プロローグ
前世の記憶を取り戻してから早十二年。
ずっと気になっていたことがある。
因みに、この世界には魔法がある。ギルドがある。冒険者がいる。
三拍子そろったちゅーにびょー世界だ。すごく嬉しい。俺、そういうの大好き少年だったから。感謝感激雨みぞれ。あ、間違えた。
取り敢えず、自己紹介をしようか?
してほしいか?本当にしてほしいのか?
・・・・・・え?要らない?ファイナルアンサー?
・・・ん?
そうか。そうだよな!やっぱいるよな!
ということで、自己紹介をする。
俺は、アーノルドシュタイン・ランゲルフライスクレイ。
ランゲルフライスクレイさん家の末っ子だ。別に、ランゲルフライスクレイ家は貴族とかそういう家ではない。平民だ。
ただし、いろんな意味で有名な家でもある。
俺が侘しいご近所づきあいで手に入れた情報―――何で必死になって自分の家の情報を手に入れているんだろうか。人生に苦悩する十五歳。悩みが尽きないお年頃であった。―――によると、凄いうわさが流れているらしい。
曰く、あそこの家は夫婦げんかで家が崩れ落ちる。
曰く、何十人も養子がいる。
曰く、王族よりも権限がある。
曰く、喧嘩を売ったら叩き買いされて、どんな方法で仕掛けてもぼっこぼこにやり返されて、骨の髄まで恐怖を植え込まれる。
・・・この噂を聞いた時、俺は激しく思ったことがある。
うちの家族って何もんなんだ!というか、親父と母上、何やりよったんだ!とね。
まあ、話を戻そう。
俺は、今年成人した十五歳だ。将来というか、今から、冒険者になろうと思う。
うちは兄が二人と姉が二人いる。爺ちゃん婆ちゃんたちもすこぶる元気だ。お昼の三時くらいにお茶の間を賑わしているCM、ニンニクと黒色のお酢でできたあれを体現している。
しかも、聞いたところによると、ひい爺ちゃんも生きているらしい。
親父が三十七歳、親父の方の爺ちゃんが五十六歳らしい。ひい爺ちゃんは八十一歳なのだと。この世界の平均寿命は大体六十に少し足らないぐらいらしいから、無茶苦茶な高齢の様だ。
だが、俺は会ったことがない。寧ろ兄貴たちも会ったことがないのだと。
そして先日。正確に言うなれば、一昨日。
俺は衝撃の事実を知った。
それはこんなやり取りがあったのだ。
―――一昨日のある兄弟のやり取り―――
廊下でばったりと出会った兄と弟。
「やあ、アル。ウキウキしているね。明後日の誕生日がそんなに楽しみかい?」
「久しぶり、ケイル兄。もちろん、楽しみだ。俺は冒険者になって、遺跡を探検するのが夢だったからな!十五歳になったら、冒険者として活動が出来る。そのために、親父や兄たちに鍛えて貰ってたからな!」
「そうか。そう言えば、父さんが少し嬉しそうにそんなことを言ってたな。母さんには言ったのかい?」
「無論だよ、ケイル兄。そこら辺は用意周到に戦闘準備万端で向かったさ。最悪、出立の延期も考えたしね、大怪我という理由での」
「・・・あり得るけど・・・そこまでするほど冒険者になりたいのかい?」
「もちろんだよ。三歳のころから言い続けているじゃないか」
「三歳のころは覚えているのかい?」
「いや?そういう話だろう?」
「・・・そうだね。話は変わるけれど、大爺様がね、アルを連れてこいって言ってるらしいよ。多分、明日にはいくんじゃないかな」
この時、確実に俺の頭の上にははてなマークがいっぱい浮かんでいただろう。もしかしたら、編隊飛行か、集団行動かをしていたかもしれない。
「大爺様?誰それ」
「あれ?アルは知らないかい?」
「うん。カイゼル爺様やひい爺ちゃん、テレファー爺ちゃんじゃないんだよね?」
ケイル兄は、彼らの事を順に、爺様、ひい爺様、テレファー爺様と呼んでいるはずだ。大爺様というのは聞いたことがなかった。
「大爺様っていうのはね、ベルグリンスト・ランゲルフライスクレイっていう名前でね、この国の大将軍兼軍務卿兼陛下の相談役兼暗部の長だよ。爺様のお爺さんで、僕たちから見たらひいひい爺様かな」
この時の俺は、目を見開いていたことだろう。
いや、もしかすると、某漫画の某往年の演劇女優も脱帽の白目ベタフラッシュを披露していたかもしれない。正確なところはケイル兄しか知らない。
「・・・マジで?」
「本当だよ。気さくな人だしね。ひい爺様は会ったことがないから分からないけれど、爺様よりも数倍大雑把な方だよ」
「え?俺、存在すら知らなかった人に明日会うの?」
「それを言ったら、僕なんか戦功叙勲式で頭を下げているときにいきなり話しかけられたんだからね。その時初めて知ったぐらいだよ」
「それは・・・ドンマイ?」
―――回想・終―――
そう!
