王都に到着
「わー、凄い凄い! 建物が大きい! それに道も綺麗! 流石王都! 凄いねー!」
遂にレイは王都入りした。
タロイが言っていた予定通り、朝早い時間に宿屋を出て、午前のおやつ前には王都へ入る入場用の門前に到着した。
そこで待たされること数十分。
特別枠の貴族用の入口に通されると、馬車の中を確かめられることなく王都への入場が許された。
タロイの持つ許可証が王城の物であったのもそうだろうが、何より宿屋を出るときに乗り換えたこの豪華な馬車が証明書にもなっている。
王家の紋入り馬車を見て、並んでいた貴族の馬車たちはすぐさま避けていた。
皆控えおろう王族のお通りじゃ!
まるでそう言っているかのように、波が引くかのごとく皆レイの乗る馬車を避けるのだ、旅の間この馬車をしまっておいて良かったと、レイは苦笑いを浮かべそう思っていた。
そしてそのまま目立つ馬車で王都に入ったのだが、目に入って来たのは五階まである大きな建物や、荷車を押す商人たち。
そして忙しそうに走り回る人々、笑い声、呼びかけ、多くの喧騒が聞こえ嬉しくて仕方がない。
自分は今大都会にいる!
森に捨てられ森で育ち、面倒臭がって森からなかなか出ず、じっちゃんとの約束があったからやっと街に出たレイだったけれど、その街の汚さを見て異世界にがっくりしていた。
けれど今日やっと異世界の街を心から楽しめていた。
どこを見てもブツが落ちていない。
Gがいない、ネズミがいない。
整った街を見て涙が出そうなほど嬉しいレイだった。
「うー! 早く街を見て回りたいよー! 買い物がしたいー!」
車窓にへばりつき興奮するレイを見て、一緒の馬車に乗るギルフォードがくすくす笑う。
「レイにも子供っぽいところがあってホッとするよ。でも今日はダメだよ、王都にある僕のタウンハウスで休憩。この旅は比較的緩やかだったけど、自分が思ったよりも疲れているんだ、護衛たちも休ませてあげたいしね」
「……確かに、ケンとか、カーク兄ちゃんは絶対に疲れているよねー」
慣れない旅だけじゃなく、二人は護衛仕事も学び中な上、ずっと乗馬で王都まで走ってきたのだ、他の護衛たちより疲れているのは確実だった。
いくらレイの栄養ドリンクを飲んでいるとはいえ、心の疲れまでは癒しきれないだろう。
レイはギルフォードの言葉に納得しながらも、「私だけちょっと街に出るのもダメかな?」と提案してみたが絶対にダメだと怒られてしまった。残念。
「あのね、レイは変装しているとはいえ、黒髪で目立つし、可愛いし、年齢よりもちょっと幼く見えるから格好の誘拐対象になるんだよ」
「誘拐対象?」
「そう、王都はルオーテよりも人が多い分犯罪も多いんだ。レイみたいなぽやぽやした子は簡単に誘拐されちゃうからね、絶対に一人で出ちゃだめだよ、僕との約束だからね」
「はーい、わっかりましたー」
本当に分かってるのか? というような目でギルフォードに睨まれたが、レイだって自分が幼く見えることは分かっているし、黒髪が目立つことももう学んだ。
それにじっちゃんにも「自分の力を過信するな」と何度も言われてきた。
レイには愛し子の力があるけれど、魔獣が嫌いだし、臭いものが嫌いだし、汚い場所も嫌いなので、散々じっちゃんには迷惑をかけてきた。
幼いころ頭の上からビックなGが降ってきたこともあり、油断大敵が怖いことはよーくわかっている。
だから自分が注意散漫なところがあるし、ちょっと感覚が可笑しいところも理解しているけれど、それでもちょっと街を見てみたい。それぐらい王都の街が楽しみだった。
(ぬふふん、みんなが寝静まった夜中とかにちょっと出かけてみるかな……夜なら黒髪も目立たないし、愛し子ってばれないよねー)
ぐふぐふしながら悪いことを考えていると、ポンと頭に手を置かれた。
振り返ればキラキラ王子の笑顔がすぐ傍にあった。
「レーイー、まさかと思うけど、夜中に出かけようとか思っていないよねー?」
「……」
レイの目が泳ぐ。
ギルフォードさん、エスパーですか? なんで分かったの?
声に出さなくとも、その黒き瞳が正直に答えた。
ギルフォードの浮かべる笑顔が冷たいものに変わる。
「レイに何かあったらタロイの首が飛ぶからね、それ忘れないでね」
「ふぇ? なんで?!」
「なんでって、愛し子の護衛責任者がタロイだからだよ。タロイのことを大事に思うならいい子にしててね、分かった?」
「はい、分かりました……」
愛し子に何かあったらタロイさんの首が飛ぶだなんて……そんなバカなことはと思ったが、忍者や武士の歴史を知るレイとしては笑えない、あのタロイなら自ら腹を切りそうで怖いと思ってしまう。
「……ギルフォードさん、大人しくしてたら明日には街に出れる?」
「うーんそうだね、王妃との面談がいつになるか分からないけれど、明日面談ってことはないと思うから、明日は少し街を見て回ろうか?」
「本当に?! 良いの?!」
「ふふっ、うん、良いよ。その代わり絶対に僕の手を離さないって約束してね」
「うん、分かった、ギルフォードさん、ありがとー!」
明日は街を歩ける!
興奮するレイが可愛かったのかギルフォードがいつも以上に頭をなでなでしてきたので、レイは大人しくされるがままにした。
「さあ、ここが僕の王都のタウンハウスだよ、まあ、そうは言っても王家の持ち物だけどねー」
案内されて着いたタウンハウスは白色の壁に金の模様が入った、いかにも王族の持ち物です! と言える小さなお城だった。
門が開き馬車で城の中に入っていく間も、レイは「ふぉー」と間抜けな声を出しながら口が開いてしまう。
(ギルフォードさん、お金持ちだと思ってたけど、凄いね! 流石王子様、半端ないよ!)
