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悪魔の従者様はカフェランチがお好き  作者: 宮河小川


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18/18

第18話 悪魔の従者様はやっぱりカフェランチが好き

お読みいただきありがとうございます。

本編いよいよ最終回でございます。

最後まで読んでいただければ幸いです。

 

 騒動が収まって、静寂が訪れた岸谷クリニックの屋上に残された私たち。

 星のない夜空を見上げながら、独り言のように呟いてみる。


「大天使様はお酒を飲まれるのですね?」

「あぁ、それがしも時々お供させていただくが、ハギト様は特に日本酒が好きであられる」


 意外だ。

 大天使様がお酒を飲むのも意外だし、天使と悪魔が飲みに行く姿はちょっと想像できない。


「なんだ、戦争でもしているとでも思ったか?」

 ダニエルさんが、私の意外そうな表情を読み取ったのか、すぐそばに来てくれた。


「だって、悪魔と天使って相対する存在じゃないですかぁ」

「昔は、戦争をしていた時代もあったが、そんなことをしても何も生まれない、むなしいだけだと気付き、今は仲良くやっている」


「平和っていいですね」

「だから、加奈子は何も心配するな」


 突然ダニエルさんの両腕が、私の肩を引き寄せる、頬がダニエルさんの胸板にもたれかかる。


 ダニエルさんに抱きしめられ、心臓がドクンと跳ねた、でもこれは普通の跳ね方と違う、私のほうからダニエルさんにもたれかかったことに気付いた。


 一度跳ねた心臓は、もうその力を失っていく。

 あぁ、そうだ、私癌だったんですよ、それも末期の。


 良介さんの願いが破棄されて、私の体に帰ってきたんだ、お帰り、私の病気。


 言いようのない痛みが全身を襲う、立っていられなくなり、ダニエルさんに膝枕で、その体を横たえる。


「加奈ちゃん‼」

 良介さんが私の手を握ってくれた、暖かい、そうやって握っていてくれたら、この痛みも少しは癒される、ような気がする。 


 デリックさんが赤いコートを私の体にかけてくれた。

「すまない、加奈ちゃん、俺なんかのせいで」


「泣かないでくださいよぉ、良介さんのせいじゃないですからぁ」

「でも、君を、こんな目にっ……」


「もともとこの病気は私のだったんですよぉ、だから、良介さんこそぉ、私の代わりに今までしんどい思いしていたんですからぁ、ごめんなさい……」


「頼む、あんたならなんとかできるんじゃないのか、加奈ちゃんを助けてやってくれ‼」

 良介さんはダニエルさんにすがるけれど、ダニエルさんは軽く首を横に振る。


「私は悪魔協会に努めるただの従業員だ、人の病気を治すことなどできない、医者ではないのですから」

 医者である良介さんですら、もう……悟っているんだ。これ以上どうしようもない。


「なら、俺があんたと契約すればいいのか、加奈ちゃんのためならなんだってする、だから!」

「あなたはもう既に、天使協会と契約を交わしている、それを解約することはもうできない、重複も許されない」


「あ、あんたが無理なら、そうだ悪魔に直接頼むのはどうだ、加奈ちゃんが助かるなら俺はっ‼」

 ちょっ、良介さん必死すぎ。


「確かに、悪魔に直接望みを伝えるのもいいだろうが、それには生贄がいる、しかし加奈子を助けるために自分の命を授けることに何の意味がある」


 他にできることはもう無い、ダニエルさんが残念そうにため息をついた。


「俺は、医者として、一人の男として、君に何もしてやれないのか……」

「そ、そんなに、落ち込まないで、下さいよぉ」


 良介さんの、私の手を握る力がさらに強くなる、私はもう握り返す力もないけれど。


「私は、後悔なんかしてませんよ、だからどうか自分を責めないでください、良介さんはこれからも、たくさんの人の病気を治して、いっぱい恋をして、素敵な医者になってください、私はいつまでも良介さんの見方でいますからぁ、ね……」


 良介さんが泣いている、私のために泣いているんだ、うれしい。

 今はいっぱい泣いて、でもそのあとは、素敵な良介さんになってくれたらもっと嬉しい。


 これでよかったのよ。

 これで、誰を恨むことなく、この先明るく生きてくれれば、私はもう思い残すことは……。


 思い残すこと……あれもしたかったこれもしたかった、思い出したらいっぱいあるけれど、最後に大好きな人に看取られて逝ければ、それだけで十分だよ。


 体から力が抜けていく、さっきまでの息苦しさも治まってきて、痛みも消えてゆく。

 背中がゾクゾクして寒い、関節が痛くなってきた。


 これが死ぬってことなのね、でも怖いとは思えなくて不思議。


 だって死んでもまた、ダニエルさんやデリックさんと、一緒に仕事ができるんだ、悪魔協会に正式に入社するのよ私。


 そう、良介さんも、遠い未来には天使協会で仕事するのだから、きっとまた、会える……。

 …………。



 力尽きたように、だらりと下がる加奈子の腕から、パソコンが滑り落ちるように飛び出してきた。

 加奈子に預けていた悪魔協会のパソコンだ。


 地面に落ちた拍子に、カパリと画面が開かれて、自動的に電源が入り、悪魔協会のホームページが立ち上がった。


 トップページの画面、お美しいルシファー様のりりしきお姿が映し出される。


 そんな画面の真ん中に、青い丸がまるで生き物のようにぐるぐると回りだしてルシファー様の顔を邪魔しているではないか。


 何だこれは。

 あぁ、思い出した、確かこれはパソコンからの、ちょっと待ってとのお知らせ。


 ローディングとか言ったか、いや、鵜エイティングカーソルだったが、まぁそれは今のこの状況にはどっちでもいい、こんな時に何をやっているのだ。



 あ、あぁ! 

 悪魔協会の力は絶対なのだ。


 エラーが出た原因が解除され、今やっと加奈子の願いを聞き入れるために、我らがアックーマ君が、頑張っているのだ。


 このグルグルが解け、OKが出たその時。

 加奈子は風邪をひき、岸谷クリニックに通院する。


 OKが出た後のエンターキーは、この若造医師に押させてやろう、こいつにも、アックーマ君の可愛さを堪能させてやろうではないか。


 そのあとは、みんなに飛び切り美味しいコーヒーとランチを奢らせてやろう。



今まで応援ありがとうございました。

それではまたね。

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