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部長が襲うので安心して寝られない的な話  作者: みずはら
[終章]蘭花と僕と……
44/44

(4)明るい未来的な

「……で、何で僕の上に乗ってるんですか?」


「何で、って、用があるからに決まってるじゃない」

 暗がりで僕を睨み付ける人物――蘭花――に対し、僕は最大限の不機嫌さをぶつける。

 あれから、予告通り四日間徹夜の上、何とかデータは完成し、応募完了。

 昼間は学校、夜はデータ入力、ブラック企業も真っ青だよ、多分。

 全てが終わり、僕は最後の力を振り絞り、自分の家に帰って、ベッドにたどり着いたところで意識が途切れたわけ。

 ここまで言えば、今の状況は説明しなくても解るよな。


「いや、意味不明ですし、てか、毎回寝込みを襲われる僕の身になってください!」

 そう、頻繁に蘭花が寝込みを襲うので、今や僕はジャージを着て寝るようになったり、物音がしないように、ベランダにマットを敷いたり、靴隠す箱を用意したり、前みたいに蘭花がいきなり出血したときのために救急箱を用意したり、いきなり親父が現れたときのために、掛け布団も大きめの物を買ってもらったり、まあ、その他にも色々、とにかく蘭花対策で大変なんだ。

 ……って、ちょっ! 違っ!

 別に、蘭花が来ること前提で準備してるとかじゃないし!

 僕はぶんぶんと頭を振ると、思考を現実に戻す。

「そもそも、どうやって入ってきたのか、……いや、それはもう良いですけど、もう学校に侵入する必要も無いはずですし、遊びの強要なら、あいにく明日も学校ですから。とにかく、用は無いはずですが」

 ほんと、停学開けに居眠りとか、今日も色々やばかったのだ。

 データ入力も終わったんだし、明日からは普通の学生として過ごしたい。


「約束」

 対して大まじめな表情の蘭花は、短くそう言った。

 え? 約束?

 何の?

「えっと……」

「薫君、あのとき言ってたわよね。『無事脱出出来たら、何でも1つ言うことを聞く』って」

「!」

 あー!

 あったあった、そんな場面!

 てか、あの壊れていた状況で、何言っても反応薄かったのに、そういうことだけしっかり覚えているとか!

「言ったよね?」

 蘭花が顔を近付ける。

 だから、近いって!

「た、確かに言いました。あっ、でも、ほら、だから、が合宿ですよ。それは謹んでお受けしたはずですが」

「それは部活動。部員の義務よ。約束とは別勘定だし」

 ですよね~。


「……えっと、出来れば、痛くない事でお願いします」

 もういいや、こうなったら、まな板の鯉だ。

「ふふっ、痛くはしないよ~」

「……」

「あのね、あのね~」

 何故かやたら上機嫌な蘭花に、僕の頭の中は不安だらけになる。

 とはいえ、蘭花が僕にまたがっているこの状況。物理的にも逃げ出すことは不可能。

 いやいや、第一、自分の部屋にいるのに、どこに逃げ出すというのだ。

 僕は、死刑宣告を受け入れる覚悟をした。

「これ以降、蘭花って呼んでね」

「ちょっ!」

 そうくるかっ!

「今後、部長って呼んだ時点で、予告無しに撃つからね」

「どこかの独裁国家みたいなこと言わないでください」

 僕は、絶体絶命の中、何か活路がないか、頭をフル回転させる。

「何よ、その顔は。もう一緒に寝た仲なんだし、良いじゃない」

「だっ! ……知らない人が聞いたら誤解するような発言は控えてください」

 そんな僕から思考の時間を奪う蘭花。

 まずい。完全にいつものペースにはまっている。

「だって、本当の事じゃない」

「ただの合宿じゃないですかっ!」

「二人で一つの布団だったじゃない」

「だ・か・らっ! 重要な部分を省略しないっ! 知らない人が聞いたら、以下略っ! 布団が足りなかっただけで、それに、かわいそうな僕は、机で寝てましたけどっ!」

「あたしは別に一緒の布団でも構わなかったわよ」

「なっ、何言ってるんですかっ!」

 冗談だと判っているのに、鼓動が高鳴る。

「ふふ、まあ、とにかく、約束だからねっ」

 僕をいじることに満足したのか、蘭花は話題を元に戻す。

「ぶ……、や、えーと、一つだけ譲歩してもらって良いですか?」

 危ない危ない。危うく撃たれるところだった。

 思考を中断されながら、必死に考えた結論。

「えー、まあ、良いけど。三回に一回だけとか、そういうのは無しね」

「それはさすがに無いっす。蘭花先輩、そう、せめて、先輩を付けさせて下さい」

 あ、先輩付けるだけで、意外にあっさり言えたぞ。

「……」

 ……と、蘭花の表情が歪み、いきなりそっぽを向いた。

 あれ、何か怒らせた?

 この期に及んで男らしくない?

 いやいや、でも呼び捨てはさすがに無理だろ。

「あの?」

「……あ、ごめん。ちょっと目にゴミが。……うん、おっけー、それで良いわっ」

 だが、左手でさっと目元を拭い、再びこちらを見た蘭花は、いつもの表情だった。

 それにしても、これから、蘭花を呼ぶたびに生命の危機とか、なんか、僕らしいっちゃらしいなぁ……。


 突然、蘭花が、布団を引き剥がすと、僕に覆いかぶさった。

「!」

 ふわっとスイートオレンジの香りが空間を満たす。

「ちょっ? ら――」

 いや、何も粗相はしていないはずだけど!?

