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レイののんびり異世界生活~英雄や勇者は無理なので、お弁当屋さん始めます~  作者: 夢子


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レイの豪遊

 昨夜の夕食の席、レイは桜色と言える薄いピンクのワンピース姿で登場した。


 メアリの「ギルフォード様がレイ様のために用意した洋服がございますわ」との言葉に、流石にレイは「着たくはない」とは断れなかった。


 レイとしてはお風呂上りは自室にこもり、楽な服装(パジャマ)でだらーんとしていたかったけれど、お姫様のようなお部屋に通された以上、ある程度いい子ちゃんでいるように頑張った。


 夕食も本当は部屋で摂りたかったけれど、「是非ギルフォード様とご一緒に」と勧められてしまえば、レイに断る選択肢はない。仕方がなく可愛いピンク色のワンピースに着替え食堂へと向かったのだが


「ふふふっ、レイが女装してると変な感じだね」


「……」


 ギルフォードにそう言って笑われ、レイは今後は食事は部屋で摂ると宣言した。

 せっかく可愛く着飾ったのに、正装を女装と言われれば怒りしかない。


 まあ普段から女性ではありえない膝だしをしているレイも悪いのだが、ギルフォードの照れ隠しの揶揄いはレイを傷つけた。


(ギルフォードさんって、本当に失礼! 王子様失格だよ!)


 ぷんすか怒るレイを見て、ギルフォードはごめんごめんと軽く謝り、それがまたレイの堪忍袋の緒を踏んだ。

 その日の夜、ギルフォードはメアリにこってりと絞られた。

 女性を褒めるどころか貶すなど何たることだ! と鬼の形相で怒られたのだが、サッサと布団に入ったレイはそれを知らない。

 知っていたら当然の報いだと思ったことだろう。


 そんなことがあっての次の日。

 お出かけにレイが選んだ服は当然いつもの学ラン(少年服)坊主(鳥打帽)姿だ。


 レイを着飾りたいメアリは残念がっていたけれど、やっぱりこの服装の方がレイもギルフォードも落ち着く。


 冒険者の指導係と教え子として目立たない馬車に乗り込み、約束通り街へのお買い物にレイたちは出発した。


「もう少ししたら馬車を預けられるから、そこからは街の中を歩こうか? レイが気になる店があったらそこへ入ろうね」


「はい、それが良いです! まずは街を見てみたいから」


「うん、分かったよ。まあ、暫くは王都に滞在すると思うし、今日は色々と見て回って、その間にもし買いたいものがあったら買ってもいいし、品によってはいい店を案内できると思うから声を掛けてね」


