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魔神の使徒(旧)  作者: ドラゴンフライ山口 (飛龍じゃなくてトンボじゃねえか!)
第一幕 初戦
13/68

交渉の余地なし

 互いに武器を構えて対峙する中、俺は勇者に対してまずは言葉による説得を試みた。


 彼らはおそらく正しく現状を、自分たちの立場を認識できていない。

 俺の方も彼らの理由や言い分を把握していない。聖剣を握るあの扇動者が誰であるかも把握していない。

 刃を交える前に、交渉できる余地は探せばあるだろう。


 一度構えた薙刀の刃を下げ、構えを解く。

 こちらの行動を不審な目で見つめる勇者に言葉をかけた。



「………お前たちはなぜ戦う? なぜ、異世界人がこの世界の人間に与する? なぜ、女神アンドロメダになんの義理もないはずのお前たちが、自分たちの命さえも賭け、その聖剣を握り魔王を打ち倒そうとする?」



 殺意ではなく言葉を投げかけられるとは思わなかったのか、いつでも迎え撃てるように戦意をみなぎらせていた勇者の顔色が変わった。

 後ろの異世界人たちもまた、気圧されながらも俺の問いに対して何かを考えているらしい。

 そして、自分たちの前に立つ勇者に視線を集中させる。



「………お前、やはり魔王じゃないな」



 わずかな沈黙を経て勇者から出てきたのは、俺の質問に対する回答ではなかった。

 どうやら頭の回転は速いらしい。

 俺もまた異世界人であるという答えまではたどり着いていないようだが、俺がシェオゴラス城に彼らをおびき出した犯人であり、なおかつ魔王でないことを早々に見抜いている。


 彼らと同じ異世界人。

 俺の正体を告げ、魔神クテルピウスから聞いた女神は召喚しかできないという事実を知らせれば、おそらく彼らも自分たちが元の世界に帰れない中で戦っていることを知り、すぐに信用することはなくても女神に対する疑念を抱えることにはなるはずである。


 先にしたこちらの質問の返答をしてもらいところではあるが、同じ異世界人であることを知れば話も聞きやすくなるだろう。

 そう判断し、返答として兜を外して素顔を見せようとする。


 だが、その前に勇者が片手に形成した青い火球をいきなり投げ飛ばしてきた。



「–––––––!」



 思わず反射的に兜に伸ばそうとしていた手で薙刀の柄を掴み、その火球を切り裂く。

 クテルピウスの宝物には属性魔法を無効化する魔神の加護を付けられているものも多く、この薙刀は特に属性魔法に対抗する力を宿している宝物だ。それにその加護は俺自身にも与えられているため、本来は薙刀で迎撃するなどという面倒なことをする必要はないのだが、突然の攻撃ということもあり反射的に自己防衛行動をとってしまった。

