三話・冒険者登録と宿屋の看板娘
「いやあ、それにしてもここの黒パンは美味いな!」
「だからよ、なぜそんなに黒パンにこだわる」
俺とブレイは、楽しく食事を摂っていた。それにしても、黒パンが美味い。
俺とブレイは、任務を完遂した後、宿屋を探した。そうして見つけた宿屋がここ、ラミュラの宿だ。一階がレストラン、ニ、三、四階が宿となっている。一つの階に五部屋あり、三階と四階は一人部屋、二回は数人で泊まれる部屋になっている。二人で止まった方が一人当たりの値段が安いので、俺とブレイは二階の端っこの部屋に泊っている。
「なぁ、アル」
「どうした?」
少し真剣な顔でブレイが俺を呼んだ。
「お前って前衛だよな。戦い方はどういうタイプだ?上手く噛み合えば、チーム組まねえか?」
「おう!全然いいぜ。あと、確かに俺は前衛だし戦い方はなぁ・・・」
「ん?何だ?言いたくねーのか?」
「いや、そうじゃねえ。けどな、俺の戦い方はちょっと特殊でな。うーん・・・言い表すなら、全部かな?」
「は?」
「いや、全部」
ブレイの目が何言ってんだこいつみたいなものになる。
いや、奥さん、本当なんですって。俺は大体全部の戦い方が出来るんだって。
「ヒットアンドアウェイとか、力押しとかも?」
「ああ。俺は、速さで翻弄するのも、力押しするのも出来る。親父に仕込まれた」
「すげー親父さんだな・・・」
いや、当たり前じゃないですか。俺の親父、ギルドマスターだぜ?元最高ランクの冒険者だぜ?
「そういうブレイはどうなんだ?」
「俺様はな、見ての通り魔術師だから、後衛だな。どっちかって言うと、補助の魔法より攻撃魔法とか、花形の方が得意だな」
攻撃魔法か、いいなぁ。俺は何でか知らないけど、放出系の魔法使えないからな。前世が厨二病野郎としては、羨ましい限りだぜ。
って、よく考えたら、ブレイは俺の欲しいもんが揃ってんな。
まずは、高身長だろ。それに、放出系の魔法、イケメン顔に、緑色の髪の毛という厨二心をくすぐるファンタジー的容姿。金色の瞳。
「恨めしいな」
「いきなりだな!なんだなんだ!?」
貴様を羨んでいただけさ。
ああ。そういえば今まで言っていなかったが、俺はファンタジー的要素が薄い。(容姿的に)
焦げ茶色の髪、くすんだ青色の瞳、顔立ちは、かっこいいとはあまり言えない。しょぼん。
アジア系と南米のハーフみたいな顔立ちだが、目が細くて、素がにやけ顔っぽいから、子供にしか見えないらしい。しょぼん。
で、そもそも低身長。でも、筋肉はある。だからよくドワーフの子供って言われる。ドワーフならまだしも、子供だぜ!哀しいと思わないかい!?
「いやなに、コンプレックスのことを考えていただけさ。ははは」
「すげー乾いた笑いだな・・・」
HAHAHA・・・
俺、泣く。
「ま、まぁ、気にすんなって。いいことあるさ」
・・・
「・・・因みにさ、お前は俺のコンプレックスが何だと思ってるわけ?」
「あー・・・」
おい。
「・・・」
そんなに言い難いことだとでもッ!言いたいのか、お前はッ!!
「・・・悪いとは思うけどよ、多分、俺様の身長だろ?」
「うわーすごーい。ダイセイカーイ」
「うん、すまん」
いや、気にしてないよ?親父も、母上も、フィア姉さんもケイル兄も、クラフ兄もミアナ姉まで背が高いのに俺だけ山小人並みに背が低いなんて。慣れっこだしね。
・・・うう。自分で言ってて泣けてきた。
「ま、取り敢えず話を変えよーぜ。―――でだ。あそこの娘、可愛いと思わねーか?」
そう言ってブレイが指差したのは、先ほどから店内をせかせかと歩き回って注文を受けているウェイトレス―――この世界ではどう言うのか知らないけど―――のうち、一番かわいい女の子だった。
「そうだな。で?」
けどなー。俺としては、可愛い系も好きっちゃ好きだけど、クールビューティー系のがいいなぁ。お姉さん属性というか。それでツンデレなんかされたらたまらんね。
・・・コラ、誰が思考までお子ちゃまだ。お子様ですらないとは、喧嘩売っとんか、オラァ!
ツンデレの時点でお子ちゃま思考じゃ無いわァ!