「はい、ギルフォードさん、有難うございます!」


 朝から賑わう王都の街を見て、レイのワクワクは止まらない。

 どんな面白いものがあるかな? と興味津々で仕方がなかった。


「さあ、レイおいで、今日は絶対に僕の手を放しちゃだめだからね」


「はい、了解です」


 ギルフォードと手をつなぎ、街に出る。

 メイソンとゾーイ、そしてケンとカークも一緒だが、彼らは買い物ではなく護衛役、良い品を狙うレイとは違う意味で目が鋭くなっている。


「タロイは王城に報告に戻っているから、今日はゼダとゴウが僕たちを見張っているからね」


 小声で囁かれレイはこくんと頷いて返事を返す。

 見るからに護衛役なメイソンたちとは違い、ゼダとゴウは目立たずレイたちについてきているようだ。


 忍者に見守られながらの買い物にレイのテンションはますます上がる。

 要人になったような気がしてならない。


「あ、ギルフォードさん、あれ見たい、あのお菓子屋さん」


「どれどれ?」


 最初にレイが気になったのはルオーテの街にはないお菓子屋さんだ。

 ルオーテの街ではマルシャ食堂のようにお菓子を食べられるお店は珍しい。


 なので王都で初めて目にしたお菓子専門店が気になったのだ。

 その上、カラフルなお菓子や、不思議な形をしたお菓子もあって面白そうだった。

 味云々以前にとにかく気になるので見てみたいというのが本音だった。



「確認いたしますので少々お待ちください」


 メイソンが先に店に入り、店内を一見すると頷きレイたちを通してくれた。

 店内は思ったよりも小さく、お菓子の数もさほど多くはない。

 だけどどうやって色付けしているのか分からないお菓子や、紙に包んだ何か分からない菓子もあり、そして飴ちゃんもあり、レイは全部買ってみようとそう思った。


「すみませーん」


「はいよ、いらっしゃい」


「えっと、ここからそこまで全部、二十個づつ下さい」


「えっ?」

「ちょっと、レイ?」


 お菓子が飾られている棚の右端から左端を指し、レイは大人買いを選択する。

 店の人は驚いているし、こんな下町のお菓子を食べたことなどないだろうギルフォードは呆れている。


「お客さん、ちょっと時間貰っていいかい? 今急いで準備するからさ」


「はい、勿論です。ここで待たせてもらいますね」


 慌てるお店の人に頷いて答え、ゆっくり準備してくださいと余裕顔を見せる。

 お店の人は店の奥にいた奥さんや、子供らしき人物を呼び出し、ちょっと汚い麻袋っぽいものにお菓子を入れようとしたのでレイはそれを止める。


「すみません、この袋に入れてもらえますか?」


 そう言って紙袋を差し出せば、一瞬 (なんだこれ?) という顔をされたけれど、無事袋だと分かったようでお菓子を入れ出してくれた。

 面白いお土産が出来たとほくほく顔で作業を見つめていると、ギルフォードにツンツンと肘でつつかれた。


「レイ、本当にあれを食べるの?」


 綺麗で見た目の良い美味しいお菓子しか食べてこなかっただろうお坊ちゃまなセリフを聞き、レイはにやりと笑う。


「ギルフォードさん、ああいうものが意外と美味しかったりするんですよ。子供のころ駄菓子とか食べませんでしたか?」


「だ? だ菓子?」


「そう、駄菓子」


 やっぱり王子様に駄菓子なんて出されないかとレイは頷きつつ、「王都で普通に売っているもの」が欲しかったのだと笑って答えた。


 ギルフォードが支払いをしてくれようとしたところを断り、レイは自分で稼いだお金でお菓子を買った。

 レイからのお土産なので自分で払いたいと言えばギルフォードは大人しくお財布を収めてくれたし、嫌な顔もしなかった。


「ギルフォードさん、次はね、あの店、あそこに行って見たいです」


「あそこ? って、生地屋?」


「はい、布が見てみたいです」


 布を売っているお店に入り、たっぷりと並んでいるカラフルな生地を見せてもらう。

 庶民用の生地だけあって肌触りはあまりよくないけれど、この店ではちょっとお高めの生地であればギルフォード用にも何とか使えそうだった。


(ギルフォードさんもメイソンさんもゾーイさんも基本良いとこの子供だから、何か作るにしても安物じゃダメなんだよねー)