 薙刀により青い火球は霧散したが、構わず勇者はさらなる追撃をしかけてきた。



「うおおオォォォォ!」



「チッ!」



 体にも蒼炎をまとい、聖剣を振りかぶって人間とは思えない高さに跳躍し、落下のエネルギーも加えた斬撃を振り下ろしてくる。

 またこちらには刃を向ける前に問答をする余地があるので、薙刀で受け止めることはせずに後方に跳躍して躱した。


 俺もまたこの世界では超人的な身体能力を持つが、それでは相手と同じ土俵に立っただけである。向こうもまた、異世界人としての超人的な身体能力を持っている。



「お前なんかに、負けるかぁ!」



 そして、さらに聖剣を振り回してくる勇者。

 先ほどは頭の回転が速いなどという印象を抱いたものだが、撤回しよう。

 こいつは一度火がつくと人の話を聞こうとしない、いわゆる熱血直情暴走バカである。


 振り回される聖剣は、速く重いが技術は未熟だ。

 この程度ならば躱し続けることも可能である。


 刃から飛ばされてくる蒼炎もろとも勇者の振り回す聖剣を躱し、勇者に声をかけていくが、まるで聞く耳を持たれない。



「この! ちょこまかと!」



「勇者、俺の問いの答えを–––––––」



「黙れ! 魔族の戯言なんかに騙されるか!」



「落ち着け。刃の前に言葉を–––––––」



「問答無用だ!」



「…………………」



 面倒臭い相手である。

 どうやらこいつには敵と言葉をかわすという理性が備えられていないらしい。

 敵対者に容赦しないという選択は、言って仕舞えば己の意見以外受け付けず、気に入らない相手を認めない独裁者のやり方である。

 そして顔立ちが良く、素人とはいえ容赦なく敵を切り裂こうとしてくる気迫。喧嘩にはかなり慣れており、敵は必ず倒すという気概が見える。

 顔立ちも美形であり、カリスマ性も備えているだろう。

 経緯はどうあれ、魔族との戦争を推進している異世界人は、おそらくこの他人の意見に耳を傾けない熱血直情バカだと確信する。

 となれば、少なくともこの勇者が立ち向かってくる限り話し合いには応じてくれないだろう。


 とりあえず早々に黙らせようと、隙を伺いつつ聖剣の刃を躱し、振り下ろした一瞬を隙をついてその手首を掴みとり、置いていかれている他の異世界人たちの方に投げ飛ばした。



「うおっ!?」



 やすやすと投げ飛ばされたことに驚きつつも、熱血暴走勇者は曲芸師のように空中で体勢を立て直して危なげなく着地する。

 そこに3人の異世界人たちが駆け寄ってきた。



「光聖!」

「コウセイ!」

「大丈夫、光聖君?」



 仲間が投げ飛ばされたのだから心配したのだろう。もしくは仲間というよりも好意を抱いている異性としてみているかもしれないが。

 しかし、その時に3人の異世界人が揃って口にした名前が、気にかかった。



「こうせい………?」



 どこかで聞いたことがある名前だ。

 たしか、日向を不良から喧嘩で助けてくれたという、短絡的な手段をとりがちなヒーローだなと感じた夜刀の通う高校の生徒会長をしている人物の名前。

 それが確か、天野 光聖という名前だったはずだ。


 それは偶然という可能性もある。ひょっとしたら別人の可能性もあった。

 ただ、普段は客観的な視点を心がけている俺は、日向の安否が絡むとなると途端にその冷静さを失ってしまうという欠点がある。

 だから、熱血直情暴走独裁バカ勇者の名前が、『天野 光聖』と結びついた途端、それまで刃の前に言葉をかわすべきだという考えなど彼方に消えてしまった。



「天野………光聖………」



 日向を助けてくれたことは感謝している。

 だが、独善的な正義感を持つ奴は危険だ。カリスマ性があれば周囲を巻き込み、自分のために周りを危険な目に晒す。


 そいつが女神の依頼を安請け合いし、戦争という命の危険がある中に日向を巻き込んだ。

 たとえうまくいったとしても、元の世界には帰れない。あまりにも無責任にすぎる。



「お前か………」



 それに、光聖は向こうの世界でも日向と面識がある。無事に帰ることができても、こいつは生きている限り日向を危険に巻き込む存在だ。



「お前がいるから、あいつは………」



 天野 光聖は危険だ。

 日向の安全を確保するためには、この男は生かしておくわけにはいかない。


 光聖は仲間たちに怪我がないことを伝えて再び聖剣を構える。



「みんなのためにも、俺は負けるわけには–––––––」



「死ねええええええ!」



「ええ!?」



 聖剣の勇者の言葉を今度は冷静さを何処かに落とした俺の方が遮り、主観と確認していないのにねじれた解釈で天野光聖と結びつけたことで爆発した殺意をみなぎらせ、薙刀を手に突撃した。


 この熱血直情暴走独裁バカ勇者は、相当ねじ曲がった解釈で俺が結びつけた天野 光聖という人物で正解である。

 そして実際に天野 光聖は、女神の言葉を疑いもせず、女神の願いを二つ返事で引き受けた。

 同じ異世界人たちには得意の演説をして戦争への参加を半ば強引に誘い丸め込んだ。最初は拒否した一部のメンバーにも根気強く説得したと言えば聞こえはいいが、ほぼ自分の意見をごり押しし続けて参加させた。

