結婚前は甘えたい 1
お父様の言葉でやっと気づいた。
この世界で私が目覚めてから、信頼できる人がいないと思ってた。周りは敵ばかりで、両親には実質頼れない。
だからセオドリクは…セオドリクは、信じられると思ってた。
だって、彼はこれからの人生で実質共犯者。人を絶望させるとき、隣にいるだろう存在。なら、一番私を理解してくれるんじゃないかって思った。
でも、目の前で優しく微笑むお父様に甘えたって、いいのではないか。
その時、突然執務室のドアが開いた。
「失礼します、父上…!?」
「!?」
そこには、弟がいた。
「…姉上」
「…」
「さぁ、仲直りをしておきなさい。」
「「あっ」」
そう言って、お父様は出て行ってしまった。
この状況で何をしろというのか。仲直り?出来るわけない。こちとら絶交覚悟だったんだから。
「…あの、姉上」
「…はい」
ウォォォォイ、弟よ!!ここで話しかけるか?話しかけるのか!?
まぁでもここは姉として聞かなければ。
「俺は、姉上を断罪しようとしました。でも、反論とすら言えないようなことで鎮圧されました。」
「…そうですね」
「あんな…証拠も大してなかったのに、家族を断罪しようと、思っていました。
次期公爵としてやってはいけないことだし、何より…まず姉上を信じてみるべきでした。」
ちょっとずつだけど話す弟に、私は衝撃を覚えた。
これは、正直予想外。だって、どこからセオドリクと繋がっていたかとか聞かれると思ったから。
そんな私の予想に反して、続ける弟。
「こんなこと、今更だけど…俺が、もっと家族と向き合っていれば、違う道もあったのかもしれないな」
それは、私も思ったことだった。あの時、たじろいだ弟を見て、かもしれないを思ったから。
「姉上、ごめんなさい」
私は、なんと返せば良いんだろう。許します?違う。私が言わなければいけない…言いたい言葉は
「ごめんね、レオ」
「!」
そうだ、私はずっと謝りたかったんだ。だって、仲良くしてた弟が離れていったのは、自分が原因だって…本当は分かってたから。
「今からでも、違う道にはいけないかな?」
これが、私の願いだった。
そんな私の言葉を聞いて、顔を歪めた愛しい弟は
「あ、ねうえ、名前を呼んで、ぐだざいぃ」
泣きながら私に答えてくれた。
あはは…弟を泣かせちゃうなんて、駄目なお姉ちゃんだなぁ。
「ーーレオ!!」
何年ぶりだろう、レオって言うのは。
こうして、長きに渡る姉弟喧嘩は幕を閉じたのだった
「ねぇ、そろそろ入ってm」
「ダメよ♪」
それを微笑ましく見ている両親がいたとかいないとか。
「「って、何覗いてんの!?」」
途端にリンゴのように赤くなったレオ、なんかちょっと嬉しそうなお父様、「あら、バレちゃったわね」と言いながらもウキウキなお母様。
「真っ赤なレオも可愛い!!」
何このカオス!?
「姉上…?」
「あ、間違えて心の声が出ちゃったわ!」
「姉上ぇぇぇ!?」
いや〜涙目のレオも可愛いな!カメラを持っていなかったことが悔やまれる。
「仲が良いのはいいんだけど、僕のこと忘れてない?」
「「あ」」
「何その、あ、忘れてたって反応!パパ悲しい!!」
「…そんなことないよ、忘れてないよ」
「…そんなことないもん、私パパだーいすき」
「目を逸らしながら言わないで!?」
…本当にそんなことないもん。パパだって前世でお目にかかることがないようなイケオジだし。ただほら
「かっこいいけどレオがいると霞むの」
「これ程レオンが憎く思ったことはないよ」
おろろ、今度は親子喧嘩が勃発?
あれ、と言うかレオン?
「レオはレオンじゃなくてレオでしょ?」
「ん?」
「?」
「んんん?」
「???」
負けずにハテナを増やしてみた…ってそんなことより、レオよね?レオンじゃないよね?小っちゃい頃の記憶でもレオだったし。でもお父様がレオンって言ったんだよね〜。
「あ、改名したの?」
「してないよ??俺、生まれてこのかたずっとレオだったよ?」
「え?」
「え?」
「…マジ?」
「マジ」
【衝撃】レオはレオンだった!
「【悲報】姉上に名前を覚えてもらえなかった」
「ごめんんんんん!!って、え?」
今のって物凄く、異世界人が言うことじゃないと思うんだけど。もしかしてもしかして
「レオって怜い音の怜音?」
「マジか姉上」
「マジだ弟よ」
さらなる衝撃、レオは怜音だった。
「魂レベルのストーカー?」
「それは姉上では?」
そう、彼はなんと前世で私のハートを鷲掴みした、天使過ぎる弟 怜音ちゃんだったのだ!