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第2話 悪魔の従者様は脅すのがお好き

読んでいただきありがとうございます。

第2話です。

「無論、次の攻撃を仕掛けようとした私の邪魔をしたともいえなくもないが、捨て身の攻撃が功を奏し、奴にスキが出来た、一応感謝している」


 力なくソファーに体をうずめる私に、空気を読まないダニエルさんの声が聞こえた、まるで他人事のように。

 彼からすれば他人事なんでしょうけどね。


「だからって、攫ってくること無いじゃない」

「だけどお前あのままあの場にいたら、爆破事件の犯人にされちまっていたぞ、それでもいいのか?」


「はぇ、どういうことよ」


 二人の話によると、今までも派手な戦闘や爆破騒ぎを起こした際は、その責任を自分たちではなく、誰かに擦り付けてきたのだとか。


「意味わかんない、私を犯人に仕立てようとするなんてできるわけないじゃない?」

「うちの組織を甘く見るな、お前がいくら否定しようが、言い逃れできないほどの証拠はそろうように細工をし、生活の根本から作り変えることだって可能なのだ」


「何それ、ひどすぎない?」


 私はたまたま通りすがっただけなのに、犯人に仕立て上げられるなんてたまったもんじゃない、自転車で轢いたのは私だけど。


「しかし、お前には恩義があるからな、無下に扱えぬと判断したからな、感謝しろ」

「感謝て……」


 それに私が犯人じゃないってことは、ほかのだれかが犯人に仕立て上げられるってことじゃないの、何も関係のない人を巻き込むなんてひどいこと。


「今回は、すぐそばの民家からのガス爆発ってことにした、案ずるな、あそこはもともと空き家だ、見捨てられ老朽化したガス管の事故だったということにした、誰もとがめは受けぬから安心しろ」


「じゃぁ、私がいてもそういう結果になっていたんなら放っておいてくれてもよかったじゃない」


「そうしたかったのだが、お前は、デットの姿を見ている、何も知らないお前が見たままの証言をすれば、警察も混乱するであろう、その前に保護したというわけだ」


「保護……」

 要するに、ただのガス爆発で一件落着したかったのに、余計なことを言いかねない私の口封じをしたわけかぁ。


 納得いかない。

「だからこうして無事においしいコーヒーが飲める、良かったではないか」


「うん……って、いやいやいや、犯人にされなかったことはよかったかもだけど、おかげで会社に遅刻したから首になっちゃったのよ、どうしてくれるの」


 あそこでこんなトラブルに巻き込まれなければ、まだ何とかなっていたかもしれないのに、あぁ、明日から生活どうしよう、もらえるはずのお給料を当てにして借りたアパートの家賃が払えなくなる、高校の時に必死でバイトして貯めたお金で敷金礼金に充てて、やっと借りれた部屋なのに。


 明日から就活かぁ、ってこんな時期に正社員の募集ってあるのかしら、資格も何もない私ができる仕事って限られているから、できると言ったら、くそ忙しいわりに収入の不安定な飲食店のアルバイトか、人間関係の厳しい女性が多い工場作業の仕事くらいかなぁ。


 脱力してテーブルにおでこをつけ、伏せっている私の頭にダニエルさんの声が降り注ぐ。


「お前は、人間社会における精密機械の操作には詳しいか」

「へ?」


 せーみつきかい?細かい機会を組み立てるとか?

 分けわからず頭を持ち上げようとしたところに、何やら固いものが後頭部にゴツン

「ア痛ッ!」


「こいつの扱いには慣れているかと聞いているのだが」

「いきなりなにすんのよぉ!」


 こいつってドイツよと言いながら顔を上げると、ダニエルさんの手には一台のパソコン、どこから出したの今。どこに隠し持っていたのよ。


「それによって貴様の処遇も考えてやらん事もない」

「ショグウ?」


 意味わからないまま、ダニエルさんがせかすようにパソコンを押し付けてくるので、とりあえず受け取った。

 深く考えるのはよそう


「どれどれ」

 私もよく知っている性能の良いメーカーのだし、インテル入ってるし、何か他と違うのかなと訝しげに開いてみるが、どこもおかしなところはなさそう。


 いつの間にかダニエルさんが横に座って私の作業を見ていた。

 といっても、ノートパソコンを開いただけなんだけど。


「おぉぉ、さすがは人間、私が操作しようとしても全く動かないというのに」

 ようこその文字が浮かび上がっただけで喜びの声を上げた。


 いや、感心されるようなことではない、起動スイッチを押しただけなんだが、これくらいは誰だって使えると思うよ。

 ワードとエクセルもちゃんと入っているし、マウスが本物のネズミみたいな色と形だったので、そこにビビりはしたけれど、試しにインターネットを立ち上げてみたら、ちゃんと繋がった。