「な、何を怒ってんだ?取り敢えず、俺様はイイと思うんだが、お前はどう思うよ、アル?」
「う~ん。本音を言えば、俺は勘弁かな。俺的には、可愛い系より美人系がいい。画板なんかが出てる冒険者の中じゃあ、〝聖剣の姫〟なんかが一番美人だと思う」
「へぇ、結構コアだな。俺様は、〝カナリア〟とか守ってあげたくなるタイプがいいけどなぁ」
ああ、因みに、画板てのは、姿絵とかだな。まぁ、写真集みたいなもので、有名になった冒険者や、貴族のお嬢様、傭兵なんかはかなり上方修正された絵画が売られている。
そう思ったのは、親父の画板を見たからだな。
ほんと、誰だこれ、ってのが俺の初見での感想だったな。母上が密かに集めてるらしいから、まだまだラブラブなんだろうけど。あ、脱線した。
ま、取り敢えずえげつないぐらいに上方修正されていると思ったらいい。
髪の色が焦げ茶色ってことと瞳の色が灰色ってことしか正しくない。
なんか凄い渋い感じで配置された無精ひげとか、鷹みたいな鋭い目とか、少しやせ形で骨が浮き出ているのに、すごくカッコよく見える。画って不思議だよな。
あと、〝聖剣の姫〟は銀級の冒険者で、チーム〝氷の微笑〟のリーダーだ。パーティ全員が氷属性の魔法を使える女性だかららしい。
「そういえばよ、〝聖剣の姫〟って魔物相手になれば凄い強気になって哄笑しながら切り刻むって聞いたことがあるけどよ、それは別にいいのか?」
「何がだ?」
いや、ほんと何が?そういう人もいるでしょうに。
「・・・戦闘狂とか、イメージ崩れしないか?」
「うん?いや、外見の話じゃねえのか?」
「イメージとのギャップって哀しくなんね?」
「いや?溶岩の属性を持った竜を片手間に溶かす親父とか、視線だけで他国の要人をビビらす母上とかがいるからそこら辺は気にならねえ」
いやぁ、あの時は本当にヤバかった。(×2)
五歳児を火山の火口に連れて行って、そこで武器の稽古しつつ溶岩竜を溶かす親父とか。
八歳児の目の前で隣国の偉そうな王子様を、言い寄ってきたからっていう理由で、視線の吹雪のみで矯正する金髪で冷めた色の青目をした美人な母親とか。
ランゲルフライスクレイ家以外では見られないよな。
「お前んちは魔境か?それとも地獄か?」
いや、普通の平民・・・いや、普通じゃないわ、やっぱり。
「ま、取り敢えず、あそこの女の子は美人だよ!声掛けに行かねーか?」
「お一人でどうぞ。俺の食指は全く動かん」
「お前が食指って言うと違和感しかねーわ・・・見た目十二歳がなぁ」
「うっせ!喧嘩なら買うぞ!?表出るか?!」
「いや、すまん。すまんから落ち着いてくれ」
俺の心の火山は噴火中だぜ!警戒レベルは、8だ!(最大は5)
もう、俺の怒りはブレーキの壊れたリニアモーターカー並みに止まらん!!
「俺様は行くぜ、戦場にな」
「ガンバ。玉砕した後に股間をスマッシュされて痴漢冤罪で拘束されて、強制労働刑二百八十年ぐらい処されるがいい」
「恨みがすげーな?!?!」
無論なり。
俺よりも背が高くて、俺の小ささを馬鹿にするやつには呪いを掛けるのが家訓だ。
効果は三年ほど続く、親父の知り合いから教わった正真正銘の呪術だからな!凄いぞ!!!
まぁ、そのあとも口論は続いた。
今からブレイは死の旅路へ出る。―――希望観測込み―――
「お嬢さん、綺麗ですね」
「アラヤだ、お嬢さんですって!」
って、いつの間にか行ってる!
ブレイの野郎、自信満々だな、オイ!俺は武器でも手入れして待っとこかな。
今までナンパして良いことになってた奴見たことねーし。寧ろ虐められてたし。
この世界の女性って身持ちが堅いよ。俺はその時点で異世界ハーレムの夢を諦めてる。
・・・ごめんなさい、嘘つきました。
・・・本当の原因は十歳ぐらいのときに可愛い五歳児って呼ばれたことです。
・・・も、死にたい・・・・・・・・・
「いえいえ、お世辞ではなく―――」
バァン!と宿屋の扉が開け放たれた。
そこから差し込む光は――って、夜だからないけど。
開け放たれた扉、食事を摂っていたほぼすべての客の注目がそっちに行く。
そこにいたのは、――――
「おばあちゃん!!」
――――幼女だった。
「アラ、メニー。どうしたの?」
さらさらとした水色の髪は、見覚えのあるものだった。つーか、看板娘さんと同じ。
お姉さんかなー?
「おばあちゃん!今日はお誕生日おめでとうなの!」
「アラ、ありがとうね、私は凄く嬉しいわぁ」
「―――お、お婆ちゃん・・・?」
祖母だと・・・――――――!?
ブレイは振り向いた姿勢で固まっている。もう、あの少女は自分の前にいた看板娘さんの腕の中にいるのに。
「ねえ、おばあちゃん。このおにいちゃん、動かないなの?」
「アラアラ、うふふ」
ブレイは動かない!
否、ブレイは動けない!
ふっ、俺の身長を馬鹿にした天罰を食らったのさ―――!
俺が心の中で勝ち誇り、嘲り笑っている間、金縛りにあったブレイは先輩冒険者らしき人から肩をポンポンと叩かれ慰められていた。
その姿はとても哀愁漂うものだったとここに書き記しておく。