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幼馴染

ラスリ曰く最近の僕はおかしいらしい。

自分でもちょっと自覚済み。

この数ヶ月、本当に楽しいんだ。


犬に追いかけられたり猫に追いかけられたり、毒団子を食べそうになったり箒で叩かれたり。

まあ死にかけた事は色々あった。


けど、彼女に会えば全部吹き飛ぶ。

楽しそうに(僕がそう勝手に解釈しているのかもしれないけど)くだらない日常の話を聞いてくれる。傍にいれる。

もうそれだけで幸せすぎる。


今ならなんでも出来る気がするんだ。

もちろん彼女のために限るけどね。





「今日も森に行くの?」

いつものように水に入ろうとしたとき、ラスリから話しかけられた。


「…知ってたの?」

「当たり前。グレイのことならなんでも知ってるよ」


――例えばこっそり猫に会ってることとか。


そう呟いた声は酷く震えていて、絶対に見ないと決めていたのに思わず振り向いてしまった。

ラスリは静かに泣いていた。


「あの猫のこと好きなの?」

「…うん」

「婚約者の私よりも?」

「婚約って…。それは親同士で決めたことだろう。それに僕は父のあとを継ぐつもりはない。みんなを束ねることなんて出来ないよ」


きっぱりと言い放つグレイに、ラスリは叫んだ。


「グレイは…っ。グレイは仲間より敵を取るんだ!そうやって大変なことから逃げるんだ!」


(なじ)る言葉よりもラスリの姿に狼狽(ろうばい)した。

いつも明るく元気な幼馴染は今、頬を濡らし自分に抱きついていた。


「嫌だ嫌だ!お願い行かないでグレイ。傍に居て…」

「ラスリ…」

「あの猫が本当に貴方と仲良しだと思う?本当に貴方との逢瀬を楽しんでいると思う?

油断させて食べる気なのよ!私たちの住処を調べて食糧にするつもりなのよきっと!

隠れて笑ってるんだわ。『なんて愚かなねずみだろう』って!」


しがみつく腕はかたかたと震えていた。


ラスリが泣き止むまでどれくらいの時間が経っただろう。

いつの間にか空は朱に染まっていた。


「ねえラスリ」


かけた声にビクリと、身体が強ばったのがわかった。

背中を撫でる手を休めず言葉を進める。


「ルナはな、そんな人じゃないよ。あ、人って言うのもおかしいか。

一見無愛想だけどそれはただの照れ隠し。すごく照れ屋さんなんだ。

それに…本当は優しい。僕を食べる気なんてさらさらないよ。

だって彼女の尻尾に包まれて一緒に眠ったことだってあるんだから。

ルナに食べる気があるならもうとっくの昔に消化されてるよ」


―それに、彼女になら食べられてもいい。


その言葉はやっと落ち着いてきたラスリをまた辛くさせるだけ。口には出さず心の中で呟いた。




ああ、彼はあの猫のことが本当に…。


愛おしそうに語るのを見たラスリは、もう自分の入る隙などないのだと感じた。

それでもずっと好きだった。婚約者だから、なんて関係ない。

この想いを消すことは出来ない。


「好きよ、グレイ」

「え?」

「子供の頃からずっとずっとずーっと、貴方が好き。そしてこれからも貴方だけが好き」


まっすぐと射抜く濡れた瞳は初めて、ラスリは女なのだと実感させた。


妹のように思っていた。

家族のように思っていた。

ラスリが慕ってくれるのも、自分を兄のように感じているものとばかり思っていた。

なんて愚かなのだろう。

それを認めると耳にまで血が昇る。


何も言えずに固まっているグレイを残し、ラスリは住処へと戻っていった。


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