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時間

 人の寄り付かない森の奥深く、かつて魔王がいた神殿は未だにその異質な魔力を保っていた。そのせいか、神殿の内部の時空は歪み、世界でこの場所だけは、時が止まっていた。


一体何日、何週間、、何ヶ月ここにいたか分からない。

 ただわかるのは、僕はこの神殿の中から出たくないのだという気持ちだけだ。

 理由は分からない。


 天使は、いつの間にか消えていた。


 ここには僕とイサノしかいない。


「イサノ、今日は何をしようか」


「………、」


「……うんうん、僕もちょうどおしゃべりがしたいと思ってたんだ。」


 何故だろう、ここに来てから1度も食事を取っていないというのに、一向にお腹が空かない。


 どうやらそれはイサノも同じようで、目の前に出された水にすら手をつけないありさまだ。


「おっと、口が汚れてるよ、」


「え?取ってだって?しょうがないな、、」


 口元に手をかざすと、冷たい感触が伝わってくる。

 ずいぶん冷えてるな、風邪をひいてしまいそうだ。


「はい、取れたよ、うん。綺麗になった。」


 まあ、今僕は幸せだから別になんでもいい。


 朝、イサノと一緒に起きて、

 一緒に喋って、一緒に笑って、寄り添って今ここにいる。


「おやすみ、」


 僕はとても満たされている。


 ……でも、一つだけ悩みがあった。


 毎晩毎晩、嫌な夢を見ることだ。


 起きた時、自分がどんな夢を見ていたかは覚えていないのだが、でも、とても苦しかったことだけは覚えている。

 苦しくて、辛くて、でも、なんだか忘れてはいけないことのような、、、そんな夢だ。


「ごめんごめん、ちょっと考え事してただけだよ。無視した訳じゃないって、」


「………」


「うん。僕もだよ、、、」


 時の止まったこの神殿で、青年はもう動くことのない彼女を抱き抱えながら1人、呟いた。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



 人1人いない森の中、誰かに声をかけられて渋々目を開ける。


 そしてすぐ気がついた。


 ああ、いつもの夢か、、

 景色は曖昧なようであるが、しかしはっきりと周りの様子がよくわかった。


「……よっ、」


 男が手を挙げながら近ずいて来る。


「久しぶり、」


 反射的にそう口にしていた。


「ああ、久しぶり、」


 そして向こうも同じように返してくる。


 最近元気にしてる?自然にそう言いそうになったが、踏みとどまる。


「最近元気にしてるか?」


 そんな僕の心境を察してか、向こうは間髪入れずそう言ってきた。


「どうかな、そんなに元気じゃないかも」


「だろうな」


 そうアクナは笑った。そして、僕も笑った。


「うん。元気っていうか、辛い。かな」


「………」


 近くの木の下に腰掛けながら言葉を繋ぐ。


「ねえ、」


「……なんだ?」


 なんだか久しぶりだけど、妙に自然だ。まるで、今までずっと一緒にいたかのように。


「これは、この状況は僕の妄想なのかな?」


 ………何か期待していた訳でもなく、何となくそんなことを聞く。


「それとも、アクナが化けて出てくれたの?」


 薄く笑いながらそう問いかける。

 隣に腰掛けたアクナは、うーん。とじっくり考えて、そして言った。


「いやあ、俺もわかんねえや」


「………、」


「そっか、」


「でも、多分だけど、」


 アクナらしい、少しだけニヤッとしたような顔で、空を見上げた。


「俺も分かんねえけど、これはお前の夢で、俺は実際化けて出た訳でもなく、お前の夢が作り出した偽物の俺なんだと思う。多分な。」


「そうだよね、」


 うん、わかってるよ、そのくらい。


 聞いてみただけさ。


「でもさ、せっかくだし、僕の話に付き合ってよ、どうせ夢なんだしさ、」


「……ああ、いくらでも聞いてやるよ、」


 ありがとう。そう言って、すぐに話を始めた。

 あの後、僕たちがどんな旅をしたのか、どれだけ頑張ったか、


 君がいなくなって、どれだけ苦しかったか、


 楽しい話も、辛い話も、全部。


 全部話して、でもどんどん話したいことが思い浮かんでいって、


 でもだんだん、言葉に詰まってきて、


 言いたいことも、そろそろなくなってきて、


 もう、全部、本当に全部話すことが無くなった時、アクナは立ち上がった。


「なあ、」


「うん。」


 目が合う彼の顔は真剣だった。


「お前、そろそろ現実を見てもいいんじゃないか?」


「…………えっと、、何を言ってるの?」


 本当に分からなかったが、彼は冗談を言っているようには見えなかった。


 ………いや、違う。


 本当はわかってる。わかってるけど、、


「言わないと分からないか?」


「………………」


「お前は自由になったんだ。ずっと、イサノの死体に一人で話しかけて、一人で笑って、場所を移動することすらしない。」


「……………」


「あのな、イサノはもう死んで━━━━」


 だから、


「そんな事、僕が分からないと思ってるの?」


 お前は僕の夢が生み出した妄想だろうが、だから1番知ってるはずだ。


「だったら、!」


「わかってるよ、もう少しだけ、、もう少しだけだ。僕は、、」


 もう少しだけ自分を騙していたっていいだろ?


 もう少しだけ、幸せを錯覚させてくれたって、、、


「お前、そんなことして、、イサノが何のために死んだと思ってんだ!お前に自由に生きて欲しいからだ!ずっと自分に縛られてグズグズさせる為じゃない!」


 ああ、あー!、、だから!!


「だから!!!!そんなことは!!!もう、わかってんだよ!!」


「……………」


「だから、もう少しだけ、それで終わりにするから、、、」


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 目が覚めると、イサノが隣で寝ていた。


 くそ、


 なんだか嫌な夢を見ていた気がする。


 まあいいか、、


「イサノ、朝だよ、、、」








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