 混乱する僕に構わず、素早い動作で布団を被ると、蘭花は僕の口をふさぐ。

 当然固まるよな。

 これから起こることをあれこれ想像し、全身が痺れるような感覚で満たされる。


 え?

 なに?

 え?

 まさか?

 え?

 えーーー?


「薫、うるさいぞ! 今何時だと思っているんだ」

 ドアの外から親父の声。

(薫君、うるさいってさ)

 蘭花が僕の耳元で囁く。

 あー、そう言うパターンね。

 てか、誰のせいでそうなったと……

 少しの後、カチャリとドアが開き、親父が入ってくる。

「また、うなされていたのか?」

「え? あ……うん。でも、大丈夫」

 僕は布団から顔を出す。


 いや、そんなことよりも、やばいって!

 前回も同じ場面があったけど、今回は、体勢が違う。

 隠れきれなかった蘭花の顔が僕の胸の辺りで……。

 ベッド脇に来られたら、確実にばれてしまう!

「作品が上手くいかなかったのか?」

「え? あ、ううん、何とか間に合って応募出来たみたい」

 とにかく、これ以上親父が近づかないように願いながら、胸の部分の不自然さをごまかすように、僕は少し起き上がりながら応える。

「そうか……」

 親父が一歩踏み出した。

 だから、やばいって!

 僕の鼓動は臨界点を迎えようとしていた。

 どうする?

 どうなる?

 ばれた後のことをあれこれ想像すると、気が狂いそうになる。

 と、親父の視線が僕から反れ、窓の方を向いた。


 ちょっ!


「窓が開けっぱなしだぞ。暑いのか?」

「え? 開けっ放しだった?」

 我ながら白々しい。

 6月に暑いわけがない。

 てか、蘭花ってばミスが致命的すぎ!

 ……いや、突っ込むところが違うか。

 それにしても、先ほどから、蘭花は微動だにしない。

 この際、ありがたいことだが、どう言う神経してるんだろう。

 親父は窓を閉めようと、ベッドに近づいてきた。


 って、おいっ!


 蘭花の足が布団から出てるし!

 窓側だけど、窓閉める時に100パーセントバレる!

 だが、今更動かすことも出来ない。

 僕は、動揺を必死に隠しながら、曖昧な笑みで親父を見上げる。

 ばれないように、自然に……。

 蘭花をつつくが、意図が通じないのか、相変わらず微動だにしない。

 本当にやばいって!

 鼓動が速すぎて、めまいを催す。


「お父さん! お父さんったら!」

 僕が諦めて全てを投げ出そうとしたのと、母親が戸口から親父を小声で呼ぶのと同時だった。

「ん? どうした?」

 親父が母親の方を振り返る。

「あの、……会社の方から電話ですよ。現場の方みたいですが」

 母親がドアから顔を出し、親父に携帯電話を差し出す。

 親父は携帯電話を受け取ると、そそくさと部屋から出て行った。

 ぼそぼそと話し声が聞こえる。

「薫」

「!」

 突然振り向く母親に、僕は硬直する。

「早く寝なさい。明日も学校でしょ?」

「うん」

「じゃあ、おやすみ」

「うん、おやすみなさい」

 母親は、微笑むと、ドアをカチャリと閉めた。


 ややあって、車のエンジンがかかる音、車が発進する音がした。

 多分、現場でトラブルがあったのだろう。

 親父の会社は三交代制なので、今は夜勤の人が働いている時間だ。

 僕は、全身の筋肉が弛緩するのを感じ、しばし、その余韻に浸っていた。

「蘭花先輩、もう良いですよ」

 ……返事はない。

「蘭花先輩?」

 僕はそっと布団を開ける。

「ちょっ! え?」

 信じられない光景に、僕は唖然とした。

「起きてください、起きてくださいって!」

 僕は小声でそう言いながら、蘭花の肩を揺する。

 しかし、僕の腹に顔を埋める形で、完全に熟睡している感じの蘭花は微動だにしない。

 さっきから動かないなと思っていたら、そういうことだったとは……。

 えーと。

 うーん。

 ま、仕方ないか。

 昨日まで徹夜だったのは、蘭花も同じだし。


 いやいやいやいや!

 全然仕方なくないし!


「ちょっとっ、蘭花先輩っ! まずいですって、このまま朝迎えたら、いろいろな意味で人生終わっちゃいますって!」

 僕は布団をはねのけると、必死に蘭花を揺さぶった。

「うーん、れつにあたふはおなじふとんでも……むにゃむにゃ」

 いやいや、むにゃむにゃじゃないし!

「お願いですからっ! 起きてくださいっ!」

 僕は涙目になっていたと思う。

「やくそくだおー」

「約束とか……、わかりました! もう一つだけ、もう一つ約束守りますからっ! お願いですから起きてくださーい!」


 その後、蘭花は明け方まで起きなかった。



 校則を全てスルーし、やることはいつも予想外、その上、鍵がかかっている二階の窓から侵入して寝込みを襲う、そんな人物から逃げ出す方法があったら誰か教えてほしい。

 いや、まじで。


(おわり)

ここまで読んでいただき、ありがとうございます

ちょっと可愛い身近なお姉さん、ってのを書いて見たくなって作りました。

この話は一番改訂が多かった気がします。

初めての一人称に四苦八苦した気が……


次回は一番初めに書いたやつにしようかなと思ってます


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