 日向はその正義感から当初から戦争への参加の意思を表明していたものの、たしかに彼が異世界人たちを危険な戦場に巻き込んだ元凶ではある。この男が召喚された面々の中にいなければ日向が召喚されたとしても戦争に参加せずに済んだかもしれない。


 しかし、現実世界でも面識があるからというだけで日向の命を危険にさらす存在だと断じたのは、さすがに早計だろう。

 だが、日向の安否が絡むと冷静さなど見失う俺にはそんなことは瑣末なことでしかなく、先ほどまで対話を試みていたものとは思えない殺意を乗せ、光聖に切りかかった。



「この………!」



「死ねええええええ!」



「ぐはっ!?」



 薙刀を聖剣で受け止めた光聖の周囲に魔神の宝物庫を開き、俺の薙刀を止めているために無防備となってしまっている体に向けて多数の宝物という名の武器を飛ばして串刺しにする。

 そして光聖の仲間たちが悲鳴をあげる間もなく、彼にとっては想定外の攻撃をうけて力の抜けた光聖の体を、聖剣を押しのけた薙刀で肩から腰にかけて袈裟状に切り裂いた。


 異世界人の超人的な身体能力があったからこそ即死で済まなかったが、それは致命傷になる骨を断つ一撃だった。



「光聖!」

「コウセイ!」

「光聖君!」



 3人の異世界人の悲鳴が重なる。

 血を吹き崩れ落ちる光聖。

 しかしまだ微かに息がある。致命傷になる傷を与えても、まだ生きている。

 なので、容赦なくその首を切り落としにかかる。



「死ねえ!」



「させるか!」



 その攻撃を阻んだのは、別の勇者だった。


 光聖が取りこぼした蒼炎を纏う国造りの聖剣アルフレードを手に、光聖の首を狙った薙刀を阻んだ。

 だが、その勇者には扱いきれないのか、アルフレードの蒼炎に手が焼けつき、痛みに顔をしかめている。



「ダメ………負けられないんだから!」



 それでも歯を食いしばり、俺の握る薙刀を受け止めて押し返した。



「玖内さん下がって!」



 想定外の妨害により押し返された俺に、今度は最初は腰を抜かしていた勇者が砂嵐をぶつけてきた。

 石が敷き詰められた地面でいきなり発生した不可解な砂嵐。おそらくこの勇者の属性魔法なのだろう。目くらましのつもりか。



「チッ、邪魔をするな!」



 それを魔神の加護を持つ薙刀で切り払う。

 瞬く間に砂嵐は霧散したが、すでに最初に聖剣を握って立ちふさがった勇者が光聖を抱えて下がっており、今度は金髪の西洋人の勇者が手のひらを向けて立ちふさがった。

 彼らの足元が光りだす。

 それが逃げようとしていることを察知した俺は、光聖を殺そうと薙刀を手に駆ける。



「退け!」



「そう言われて退くはずがないでしょう! くらいなさい!」



 金髪縦ロールの勇者が向けた手から、巨大な鉄砲水が打ち出される。

 水の属性魔法で生み出したものだろうが、俺には効かない。

 薙刀を一閃してその鉄砲水を消し飛ばす。


 しかし、その時にはすでにまるで瞬間移動をしたように勇者たちの姿は消えていた。

 逃げられたようである。



「…………………」



 光聖のあの怪我は、異世界人がこの世界に持つ超人的な身体能力をもってしても命を奪うに足りるもののはずだ。

 だが、それでも微かだがあいつの息は残っていた。

 ………日向をこの世界でも、向こうの世界でも危険にさらす男を生きたまま取り逃がしてしまった。



「クソガァああアアア!」



 普段から意識してきた客観的で冷静な思考はどこへ行ったのか。

 フラウロス山脈全体に響き渡るほどに、悔しさのにじむ絶叫を上げた。

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