「初期設定まで済ませてあるのに、何で使えないのよ?」

 ダニエルさんに素朴な疑問を投げかけてみた。


「私はパソコンに嫌われているのだ」

「はい?」

「そーそー、ダニエルさんが触るととんでもないことになるから、触らせんじゃねーぞ」


 向かいに座っているデリックさんは、まるで他人事のようにコーヒーを飲んでいる。

「どんな風にとんでもないの?」

 そのとんでもなさが想像できないなぁ、と何気に言う私に、ダニエルさんは。


「では、試しに触ってみようか」

 白くて美しい指を伸ばしてきた。


「お、おいバカ、やめろって!」

 デリックさんがおどろいて止めるのと、ダニエルさんがキーを押すのとほぼ同時だった、画面には、「d」の文字が浮かんだように一瞬見えた。


 そう、見えただけ。


 ダニエルさんがキーを押した途端、バシュン!と変な音がして、パソコン全体に蒼白い火花が散り、あとはもう、「D」のキーを中止に黒く汚れたキーボードから、焦げ臭いにおいが立ち込める


 その騒ぎに、カフェの店員らしき女性が駆け寄ってきたが、ダニエルさんは「大丈夫、いつもの事だから気にすることではない」と、軽くたしなめていたけれど。

 こうなってしまったパソコンは二度と生き返らない。


「な、なんで……?」

 画面も軽くひびが入っちゃってるし、何が起こったかわからない。今軽く触っただけだよね、どうすんのこれ。  


「あー、どうすんだよこれ、あれだけ触るなと言われてたのに」

 まさにあちゃー、って感じの表情を浮かべ頭を抱えるデリックさんにたいして、特に反省の様子が見られないダニエルさんだった。


「このか弱い人間が、好奇心の塊のような目で見てきたからな」

「私のせいなの?」

「だからって本当に触ることねーだろー!」

 あ、今デリックさんと意見が一致した。


「おめぇも、何触らせようとしてんだよ、止めろよ!」

 怒られた、何で?


「だって、まさか本当にスパークするとは思ってなかったしぃ」

 本当だよ、まさかだよ、パソコンを指先一つでダウンさせた人間初めて見た。


「で、どうすんだよ、それ」

「仕方がない、悪魔協会に頭を下げてもう一台支給してもらおう、次はこいつがちゃんとしてくれるから、大丈夫だろう」

「はい?」


 こいつって何、私の事?

「人間の持つ精密機械はどうも、我々が使うとうまくいかないのだ、やはり悪魔と人間とではこうも違うものなのか」


「悪魔?」


「あぁ、お前にはまだ言っていなかったな、私は悪魔協会営業部下界支部、副支部長を務めるダニエル、こいつは私の部下デリック、お前たち人間とは違うのだ」


フハハハハハハ、十万十九歳。

「なんだ、意外と理解あんじゃん」


 いやいや、理解してないし、そういえば子供のころ、テレビを見ていたら「私たちは宇宙人」という人たちがスタジオに来て、司会者やゲストのタレントや評論家たちと話をするっていう番組を見たことがある。