何と俺のひいひい爺ちゃんは未だに生きていたのだ!
しかも、無茶苦茶なぐらいに役職があった。
昨日、本当にひいひい爺ちゃんに会ったのだが、楽しそうに背中をバシバシ叩かれた。すっごい痛かったとだけ言っておこう。
取り敢えず、話を戻そう。
俺は俺なんだが、親父や母上の紹介もしよう。
親父は、王都のギルドマスターをやっている。すごいよな。というか、今俺がいるのは王都の冒険者ギルドだからな、親父がトップの所で仕事をすることになるということだ。嫉妬がダルそうだな。
んで、母上は全然違う。
母上は、王宮の侍女長をしている。すごい厳しい人だけど、マナー関連や家の仕事なんかは完璧にこなす人だ。なんだかんだ言って、母上は王妃様のお気に入りらしい。ま、三日に一回とかしか家に帰ってこないぐらいには忙しいっぽい。
それでも、五人も子供が言るんだから、親父と母上はすっごく仲がいいらしい。
兄弟に移ろう。
一番上はフィア姉さんだ。
正しい名前はフィアーナトレイニーで、近衛騎士らしい。今二十歳で、彼氏募集中なのだと。美人なんだが、性格が少しキツイ。その上で、近衛騎士団では一、二を争う実力者だから、女性騎士には憧れられているが、男性騎士には、恋愛対象として見られていないとフィア姉さんは愚痴っていた。ダークブラウンの髪をポニーテールにしていて、健康的な長身美女なのにな。
あと、多分フィア姉さんは気付いていないが、男性騎士にも恋愛対象として見ている奴はいると思う。フィア姉さん、鈍感だからなぁ・・・
次が、ケイル兄。
ラドケイランクサス兄さんだ。魔術騎士団の第二隊隊長をしている。十八歳で、その地位に就くぐらいに実力がある。
因みに、俺は魔法はほとんど使えない。
身体能力上昇や鍵開けみたいな体に纏わせるタイプの魔法は少し使えるが、放出系の魔法や、設置系は全く使えない。
ケイル兄は、金髪碧眼の美少年と言っていい面持ちだから、すごくモテるらしい。フィア姉さんが前に愚痴っていた。って言うか、何で五つも離れた弟に恋愛について愚痴るんだろう。
ケイル兄の年子で、クラフ兄とミアナ姉がいる。
俺より二つ上だ。
クラファールグランスト兄と、マイアーナリアホルテリーゼ姉というのだが、ここまで紹介して分かったと思う。
ウチの家族、なんか名前が長い。親父も母上も略してしか呼ばないんだから、要らないと思うんだがな。
まぁ、取り敢えず、クラフ兄は王国の北部を主な活動場所にしている傭兵団に所属しているらしい。二年ぐらい会ってないから良く分からない。
それで、ミアナ姉は、商会の会頭をやっている。今は中堅どころといったところだが、次々とヒット商品を生み出す才覚と、金銭感覚があるため、おそらく後五年ほどしたら大商会の一角に名を連ねるだろう。
というか、十七歳で、中堅商会の会頭ってすごいと思う。
で、取り敢えず、爺ちゃんたちなんだが・・・
これまた凄いんだ。
カイゼル爺様は、カイゼル・クラゼア・ヴァンデリンって言うんだけど、母上の父で、王宮の執事長をしている。ヴァンデリン家は代々王宮に仕える執事や侍女の家系なんだと。
親父は平民なので、母上はもう貴族じゃないけれど、貴族並みの扱いをされる。
その理由はひとえに王国建国当時からある貴族家で、代々の国王陛下からの信頼が厚いからだという。凄いよね。
他にも、カイゼル爺様の奥さんであるラナーリア婆様は、先代王妃様付きの侍女をやっているし、親父の母であるブランジェスカ婆ちゃんは王国最高の治癒師だという。
大爺様は言うに及ばずだし・・・噂だけを聞く限り、ひい爺ちゃんも何だか凄い人らしい。
しかし、だ。
ここで最初の言葉に戻る。
前世の記憶を取り戻して、早十二年。
ずっと気になっていたことがある。
ついでに言うと、俺は前世では高校生だった。車にはねられて死んだけど。
まぁ、そんな話はどうでもいい。今の紹介に入っていない人が居ることに気付いたと思う。
そう。テレファー爺ちゃんだ。
親父の父親らしいんだが、テレファー爺ちゃんだけ、良く分からないんだ。
いや、ほとんど会わないとか、何やってるか分からないとかじゃあない。
うちの家族にしては、・・・すごく地位が低いというだけだ。
テレファー爺ちゃんこと、テレファーグドランバルト・ランゲルフランスクレイ。
冒険者だ。そして、俺に冒険者の何たるかを教えてくれた人。
御年五十六歳。生涯現役を目標に抱えているらしい。
ランクは、青。
下から四つ目、上から十個目のかなり下のランク。
本当、爺ちゃんは凄いのか?