犯人像に思いあたった様だ。

 王族の近くにいて、王妃を犯人に仕立て上げることのできる人物。

 そして貴族の間で強い力を持ち、発言力もある人物。


 最初は側近のタロイが犯人かもと思ったけれど、そうではないとなればギルフォードはある人物に行き当たったようだった。


「ジュダス・ギャイル……元宰相の祖父を持ち、筆頭侯爵家のギャイル家の次男……そして兄上の側近の一人でもあり、未来の宰相候補だ……それと姪のフアナ嬢に至っては、僕の筆頭婚約者候補だったからねぇ……」


 見るからに冷たそうな印象を持つタロイとは違い、ジュダス・ギャイルは人当たりの良い好男性。

 第一王子の側近の一人でもあり仕事も出来る上、生まれも育ちもいい。

 ギャイル侯爵家には王女が降嫁した過去もあり、王族の血も引いている。


 ギルフォードから話を聞けば聞くほどジュダス・ギャイルが怪しくて仕方がない。


 何よりこれまで第一王子への報告は常に彼がしていたらしい。


 もう絶対ジュダス・ギャイルが真犯人だろう。


 レイはギルフォードと同じ意見だった。



「あ、あのね、ギルフォードさん、私もちょっと話があるんだけど……」


「ん? レイ、なんだい?」


 遠慮なく話していいよというギルフォードの優しい目がレイの良心に響く。

 でも真犯人らしき人物が浮かび上がった今だからからこそ、レイは心を鬼にして話すことを決めた。


「あ、あのね、ギルフォードさんのお母さんに毒を盛ったのは……お母さん本人かもしれないって……アンジェリカ様が言ってってね……」


 レイの爆弾発言を聞いてもギルフォードは落ち着いている。


「そうか……そうだろうね……」


 と納得したように呟き、何かが繋がったような顔をした。


「ジュダス・ギャイルの兄嫁は、母の友人だった……」


 その女性に色々と吹き込まれたとしたら、ギルフォードの母親が疑心暗鬼に陥るのは当然で、心の病気になるのも頷ける。


 それに毒の入手先もその 『友人から』 というのが濃厚になる。

 外に出ることがない側妃が自分で毒を入手するなど困難だからだ。


「僕が幼いころ、フアナ嬢は母親と一緒に良く城に遊びに来ていた……その彼女が僕や母上は王妃様に嫌われていて可哀そうだと、笑って言っていたことを思い出したよ……」


 ジュダス・ギャイルの名を聞いてギルフォードは幼いころの記憶を思い出した。

 母親が亡くなった後もフアナ嬢はギルフォードの傍に行き、エミリ様は王妃様に殺されたのよと囁いたらしい。


 子供の言葉だとしても物凄い不敬な言葉だが、フアナ嬢は大人の前では一切そういうことは言わなかったらしい。


(フアナ嬢は好きな子をいじめて喜ぶタイプかも……)


 それも質の悪さにレイは怒りを覚える。

 フアナ嬢はギルフォードの弱っている姿や自分の言葉を信じる姿に快感を感じていたのだろうか。


 そんな相手と婚約も結婚もしなくて良かったねと、ギルフォードを王城から逃げるように促してくれたアンジェリカには感謝した。


「レイには悪いけれど、一度ジュダス・ギャイルに会って欲しいんだ……勿論彼のことは調べるけれど、愛し子(レイ)から見て彼がどう見えるのか、レイのしっくすせんす? とかやらで確認してもらえると助かるのだけど、大丈夫かな?」


「う、うん、勿論だよ、任せて!」


 ギルフォードがシックスセンスと言ったことが面白くって、重い雰囲気なのにレイは笑いそうだった。


 どうにか堪え、ギルフォードを見つめる。

 笑いで目が潤んでいたのか、ギルフォードが心配げにレイをみてきた。


「レイ、怖がらなくてもいいよ、君のことは皆で必ず守るから、安心してくれて大丈夫だよ」


「う、うん……ギルフォードさん、護衛宜しくねー」


 レイは場の空気を壊さないよう頑張って耐えた。



 そして話し合いの結果、ジュダス・ギャイルとは第二王子の息子ジェフリーの解毒の後、会うことになった。


 はてさてどんな人物か、ある意味楽しみで仕方がない。


 名探偵レイは友人たちを苦しめた真犯人を、愛し子としてコテンパンにやっつける気満々なのだった。

こんばんは、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

またブクマ、評価、いいねなど応援も有難うございます。


ジュダス・ギャイルもフアナ・ギャイルも

名前を付けたのは私ですが呼びにくいかも……


七時に投稿したと思っていたら保存しただけでした

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