異世界のおもてなし
「レイ様、本日は王都のひとつ前の街ナイフォーゼに泊まり、明日の早朝宿を出発し、午前中には王都入りとなります。お疲れだとは思いますがもう暫く馬車の旅をお楽しみください」
午前の休憩に入り、タロイがレイに声を掛けてきた。
第一王子の側近でありながら、レイの王都への旅を手配してくれたタロイの心配りと気配りに、レイは感動していた。
ここまでの数日間、どのお宿も綺麗でレイは満足していた。
それに街の中が汚い土地では決して外での買い物なども進めることもなく、何か欲しいものがあればタロイ自ら買いに行くと言ってくれるぐらいレイを気にかけてくれていた。
この旅行のためにお金を貯め王都で豪遊する気でいるレイは、途中の街ではよほどのことがない限りお金を使う気はなかった。
なのでタロイの声掛けにも「大丈夫」だと答えたのだが、きっとタロイはレイが「飴ちゃんが欲しい」と我儘を言っても笑顔で頷きすぐさま街へ行き、その街で一番有名な菓子店に足を運んでレイのために飴ちゃんをたっぷりと用意してくれただろう。タロイはそんな人だった。
(タロイさんのおもてなし、半端ない!)
王都へ行く馬車の旅の間中、タロイはレイの体調を心配してくれて、二時間に一度は休憩を取ってくれている。
自分で回復魔法を掛けられるレイからすると疲れなど何も感じないが、貴族令嬢の旅であればこれぐらいの休憩は当たり前らしく、自ら男装しているとはいえタロイがレイのことを『女の子』扱いしてくれていることも嬉しかった。
(タロイさんって部下に欲しいタイプ! めっちゃ仕事できるよねー。第一王子様の側近やるだけのことはあるわ、気遣いの神だね、この人!)
「レイ様、この先にギルフォード様が幼いころ気に入っていた丘があります。宜しければそちらでお茶でもいかがですか?」
「はい、是非。タロイさん、有難うございます」
「いえ、いえ、当然のことですので」
レイがお礼を言えばタロイは微笑を浮かべた。
ゾーイに似たそのクールな顔立ちは、そういった笑顔が似合い素敵だ。
この人はきっと女性にモテる、レイは勝手にそう判断した。
「さあ、レイ様、こちらのお席へどうぞ」
ギルフォードと手をつなぎタロイに案内された場所へ行くと、そこにはテントとテーブルセットが準備されていて、丘を一望できるようになっていた。
青空のキャンパスに、遠くに見える街。
広がる花畑も美しく、別の世界に紛れ込んだ、そんな気持ちにさせてくれる場所だった。
「ふふっ、ここは兄上との遠乗りで初めて来た場所だ、タロイよく覚えてたね」
「はい、あの当時私は既に成人しておりましたので、記憶に残っております」
ギルフォードと第一王子の年齢差は十歳以上。
ギルフォードが記憶に残る幼いころであれば第一王子も成人していただろうし、その側近のタロイも当然成人していたはずだ。二人は懐かしそうに丘の先の景色を見つめていた。
「さあ、レイ様、お茶をどうぞ」
「有難うございます、タロイさん」
ケンとカークがメイソンとゾーイから広い場所での護衛のやり方を学んでいる様子を見守りながら、レイはギルフォードとお茶を楽しむ。
最初は皆が働いていると落ち着かなかったが、この旅のお陰でちょっとだけ特別扱いにも慣れてきた。
堂々としているギルフォードが横にいるお陰かもしれない。
「はー、タロイさんの入れてくれるお茶はとっても美味しいですねぇ」
「有難うございます、レイ様」
お世辞ではなくこれは本当のことで、タロイはお茶の淹れ方も一流だ。
出来ないことが何もないのでは? と思えるほど完璧忍者。
サイボーグなのかもしれない。
(第一容疑者だと疑ってたけど……もしこれがギルフォードさんを油断させる作戦だとしたら、タロイさんが凄いとしか言いようがないよねー、誰だって騙されるよ)
もうレイはタロイを疑ってなどいない。
これで騙されていたらレイの見る目がなかった、それだけだ。
だからギルフォードが兄たちを信用するという言葉も分かる訳で、だとしたら誰が犯人だ? やっぱり王妃なのか? と名探偵レイとしては悩む問題でもあった。
(まあ、こればっかりは王城へ行って見てみないと分からないけどねー)
王妃が犯人ではないとは言ったけれど、それも本人に会ってみなければ分からない。
笑顔の裏で企みを持つ人はどこの世界だっている。
だから愛し子のシックスセンスに頼るだけ。
とりあえず誰が犯人であっても友人のギルフォードのことは守る。
レイの中、それだけは絶対だった。
「ねえ、ねえ、ギルフォードさん」
「ん? なんだい?」
冒険者からすっかり王子様に戻ったギルフォードにレイは声を掛ける。
その優雅で美しい所作は流石王子様と言えるもので、今このお茶を飲んでいる姿を見れば女の子たちがキャーキャー騒ぎそうで、キラキラが増している状態ともいえた。
「あのね、この旅の道中魔獣に襲われている商人に会ったり、困っている病人に会って旅の行程が遅れるかもって思ってたんだけど」
「いや、なんかずいぶん断定的だね、商人とか病人って……」
「まあ、ほら、それがこの世界のテンプレ? あー、じっちゃんがいつも言ってたからねー」
「てんぷれ……? なんか良く分からないけど、S級冒険者の大変さだけは分かったよ……」
「うん、まあ、そこはどうでもいいんだけど」
「どうでもいいんかい!」
ギルフォードの突っ込み通りテンプレはどうでもよくて、レイはただ事件が起きることを想定したくさんの料理を作っていただけに、それを一度もお披露目せず王都に着くことが残念で仕方がなかった。
お菓子や栄養ドリンクは皆におやつとして披露したけれど、事件用に準備した食事は出していいのか悩むところだ。
「旅行中の食事はタロイさんが用意してくれているし、もうすぐ王都に到着だから作った料理はもう使い道がないでしょう? 別にそのまま空間庫に放置でもいいんだけど、一度くらい食べときたいかなって思って、せっかく作ったしねー」
でもそれはタロイに失礼になる気がしてレイは言い出せなかった。
タロイの予定を狂わせるのも申し訳ないし、お前の用意した食事はまずい! とレイがアピールしていると思われても嫌だった。
前世の記憶持ちだから尚更だ。
「レイ、そこまで気にしなくってもいいのに……お昼があってもレイの作ったごはんなら皆別腹で食べられるよ」
「うーん、まあ、それはそうかもしれないけど……タロイさん、嫌な気持ちにならないかなぁ?」
「アハハ、レイは変なところで気にしいだなー」
そうなのだろうか?
