日暮れ時に
「ねぇ、疑問なんだけど聞いてもいい? 」
僕たちは塔の中からさざ波を見て聞いていた。深琴は「はい」と返事をする。
「塔にいる間、深琴はどう生きていたの? 」
深琴はとぼけた顔をした。そしてその後ろで軽いものが落ちた音が聞こえた。そこには一つのパン。飛んできた方を見ると、丸い淵に例のヤツが立っていた。
「ワシが世話をみてやってるんだよ」
黒、と思わず呼ぶと黒ねこは猫らしい威嚇をして僕の目を鋭く見つめてきた。
「・・・・・・どうして、そんな怒ってるの? 」
「名前が単純過ぎるんだオメェさんは!!! 」
大迫力ではあったが、怖くはなかった。この猫は僕の名付けセンスが単純過ぎると言ったが、僕は僕で反対に単純な猫だと思った。
「・・・・・・まだ、僕は君の名前を知らない」
わずかな悲哀を込めて、僕はゆっくりと瞬きをした。
人間もそうだが相手をじっと見つめるのは失礼に当たるときがあるからだ。
そうだっけか、と猫は唸りしばらく前足を舐めてから言った。
「ワシの名前は、無い」
無い、と黒はあくびをした。話すだけで、やはり本質は猫なのだろう。僕は「そうなんだ」と会話を終わらせた。
「それより深琴はまだここからは出ないの? 」
「・・・・・まだ居るわ」
横から見た深琴は、暮れかけの太陽に瞳を輝かせていった。
「・・・・・・ケッ」
窓際で黒はくしゃみのような空咳をした。どうしたのかと思えば、深琴と同じように海を見つめている。
日暮れ時の太陽は、既視感のある懐かしさで心を苦しめる。僕は目を天井の一点に写した。
「・・・・・こいつ、まだ親を信じてるのか」
黒ねこの言葉に、聞こえないふりをした。
「深琴、一度でもいいからここを出てみない? ほんとに、ちょっと話したいことがあるんだ」