「胡散臭いぃ」

 その時も子供心に、自称宇宙人相手に失笑するタレントたちの間に流れていた空気に同感しながら見ていた。


 その時と同じ気持ちになっている、今。

「信じられないようならそれでもいいが、事実は事実だ変えようがない」


 信じようとしない私にダニエルさんは冷静だ、そうだよね、そんな冗談誰が信じるか、っての。

「そうは言うけど、お前も体験しただろ、ダニエルさんの跳躍」


「う?」

 あれが跳躍、飛び跳ねたってこと、びよぉぉぉ~んって。

 どんな仕掛け……


  きっとデリックさんが操縦する巨大なクレインに吊り下げられたのよ、ほら、ハイジのブランコみたいに。


 だからパソコンだって、触ると花火が飛び散る仕掛けがなされていたんだわこれで納得さようなら。


 これ以上付き合いきれないと、席を立つ私に、男性二人は特に止める様子は見られない。


 変な人たちに突き合わされて、人生を狂わされるところだったわ。

 今なら間に合う、せめて家賃が払える仕事を早急に見つけよう。


「ほう、早乙女加奈子、大して変わり映えのしない、普通の名前だなぁ」

 カフェの扉に手をかけようとしたその時、ダニエルさんの声が響いてきた。

「え?」


 何で私の名を、と、恐る恐る二人の席に根を向けると、ダニエルさんの手には四角い白地に青いカード。


「何だこれっぽちしか入ってねぇのかよしけてんなぁ」

 その上あろうことか、デリックさんの持っていたのは

「ちょっと、それ私の財布!」


 光沢のあるピンクの生地に黒いリボン気に入って、この間シマムラで買った私の財布。

 驚いて二人のもとに駆け寄り、財布を奪取せんと背を伸ばすと、デリックさんの手が反対側に逸らされたので届かない。


「ひどいじゃない返しなさいよ!」

「貴様が話を聞く前に席を立つからだ」


 財布を盗られた私の怒りなどお構いなしかのようにダニエルさんの声はクールだ、その手には私の運転免許証。もちろんペーパードライバーだけど。


「だからって人の財布を盗らないでよ――」と、ここまで言いかけて、今までの自分の行動を思い起こして驚愕した。


 財布


 そういえばさっき、バッグからスマホを探った時、財布の存在を失念していたわ。


 それ以前に、自転車で人を撥ねて事故った時、中身が散乱していたはず、いつの間にバッグとスマホをちゃんと持っていたのこの人は。


「爆破の現場に落ちていたのだが、もしやこれは犯人の落としたものかもしれないなぁ」

 デリックさんのもう片方の指には、私の家の鍵、涼しい顔でキーリングを指にはめてくるくると回しているが、すごい棒読み。


「それはすごい、これらを警察に届ければ、物的証拠として犯人逮捕につながるかもしれないなぁ」

 ダニエルさんも、つられて棒読みになってんじゃないっての。


「そんな脅し効かないから、そもそも私、犯人じゃないし」

 自転車で轢いたのは私だけど。


「大切な財布を落としておいて、拾い主に感謝もなしとは、ますます怪しい、もしや本当に犯――」

「私の大切な財布と家の鍵を拾っていただいてありがとうございます、だから返してください」

 手を伸ばすと、また更によけられて取れない


「返してほしいと思うなら、返してやらん事もないが」

「返してください」

「ならば、今後私の下僕として働け」

「は?」


 ダニエルさんは、何を言い出すのやら、働けとはどういう意味か、もしや今流行りの闇バイト――


「今のお前は、仕事を首になって働き先を探していたのであろう、ちょうど私も、私の手足となって働いてくれる奴を探していたのだ」


 自分の事を悪魔だとほざく奴の下でどう働けというのよ。

「ちょうどお前は、精密機械に詳しい、こいつを扱うだけでいい」


 パソコンの事か、パソコンを扱える人なんて、この地球上にごまんといる、何で私なの。


「嫌だというならこの話はなかったこととして、これは納めさせていただく」


 そういいながらダニエルさんは、私の免許証をスーツの打つポケットに収めようとする。

「んじゃぁ、俺も」

 真似してデリックさんも私の財布と鍵を、コートの内ポケットに入れるフリをする。


「ちょっと待って、それ私の財布と鍵だし、そんな勝手なこと許されると思ってるの⁉」

「許しを請うつもりはないが」

「うぅぅ」


 理不尽だぁ、財布と、無実の罪で犯罪者、とい人質、いや物質を盗られてしまったかわいそうすぎる私に選択肢はないのか。


 何も言い返せない私に、それが答えだと悟ったのか、ダニエルさんは口角を上げ

「商談成立だ、貴様は今から私の下僕として、この精密機械を扱う仕事についてもらう、異論はあるか」

「ありまくりだよ」


「心配するな私の下で働く限りは、生活の保障はしてやる、いくらほしいのだ」

「いくら?」

「いくらでも」


 鮭の卵ではなく、お給料の話をしているらしい、そんな事は雇い主が決めることじゃないのか知らと思いながら、頭の中でそろばんをはじく。


「じゅう……十五万……円」


 これは、今日行くはずだった会社の初任給、この人たちに邪魔されなければ、この先毎月もらえたであろう金額、いや手取りはもっと少なくなるはずだが、それでも、これだけのお金がもらえるはずだったのだ。


 その金額を聞いたダニエルさんは、一瞬驚いた表情を見せた。

 あはは、意味の解らない悪魔様たちから見れば、たかが小娘一人にそんな金は出せないと言いたいのね、だったらこの話はなかったことにして、ハイ解散。


「その程度でいいのか、欲のない奴」

「はぁ、バカにしてんの、その程度って何よ、ダニエルさんってばそれくらい余裕で出せるっていうの、私はこのお給料でこれから先家賃生活費全部賄ってつつましく生きていくつもりだったんだからぁ‼」


「では毎月二十五万で手を打とう」

「に⁉」


 二十五万、その金額はとっても魅力的だ。

「社会保険は、付けてくれるんでしょうね」

「悪魔協会を甘く見てはいけない」

 悪魔の年金ならいらない


「よし、そうと決まれば早速!」

 ダニエルさんが立ち上がった。


 早速⁉ 早速って何、パソコンは誰かさんが壊してもう使えないんだけど!

 って、金額に負けていつの間にか、ダニエルさんの下僕に成り下がろうという話になってる私。


「ちょっと待ってよ、私まだ、やるとも言ってな――」

「早速、昼飯にしよう!」

 おなかが鳴った。


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