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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第二幕 邪神族
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冒険者となる

 ラプトマにて起きたエンズォーヌの襲来の後。

 俺は錬金補助の鎧に戻り、半壊したギルドにいる。


 目的は冒険者の資格を手にするためであり、そして謝罪であった。



「本当に申し訳なかった。深く謝罪する」



 ガルドスたちと甲冑姿となったグラヴノトプスに対して、俺は深く土下座をしていた。


 2人は気にしないと言っているが、周囲の亜人たちは責めるような視線を向ける………などといういつかのシェオゴラス城の謝罪を再現するような状況にはなるだろうと思っていたのだが、予想は違った。



「気にするで無いわ! 我輩らも助けられたことは事実だしな!」



 そうガルドスがいうと、俺も俺もと怪我をした冒険者たちが自分たちの不幸を笑い飛ばすように口々に俺を褒め称えた。



「………?」



 予想外の事態に困惑しながら彼らを見上げると、そのどこにも恨みのこもる視線はなかった。


 グラヴノトプスからもである。



「………ッ!」



 あからさまに視線はそらされてしまったが。

 目を合わせられなくなった。後ろめたさを未だに引きずっているということか。


 根が真面目なのだろう。そういう点は、本人が納得するまでつつきまわすべきでは無い。


 責任の一端は俺にあるのだから、自分を責める必要は無いと思うが、それを口にすれば彼女を含めた周囲の人々から「お前がいうな!」などということを言われる気がするのでやめておこう。


 しかし、許してもらうどころか特別報酬に加えて冒険者としての登録を行ってくれるとは、目的がそもそも資金と冒険者としての資格を得ることだったのでありがたいが、逆に恐縮してしまう。

 奴の狙いがラプトマの街だったとはいえ、グラヴノトプスによる被害もこの街は少なからず受けたのだから。



「しかし、逆に申し訳ない気がする」



 ガルドスから受け取った、エンズォーヌ撃退とラプトマの防衛に対する特別報酬が入った袋。

 この中身の金銭は土地を買い家を建てる事も可能な額が入っているという。


 一般的な亜人たちの物価と報酬の額を比べると、日本円でいえば3,000万円くらいに相当するようだ。

 旅路の資金にしては多すぎる。



「………本当に良いのか?」



 袋をガルドスに示しながらたずねる。

 それに対し、ガルドスは首を横に振った



「それだけの偉業を成し遂げたってことさ。むしろ喧伝するように大げさに騒ぐ方が、ギルド本部や国も深刻に事態を受け止め、この街に多くの支援をしてくれるようになる。その初期投資と思えば軽いものじゃわ! ガハハ!」



「そういうことならば、ありがたく頂戴しておこう」



 復興資金が必要ではという疑問は、杞憂だったらしい。

 冒険者を筆頭に多くの負傷者は出たが、幸い死者は出なかったという。


 それは逆に言えば死人が出ない程度の被害と認識されることになる。

 そこでガルドスは物的損害や邪神であるエンズォーヌのこと、ギルドが対応しながら勝てず魔族の手を借りたことなどを大々的に喧伝することで復興支援をぼったくろうという魂胆があった。


 その一環として、高額な報酬を俺に出したわけである。


 とはいえ、実際に邪神であるエンズォーヌの出現はかなりの大事件らしい。

 邪神族の恐ろしさをよく知る亜人たちだからこそ、邪神という存在がいかに脅威であるかを認識している。


 エンズォーヌの出現を喧伝するのは、亜人たちに対して警戒を促しエンズォーヌの討伐計画をより早く立てるためでもある。



「要するに、その宣伝を旅の最中に広げて行って欲しいということだ! その経費も含めた報酬だぞ! 本当はその倍を払ってもいいがな!」



「いや、十分だ」



 互いに利益がある取引というのは、悪くない。



「次は、こいつだな。お前の本来の目的のものだ」



 次に、ガルドスから冒険者の証であるギルドカード、身分証を渡される。


 冒険者は仕事で国を渡ることも多く、このギルドカードがあれば通行税や入国税などをギルドの経費としての負担にすることで、無料で通行できるようになるなどの利点がある。


 冒険者のギルドカードは身分証としてもちろん機能しており、人間の国でも魔族ではなく冒険者として行き来がしやすくなるという。

 冷ややかな目で見られることは変わりないが、とガルドスは大声で笑っていた。


 その点については、俺の外見はこの通り全身甲冑で隠すことも可能だし、よろしの中身は魔族ではなく人間である。

 問題ない。


 ギルドの職員たちは俺がラプトマの街をすぐにでも立つ意思を伝えると残ってくれと願うものも多かったが、ガルドスは男らしく引き止めなかった。

 支部長がそれではと、他の職員たちも引き下がる。


 どの国でも人材不足というのはある。

 バルドレイの言葉通りだったわけだ。


 バルドレイのことは伝えていない。

 彼がエンズォーヌだったとしても、ガルドスたちが信用するとは思えないし、冒険者たちが命は助かったとはいえ深刻な怪我を負っているこの街にあいつが執着する理由がない。

 それに、誰も明確に口にしてはいないが、バルドレイのことを忘れているように感じている。


 奴の目的は不明だが、この街に戻ってくることはないだろう。

 バルドレイはあの戦いで行方不明になった。明確に俺が言ったわけではないが、街の人たちはまるで奴の存在が初めからなかったかのように振舞っている。行方不明扱いにしてもいないらしい。

 記憶を消し去ったと考えるのが妥当だろう。

 そうなれば、つつきまわしたところで何もできない。



「お前に救われたこと、決して忘れぬ。魔族の青年よ」



「こちらの方こそ世話になった。またいつの日か」



 グラヴノトプスを連れ、ラプトマの街と彼らに別れを告げる。

 グラヴノトプスの裏切りに関しては、エンズォーヌに操られてしまっていたと説明したところ、冒険者たちは逆恨みするどころかエンズォーヌに対して卑劣な奴と憤っていた。


 恨んでも良いのに。恨まずにはいられないのに。

 それでも相手の立場を思いやってくれる。


 仲間の死が身近なところにある危険な人生を歩んでいるからこそ、亜人たちはそう割り切ることができるのだろう。


 そこまで達観できるようにはまだ時間がかかるだろうが、恨むことなく相手を許して、むしろその相手のために憤ってくれる彼らのあり方は、きっとグラヴノトプスに良い影響を与えてくれたと思う。



「………行こうか」



「………おう!」



 その証拠に、彼女が俺に向ける瞳に、恨みの感情は残っていなかった。


 まだ恨んでいる感情が残っていたとすれば魔族領に返そうと思っていたが、この様子なら同行してもらっても問題ないだろう。

 その間に、可能な限り彼女に教えられることを教えておきたい。


 技術でも、心でも、なんでも。

 魔族の未来を担うことになる彼女だが、俺から見てもまだ未熟な面がある。


 ルシファードたちから預かった以上、この旅を通じて彼女自身に何か1つでも成長して欲しいと思っているから。

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