宇宙戦艦<ナガト>
男を奪うために侵略する地球の女達。
金星の男達は小さな艦隊で迎え撃つ。
地球連邦主力艦隊との会敵予想時間まで、あと四時間と少し。
金星連合艦隊所属、宇宙戦艦<ナガト>の艦内は、喧騒の中にあった。戦闘配置を告げるサイレンはまだ鳴っていない。だが、出撃を控えた130人の乗組員全員が知っていた。あと数時間で、死力を尽くした艦隊戦が始まることを。
副艦長の大西は、いつもの習慣に従い、一人で艦内の見回りを始めていた。
最初に足を踏み入れたのは機関室だ。全身を揺さぶる低い振動。出力8ギガワットの反応炉が、その中心でエネルギーを生み出している。太い8本のケーブルが隔壁を貫通して前方の主砲室へつながり、反応炉に直結した推進剤の供給パイプが見える。反応炉の後部はメインノズルと一体化している。
原子炉の熱で噴射剤の水を加熱。超高温になった水を噴射することで推進する巨大な核熱ロケット。最大加速力は、わずか0.0077G(0.27Km/毎分・毎分)。時速を1km上げるのに4秒。安全運転の自動車より穏やかな加速。だが、空気抵抗の存在しない真空宇宙においては、この微かな加速が続くことで、1時間半で音速を超え、1日で音速の17倍へ到達せしめる。
「炉心安定。冷却循環、異常なし」
機関長の声を聞きながら、大西は軽く目を細めた。
そして、主砲室。41センチ/450 THz・8連射レーザー砲。
艦の中央を貫く、口径41センチ、全長18.5メートルの超大型レーザー砲。その後ろでは、1枚50トンに達する超電導フライホイールが8枚、滑らかに空転していた。戦闘時には回転数が毎分6000回転まで上がることで、3.2ギガジュールの電力をチャージし、それをレーザーの光束に変換して8連射で2500キロ先の敵へ叩き込む。
大西はその冷たい質量を見上げたまま、不意に呟いた。
「下の海の戦艦乗りがこれを見たらどう思うかな」
傍らの砲術長が口元を歪めた。
「海だったら警備艦ですね、って感じでしょうね」
「そうだな。全高101メートル、質量3272トン。1万トンの戦闘艦が当たり前の会場間に比べれば確かに小さい」
大西は主砲室を後にし、艦橋へと戻った。
展望窓の外、漆黒の宇宙を背景に四角錐の船体が伸びている。この艦はレーザーを弾く反射層で覆われ、その下には電磁拘束された流動式熱吸収材が血流のように循環している。炉の熱を逃がすと同時に、敵の着弾を耐え抜くための「生きた装甲」だ。
中央に鎮座する主砲、上下左右を固める副砲とスラスター、そして後方で深く口を開ける巨大な推進ノズル。この艦を動かすのは、わずか130人だ。
艦橋の大型ディスプレイを見る。青い光の粒が集まり、地球の侵攻艦隊の影。4時間後、この小さな戦艦は、その巨大な波と正面から激突する。
大西は思う。地球艦隊は強い。36センチ砲艦が過半数の12隻の味方に対して、敵は41センチ砲戦艦が14隻。唯一の希望は2隻の46センチ砲戦艦。
これから始まる自分と同格の戦艦との殴り合いに、戦闘に勝てるのか、この船がもつのか、何人の部下が命を落とすのか。そう考えると、金星の誇りである<ナガト>が頼りなく感じられた。
大西は艦長に静かに歩み寄る。「全区画、準備完了の報告が入っております」
艦長の矢野は大西を労い、短く息を吸い込み、全艦通信のスイッチを入れた。
「こちら艦長。これより物販の菓子・飲料の喫食・持ち出し自由……戦闘前の最後の休息だ。1時間後、各員、第一種戦闘配置。そして、今度も、地球の人食い女を追い返す」
敵は地球。男女比の崩壊した星の女達は、別の星まで男をさらいにやって来たのだ。