王家の持ち物だと聞いていたけれど、ギルフォードの財力にただただ感心だ。
着ているものとか持ち物とか、あの田舎町で無駄に目立つだけのことはあるね! と心の中で一応は褒めていた。
「第三王子殿下、お帰りなさいませ」
「「「お帰りなさいませ」」」
ギルフォードが馬車から降りると、勢ぞろいしていた屋敷の者たちがギルフォードに頭を下げる。
隣に控えていたレイは驚きだ。
まさに大会社の社長の出勤。
ちょっとお付きな自分は営業三課の人みたいだと面白くって口元がにやにやとしてしまう。
「うん、みんな、ただいま。ベイリー、問題は無かったかな?」
「はい、ギルフォード様、準備は整っております。その、そちらの方が……」
「ああ、レイだよ、僕の教え子だ。レイ、彼はベイリー、この屋敷を取り仕切っている家令だよ」
ロマンスグレーな男性を紹介され、レイは得意の斜め四十五度な挨拶を繰り出す。
最初が肝心、それは魂に染みついた格言だった。
「レイ・アルクです。今日からお世話になります、宜しくお願い致します」
「ご挨拶を有難うございます。レイ様、使用人一同、精一杯のおもてなしをさせて戴きますので、どうぞ我が家だと思っておくつろぎ下さい」
「はい、有難うございます。あの、ベイリーさん、これ、ほんの気持ちばかりの品ですが皆さんでどうぞ、私が作ったお菓子です」
「おお、なんと、レイ様が……」
レイが作った菓子を箱に入れて包装紙で包んでその上紙袋に入れて高級そうに見えるようにしたお土産をベイリーに差し出せば、ベイリーは深く頭を下げて受け取った。
なんだか自分が偉くなったように勘違いしそうになるが、レイがギルフォードのお客様だからこその対応だ。教え子として恥ずかしくない行動を心がけようと気を引き締める。
「レイ様、お土産を有難うございます。使用人皆で心していただかせて頂きます」
ただの焼き菓子なのだけど、ベイリーは恭しく受け取った後、まるで宝物でも渡すかのように後ろに控える使用人にお菓子を渡した。
こんなに大事にされるならもっと違うものを用意すれば良かったかなと内心焦っていると、ベイリーの横に一人の女性が立った。
「レイ様、こちらはメイド長のメアリと申します。本日よりレイ様のお世話を担当させていただきますのでどうぞ宜しくお願いいたします」
「レイ様、メアリでございます。なんなりとお申し付け下さいませ」
「……えっと、はい、有難うございます……」
まさか自分専属のメイドを付けられるだなんて思っていなかったレイは、ちょっと反応に困ってしまった。
自分のことは自分で出来ますと断ろうかとも思ったが、王妃様のところへ行く際はドレスを着るだろうし、メイドさんのお世話になる可能性は高い。
それにメイド長をレイに付けてくれたのは、ギルフォードの優しさでもあるのだろう。
教え子として指導係であるギルフォードの気遣いを無下には出来ない、そんな気持ちもあった。
「さあ、挨拶はそれぐらいにして屋敷に入ろう、レイは自分の部屋が気になるだろう? メアリ、案内してあげてくれるかな」
「はい、畏まりました。さあ、レイ様、こちらですよ、一緒に参りましょうね」
メアリはレイに優しく微笑み、レイの前を歩きだした。
その後にレイが続き、ゾーイとケン、カークも付いてくる。
「フフフ、ギルフォード様のあんなにも優しい笑顔は久しぶりに見ましたわ。レイ様、ギルフォード様がルオーテではお世話になっているようで、有難うございます」
「いえいえ、そんな、ギルフォードさんにお世話になっているのは私の方なので……」
いい隠れ蓑としてギルフォードを使っているレイとしては、メアリの言葉に申し訳なくなるが、頭を下げれば「まあ、フフフ」とますます嬉しそうな笑顔を浮かべられた。何故だろうか。
チラリとゾーイの方へ視線を送ればゾーイは頷くだけ、その通りだと言っているようだった。
「さあ、レイ様、こちらがレイ様のお部屋ですわ」
両開きの扉を開け通された部屋を見てレイは感動する。
王家のお気に入りの色である白地に金の模様の壁紙、そしてカーテンや家具はピンク色で統一されたそのお部屋はまるでお姫様のお部屋そのもので、可愛いもの好きのレイの心をギュッと掴んで一瞬で虜にした。
「可愛い! 凄く可愛いです! うわー! ベッドに天蓋が付いてる、凄い!」
メアリや他の使用人が居なければ、レイは今この場で部屋を走り回りベッドにも飛び込んでいただろう。それぐらい可愛い部屋に今この場にスマホが欲しいとそう願ってしまう。
「気に入っていただけて嬉しゅうございますわ、ギルフォード様も喜びます」
きっとギルフォードが指示を出し、可愛い部屋に案内してあげてと言ってくれたのだろう。大満足なレイは後でお礼を言わねばと心の中で誓う。
「レイ様、旅の疲れを取るために湯船に浸かられますか? それともお茶になさいますか? どちらもすぐにご用意できますが」
お風呂にする? ご飯にする? それとも私? みたいな質問を掛けられたレイの答えは決まっていた。
「是非お風呂でお願いします!」
握り拳を作ったレイを見てメアリはまた嬉しそうに笑ったのだった。
こんばんは、夢子です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
私も旅行行きたいなー、と思ってしまう。




