セガ
軽い。
初めてJoy-Conを持った時、最初に思ったのはそれだった。
軽すぎる。
こんなものにリアルが入っているわけがない。
そう思った。
俺たちは鉄でゲームを作っていた。
モーターを積み、筐体を揺らし、店の床を軋ませ、100円玉を震わせていた。
プレイヤーはゲームをしていたんじゃない。
“乗って”いたんだ。
大型筐体を搬入するためにゲーセンの壁を抜いた夜を覚えている。
配電が飛んで、店長と真冬の路地で煙草を吸ったこともある。
振動が強すぎてネジが飛び、翌朝メンテに行った。
馬鹿みたいだ。
でも、あの頃のゲーセンには確かに未来があった。
人間が、機械と一緒に汗をかいていた。
……なのに。
カチ、と音がする。
Joy-ConがSwitchから外れる。
乾いた、安い音。
だが次の瞬間、手の中で小さく振動した。
ヴ……
私は止まった。
その振動が、 昔、筐体の低周波ユニットを調整していた時の感覚と同じだったからだ。
“生きている感じ”。
音じゃない。
ただ震えているだけでもない。
機械の奥に、熱がある感じ。
それを、この軽い樹脂の塊が出していた。
冗談じゃない。
俺たちがゲーセンでやりたかったことが、 全部ここに入ってるじゃないか。
加速度。
ジャイロ。
振動。
スピーカー。
赤外線。
左右分離。
しかも軽い。
軽いから、人間が変な動きをできる。
そこまで考えた瞬間、 頭の奥で何かが繋がった。
ロボだ。
まずロボだ。
ロボは正直だから。
軽く入力すれば軽く動く。
無理をすれば無理な挙動になる。
だから“操縦”になる。
右Joy-Conを肩から腹へ滑らせる。
加速。
勢いが足りなければ、そのまま太ももまで持っていく。
フルブースト。
左手は逆方向へ切る。
慣性を殺す。
被弾した側だけ震える。
左脚がやられたことを、 画面より先に身体が知る。
通信が入る。
ヴ……ヴヴ……
プレイヤーは反射的にJoy-Conを耳へ当てる。
『……3番機、後ろ取られてるぞ』
ノイズ混じりの声。
高音質じゃなくていい。
むしろ荒れていた方がいい。
“機械越し”になるからだ。
ああ、わかる。
これはゲームじゃない。
操縦だ。
いや、もっと近い。
楽器だ。
同じ機体を使っても、 同じ動きにはならない。
強い奴ほどフォームが変になる。
肩を落とす。
肘を固定する。
太ももで滑らせる。
二本まとめて右手で握る。
意味不明な姿勢で、 意味不明な軌道を描く。
観客が叫ぶ。
「今の何!?」
本人だけが理解している。
だから熱狂になる。
見ればわかる。
ああ、“乗ってる”って。
今のゲームは賢い。
説明が上手い。
誰でも遊べる。
それは正しい。
正しすぎる。
でも俺は、 もう一回あの頃の馬鹿をやりたい。
配信で見た奴が、
「なんだあれ」
って口を開けるような。
ゲーセンの奥で、 汗だくの若者が、 意味不明なフォームで最強になっていくような。
人間が機械に合わせるんじゃない。
機械と一緒に変な生き物になっていくような。
そういうゲームを。
……俺に、もう一回作らせろ。
度肝、抜いてやる。




