表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/25

11.スライムはドレスに着替えた(上)

 私はスライムを連れて、王太子宮に向かった。


 スライムは王宮に入るのは初めてなのだろう。


 私に手を引かれながら、珍しそうに王宮内を見ていた。


「王太子殿下、ご活躍のお話は、王太子宮にまで届いております」


 王太子宮の侍女頭が、私を心配そうに見ていた。


 この者は、元は私の乳母だった男爵夫人だ。赤子を産んですぐに、流行り病で夫と赤子を亡くした。私の母が男爵夫人の境遇を知って、私の乳母に取り立てたのだ。


「今夜、魔王討伐の祝賀会がある。この女勇者を、舞踏会に出られるような姿にしてやってくれ」


 私が命じると、侍女頭はスライムを驚きの目で見ていた。


 スライムが『麗しの従騎士』にしか見えないのだろう。


「お美しい方ですが……、女性……、なのですか……?」


 侍女頭ですら、スライムを女性と見抜けないとは……。


 私はだんだんスライムが本当に女性なのか不安になってきた。


「はい。女性です」


 スライムが遠慮がちに答えた。


 よかった……。本人がそう言っているのだから女性なのだろう。


 スライムも、まさか自分の性別を誤ったりするまい。


「そうなのですか……。ダンスはおできになるのですか? 男のパートしか踊れないといったことは……」


 ああ、まあ、そうだよな。スライムは男装の護衛剣士だった。ダンスで女性のパートを踊れない可能性だって高いよな。


「ダンスでしたら、男女どちらとしても踊れます。ご安心ください。今度、一曲お相手しましょうか?」


 スライムが侍女頭に笑いかけると、侍女頭は「あ、あら」と言って顔を赤らめた。


 私のスライムが、女性を口説き落としてまわる色男のようになってしまっている……!


 人間の女性に転生したスライムは、この若さですでに多くの女性を泣かせているだろう。


 ジゼロック侯爵家も罪なことをする……。


「勇者様のドレスは……」


 侍女頭が考え込んでしまった。


 スライムはドレスなど一着も持っていなさそうだ。


 父には王妃以外に妻はなく、私には妹もいない。


「私はこの格好でも踊れますが……」


 スライムが精一杯、気を遣ってくれている。


 実に良い子だ。


 だが、そういう問題ではないのだ……。


「ドレスが必要でしたら、娼館の姐さ……店主が持たせてくれたものが、騎士団の部屋に置いてあります」


「娼館……」


 侍女頭が思わずという感じで復唱した。


「はい。娼館を守る筆頭護衛剣士をしておりましたので」


 スライムがまた、まぶしい笑顔で侍女頭に笑いかけた。


 侍女頭は、「あら素敵」とまた頬を染めた。


 この者は水色のプルプルしたスライムだったのに……。


 なぜ爽やかな笑顔をふりまいて、中年の女性を虜にしているのだ……。


 侍女頭はすぐに侍女に命じて、騎士団のスライムの部屋にドレスを取りに行かせた。


 田舎の娼館が用意したドレスか……。


 王宮での舞踏会で使えるような品物ならば良いのだが……。


 あまりに安っぽかったりしたら、他で調達しなければならなくなるぞ。


「では、お嬢様、こちらへ」


 侍女頭がスライムを風呂に連れて行った。


 花びらが浮いた風呂に入れて磨き上げ、髪を梳いて、結いあげて、淑女に仕立ててくれるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