 シュシュをたくさん作って手持ちの生地がだいぶ無くなってしまったレイはここでも大人買いをする。


「えーと、ここの棚にある生地を全部下さい」


「えっ? 全部?」


「はい、全部です」


「は、はい、有難うございます!!」


 お金を支払い買った生地を空間庫にしまおうとしたけれど、ギルフォードに笑顔で止められた。

 ゾーイがササっと店の人の傍に行き、レイが買った生地を全てゾーイの魔法鞄に入れてくれた。


「レイ、空間庫は禁止だよ」


「ああ、そうでした、つい忘れちゃって、てへ」


 店を出た瞬間ギルフォードに小声で注意され、レイは笑って誤魔化す。

 あっちこっちが気になってつい忘れてしまったが空間庫には気を付けよう。

 あざと可愛い笑顔で失敗を誤魔化し、レイは次の店へ向かう。


「ギルフォードさん、宝石店ってありますか?」


「宝石店って……貴族街の方が良い装飾品はあるけど?」


「ううん、そういうのじゃなくって、小さい宝石? クズ宝石? 私が装飾品作るのに細かい宝石を使いたいんだよねー」


「……」


 レイは何でも作るんだねと言いながら、ギルフォードは宝石店の下請け業者のようなお店へ案内してくれた。


 店にある小箱の中には本当に小さな宝石が入れられていて、色ではなく大きさで区分されていた。

 一番小さなものは「ふうっ」と息を吹きかけたら飛んでいきそうなほどで、粉のようだ。

 親指ぐらい大きいものもあったけれど、そちらは亀裂が入ったり、色が悪かったりと、売り物にはならないらしい。

 でもレイから見ると宝の山そのものだ。

 これは買いだな! と心の中であくどい顔を浮かべた。


「これ、この箱のもの全部下さい!」


「えっ?」

「……」


 クズ宝石の値段はとても安く、自宅にあるじっちゃんの遺産な宝石を壊すよりもずっといい。

 それでも当然子供のお小遣いでは買える金額ではなく、店の人は保護者なギルフォードへと視線を送る。どう見ても子供なこの子(レイ)が買うんですか? とその目は言っているけれど、レイの笑顔を見てギルフォードは頷いてくれた。


「ぬふふん、これを魔法で布に張り付けるんだー、楽しみー。絶対にキラキラして綺麗な生地が出来るよねー、早く作りたいなー」


 購入して満足げにそう呟けば、作ったらまず自分に見せてとギルフォードに約束させられてしまった。

 キラキラ王子にキラキラ衣装を作るのも面白いかも。

 そう考えたレイは「はい」と素直に頷く。

 まずはギルフォードの衣装を作ってみよう、そう決めたからだ。


「そろそろ帰ろうか? 屋敷でお昼が準備されていると思うし……」


 ちょっと王都へ散歩に出たはずだったのだけど、レイの買い物が始まってしまいもうすでにお昼だ。

 ついでにお昼も街でと行きたいけれど、屋敷で準備されているとあっては帰らない訳にはいかない。


 それに暫くは王都で過ごすのでまだ買い物の時間はたっぷりとある。

 だからレイはその提案に頷いたけど、「あっ!」とあることを思いだした。


「ギルフォードさん、私本屋さんに行きたい、買いたい本があるんだった」


「本屋? 本なら屋敷に届けさせることもできるけど、どんな本が欲しいんだい?」


「あのね、ロブさんにしゅんが本って本を頼まれたの、王都ならいいしゅんが本が売ってるんだって、私、しゅんが本がどんなものか良く分からないから、ギルフォードさんとメイソンさんのお勧めがあったら教えてくれる? きっと男の人の方がロブさんの趣味が分かるでしょう?」


「「……」」


 春画本を辞典か図鑑かなんかだと思い込んでいるレイの提案に、メイソンとギルフォードが笑顔のまま固まった。


 王都の道のど真ん中で「春画本」と繰り返す少年とその保護者。

 街行く人々の視線がメイソンとギルフォードに集まり居た堪れなくなる。


 ゾーイなどはスッと後ろに下がり、自分は関係ない人状態になっている。


 ケンとカークはギルフォードたちから目をそらし、護衛としてあるまじき状態だ。


「レイ……それは、僕が適当に買ってロブに渡すから……レイはもう忘れていいよ……」


「そうなの? でも私もしゅんが本が気になるんだよねー、色々と種類があるんでしょう? メイソンさんとギルフォードさんはどんな本を持ってるの? あ、お部屋にあるなら見せて欲しいなー、今後の参考にするからさー」


「……」


 はっきり答えるべきか、それとも誤魔化すべきか。


 レイの年齢的には話してもいい気もするが、では一体誰が話すのか? となった場合、メイソンもギルフォードも無理だ。

 純粋な幼い子供に見えるレイに春画本の内容を教える。

 そんな拷問かと思える行為を思い浮かべ、彼らは無言になったのだった。


「……」


 その日の夜、ギルフォードはメアリに相談した。


 レイが春画本がどんなものか知りたがっていると……


 その結果、レイは王都にいる間にメアリから春画本がどんなものなのか秘密裏に聞かされ、ロブさんってば子供になんてものを買わせるんだ……と呆れることになるのだった。


こんばんは、夢子です。

本日もお読みいただきありがとうございます。

またブクマ、良いね、評価など、皆様の応援有難く受け取っております。


レイは小金持ちです。

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