あんなにレイに良くしてくれた人に対し、遠回しに嫌みをぶつける形にならないだろうか?
それにせっかくタロイがお昼を準備してくれているのに、レイが食事を出したらタロイは絶対にショックを受ける気がする。
レイだったら自分の用意したご飯はまずかったのかなと気にするからだ。
「本人に聞いてみればいいよ」
「えっ? いや、それは」
「おーい、タロイー」
「えっ、ちょっとギルフォードさん?」
部下と話をしていたタロイをギルフォードは遠慮なく呼び出す。
もうちょっと気を使ってよ! と思うのはレイが小心者だからか、気にしいだからだろうか?
レイがきょどきょどしている間にタロイはサッとギルフォードの傍へ来る。
王子に呼ばれたから当然なのかもしれないが、その速さは常人ではない、絶対に魔法を使っている。
レイはこんな時なのに、流石忍者と感動していた。
「あのね、レイが作った料理を出したいって言ってるんだけど、今大丈夫かな?」
「レイ様の……作った料理、ですか?」
「ちょ、ちょっとギルフォードさん!」
空気の読めないギルフォードを止めようとしたけれど、前置きも何もなく結論を話されていしまった。
きっとタロイは気を悪くしているだろうと、恐る恐るその顔を見てみれば、落ち着きあるその顔がピンク色に染まっていた。何故?!
「レイ様の作った食事が食べられるのですか? えっ? 今ここで?」
「えっと、はい、その、タロイさんが嫌でなければ……ですが……」
「嫌なはずありません! お弁当を貰ってからずっと夢見ていましたから!」
乙女のようなキラキラ輝く瞳がレイに向けられる。
忍者もこういう顔するんだ。
演技じゃないよね?
素直になれないレイはついついその反応を疑ってしまう。
「えっ? そうなの? 私の作ったお弁当を食べたの?」
「はい、王都へ戻る際、レイ様のお弁当を頂きました! とても美味しく、また食べたいと夢見ていました!」
「えっと、じゃあ、私が作った料理をだしても、大丈夫?」
「はい、勿論でございます!」
興奮するタロイの指示によってあっという間にテーブルが用意され、レイはそこへ空間庫に突っ込んでいたカレーを鍋ごと出した。
キャンプと言えばカレー。
テンプレイベントが起きたら絶対に野営になるだろうと思って一番最初に作った料理だったけれど、ギルフォードはカレーを見た瞬間「これ食べられるんだよね?」と引き攣った顔で聞いてきた。
色的に何か嫌なものを想像してしまったらしい。
汚い街を知っているだけにレイまで伝染してしまうのでやめて欲しいものである。
嫌な想像を送ってきたギルフォードに「食べられます!」と突っ込みながらレイはギロリと睨んだ。
「んんっ! えーと、カレーにはごはんと、ナンと……あー、えっと、薄焼きパンみたいなものを準備してあるのでお好きな方を取ってください。あとカレーは辛口と中辛があるのでお好きな方をどうぞ」
「有難うございます!」
レイの心配をよそに、カレーは大好評で護衛の皆様にも、そして勿論タロイにも受け入れてもらえた。
ギルフォードだけは最初戸惑っていたけど、お弁当を気に入っていたタロイへは気遣いへの恩返しができたらしい。
「レイ、ほら、僕が言った通りだっただろう?」
ドヤ顔で声を掛けてきたギルフォードにレイは笑顔を向ける。
本当に気のしすぎだったらしく、自分が心配するほどのことではなかったらしい。
カレーを美味しそうに食べるタロイの笑顔を見てレイはホッとした。
「だいたいさー、愛し子の作ったものを食べられる機会なんて殆どないんだからね、誰だって喜ぶものだよ」
「そうなの? うーん、まあ、そうか……他の愛し子は料理なんてしないもんねー」
大切な友人である聖獣たちを思い浮かべ、あの子たちでは料理は無理だろうなとレイは笑う。
でもギルフォードの言いたかったことはそうではなかったらしい。ウインクが飛んできた。
「レイのご飯は特別に美味しいってことだよ」
その言葉は何よりも嬉しくって、レイは頬を染め「良かった」と満面の笑みを浮かべたのだった。
こんにちは、夢子です。
いつも応援ありがとうございます。
誤字脱字も助かっております。m(__)m
タロイは三十代前半です。
結婚もしています。




