リルガミンの昨日
地下8階
戦利品の開錠音が、嫌なところで止まった。
金属が噛む音。
それから――静寂。
ああ、やったな。
お調子者の盗賊が、やりやがった。
床の紋様が赤く灯る。
レッサーデーモン。
一体、二体……八体。
盗賊が振り返る。
顔が引きつってる。
ああ、もう駄目だ。
ミスったあいつが悪い。
そう思った瞬間だった。
一閃。
風が鳴いた。
いや、違う。
切断音だ。
首が落ちた。
一つじゃない。
二つでもない。
八つ。
レッサーデーモンの首が、
ほぼ同時に床を転がった。
血が噴き出すより先に、
体が崩れた。
静寂。
「……おっと」
メイジの爺さんが、
樫の木のスタッフを軽く振ったまま、
苦笑いした。
「いやあ、今のはとっておきの魔法じゃよ」
「クリティカルが重なってな」
笑う。
誰も疑わない。
返り血まみれで盗賊は腰を抜かし、
ビショップは拍手し、
僧侶は目を伏せた。
――でも。
私は、見逃さなかった。
あの瞬間、
爺さんから爆ぜた殺気。
魔力じゃない。
詠唱もない。
理論もない。
斬ると決めた者の圧。
忍者の私には分かる。
あれは技でも魔法でもない。
死狂いだ。
杖で切りやがった。
爺さんは気づいたのか、
ちらりと私を見る。
目が合う。
一瞬だけ、
ローブの奥に――
刀を握っていた頃の眼があった。
何も言わない。
言えない。
この街では、
正体を暴くのは
殺すより重い罪だ。
爺さんは笑って、
また杖を地面に突いた。
「ほれ、先に進むぞ」
私は影に戻りながら思う。
――なぁ、あんたのクラス侍だろ、死にぞこないめ。
私だけが、それを見てしまった。
嫌になるわ。




