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猛獣

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 薄暗い森林の奥に一匹の猛獣を目視した。


 しかしそれは、動物ではない。


 というより、生物ではない。という方が正しいかもしれない。


 それは魔王によって生み出され、魔力を持ち、人間を攻撃する為だけに存在するもの。


 そう、「魔物」である。


 彼らの攻撃対象はひとえに人間のみであり、そして、簡単に人間を殺せるだけの身体能力を持っている。

 魔物に行動理念はなく、ただ、人と出会うまでさまよい続け、遭遇し次第人間を殺す。そしてまた、進み続ける。


 それを繰り返すだけの、いわば人間の天敵である。


 魔力を持つ魔物に普通の武器での攻撃は通用しない。直接魔法をぶつけるか、魔力を込めて作られた武器で戦う必要がある。


 この世界に残っている最古の記録よりもはるか昔から彼らは存在し、その頃から人間の天敵であり続けた。


 そして、魔王もその時代から生き続けている。


 40メートル先で木をなぎ倒しているそいつを目視した瞬間に魔法を詠唱する。


 今までのように簡単な魔法で倒せるような相手では無いのだ。


 しかし、少しの音にも敏感な奴らの耳にはすぐのその声は届く。そして、言わずもがなの運動神経で僕へと一直線に飛び込んできた。


 さっきも言った通り40メートル、しかし彼らにとってはたった40メートル。


 3秒待たないうちに目と鼻の先だ。


「イサノ!」


「うん」


 僕らは繋いでいた手を離した。それと同時に、イサノは慣れた動きで隔壁を構築する。


 目標に近づかれた時のテンプレートその1だ。


「まだ慣れないけど、仕方ないな、」


 頭の中で完成系を想像する。指先に魔力を集めて、それを型に流し込むイメージ。


「……よし、」


 僕の手には剣が握られていた。魔力で作った剣だ。


 アクナほどじゃないけど、なかなかいい出来だ。最初は小さな針を作るだけで1時間かかっていたことを考えると、凄まじい成長である。


 イサノが作った隔壁が攻撃を防いでる間に、僕が剣を生成する。

 タイミングよく隔壁を解除し、敵が体制を崩したところに僕が斬りかかる。

 近接戦闘で時間を稼いでいる間にイサノ攻撃魔法を敵にぶつける。


 ここまでがテンプレートだ。


 いつも通りにやるだけである。


 直接体を動かすのは苦手だったが、今ではそうは思わない。身体能力も、魔法に引けを取らないほど成長した。


 イサノは、回復魔法意外はからっきしだったというのに、今では僕より多い種類の魔法を使える。


 ここまでの道のりでの、努力の賜物だ。


 心の奥底で、多分、2人ともアクナの穴を埋めようとしていたのだろう。2人とも限界を迎えていた。だが、それに気づいて止めてくれる存在はもういなかった。


 しかし、2人だったのが大きいだろう。僕はイサノに、イサノは僕に、アクナの居ない悲しみをぶつけていた。お互いに寄りかかることで、辛うじて成り立っていた、


 つまり、僕はイサノに依存していたし、彼女も僕に依存していた。

 だってしょうがないだろ、何も無いんだよ、僕らにはお互い以外に何もないんだ。


 魔物の攻撃を避ける、爪が腕をかすめたが気にする事はない。避けたのと同時に剣を振りかざした。剣が敵にくい込み、そしてやつの動きも鈍った。


 この魔物はこれでも悲鳴ひとつ上げないが、ダメージはしっかり入っている。


 そんな事をしているうちにイサノの詠唱が終わる。


 そして、強力な魔力の塊が敵にぶつかると同時に、その場に倒れ込んで動かなくなった。


 念の為にトドメをさしておく。彼らは人間と同じで、脳のある位置に剣を突き刺すと一撃で絶命する。


 しかし脳はなく、あるのは丸い石みたいなものだけだ。


 とにかく、そこに剣を突き刺して、ようやく一安心できる。


 周りに魔力の反応はない。つまり魔物は近くにもう居ないということだ。


「まこと!」


 イサノが駆け寄ってきて、お馴染みの質問をする。


「大丈夫?けが、ない?」


「ああうん、ちょっと腕かすっただけだよ。」


 少し笑いながら言ったが、彼女にとってはただ事じゃないらしい。イサノはとても驚いた顔をしている。


「大丈夫?!みせて!」


「いやいや、本当に大したことないから、、」


「いいからみせて!!」


 イサノが真剣な顔をしているので、押し負けて怪我した方の腕を向ける。


「い、痛そう、、だよ?」


「大丈夫だよ、」


「今治すから、待ってて、、、」


「……ありがと」


 彼女の手が僕の腕に触れた。温かい光が傷を治していく。


「本当に、大丈夫、だよね?」


「大丈夫だって、」


「ホントのホント?」


「……うん。」


「痛くない?」


「……もう大丈夫だよ、」


「死んだりしないよね?」


「こんなんで死ぬもんか」


「………うん、、、」


 怪我をする度にこれである。かすり傷で僕が死ぬとでも思っているのだろうか。

 しかしまあ、僕だって、イサノがちょっとでも怪我をしたら、正気でいられるか分からないな、、、


「まこと、」


「なに」


「居なくならないでね」


「………それはこっちのセリフだよ。」


 僕らは立ち上がって、また手を繋いだ。


 そして、また前に進み始めた。


 人間領から魔王領に入って、数ヶ月が経過していた。

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