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宇宙放浪者ヘドロ!~漂流から始まる傭兵生活、レジェンダリー装備を頼りに宇宙を放浪するはずが、バカでアホで頭のおかしなヒロインばかり集まってくるんだが~  作者: 村上さゞれ
第1章 海洋衛星カリスト編

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03_海洋衛星カリスト(木星ちと近すぎませんか?)

色々な宇宙ゲーをミックスして舞台を太陽系でお送りします。


 ガンダール連邦。

 というのが、この天の川銀河を統べる星間国家の名前らしい。


 連邦というだけあって、独自の自治権を持つ組織やコロニーが肩を組むことで成り立っているらしく、寛容なことに民主主義だけでなく専制政治を行う星もあるのだとか。あり人間みたいな種族には、女王蟻を頭にえた方がよく社会が運営できるからだろうか。


 しかし、SPACE CITIZENでは聞いたことのない国で、リアルでも俺が大学生のころにこんな宇宙人が星間国家をつくってるなんて聞いたこともなかった。

 もしかしたらNASA(アメリカ航空宇宙局)は知っていたのかもしれないが、世界中の混乱を防ぐために箝口令かんこうれいを敷いていたのかもしれない。だが、その技術力は本物らしく、惑星や衛星をテラフォーミングすることなどお茶の子さいさいらしい。


 木星の第四衛星カリスト。

 木星圏ではガニメデにいで二番目に大きい衛星であり、表面の八割が海水でできた海洋衛星でもある。ところどころ島や水上都市が点在する青い衛星の水平線には、一日中、落ちてきそうなほど大きな木星が漂っている。

 元は大気もない氷に覆われた衛星だったが、ガンダール連邦のとある民間企業によって星ごと買収され、今ではこうして人が住める環境になっているのだとか。



    ***



「だいたい十七日周期で日が昇ったり沈んだりする。それまでずっと昼、ずっと夜って感じだな。でも、木星があるおかげで夜も明るいんだよ」


 俺は近くのカフェで、魚人の店主から話を聞きだしていた。

 魚人がカフェを運営しているというのも妙な話だが、現に、まんま深海魚のブロブフィッシュ(*あのキモ可愛いやつ)みたいな頭をした店主はコーヒーをドリップさせながら、見慣れたとばかりに窓の外の木星にちらりを視線を向ける。


「へー、地球でいう月みたいな感じか」

「あん? ……まぁ、そんなもんだ。だが、木星の方が何倍も大きいからその分明るい。あと、この星をテラフォーミングしたサイコ社の潮汐抑制フィールドってのが沖合にあるんだが、それが余計な重力波を消してくれるから津波はもう何百年も起こってないんだよ」


 店主が言うには、カリストの沖合に巨大建造物メガストラクチャー群があり、それが潮汐効果を無効化しているらしい。海底設置型グリッドシステム? 浮遊型タワーアレイ? オービタルリングシステム? の複合型がどうとか言っていたが、よく分からないのでスルーする。

 また、地球では月の満ち欠けで夜の暗さが決まったりするが、ここカリストでも木星は常に同じ位置にあるものの、太陽が動くことで満ち欠けするのだそう。


「なるほどな。他の星のことも聞いてみたいけど、とりあえず情報提供ありがとさん」

「おい、待て待て待て。一杯飲んでいけよ。ジュピター・ラテだぞ。すぐそこの島で栽培されたコーヒー豆を使った特製ブレンドだ。あんた見ない顔だから飲んだことないだろう。こいつは合法のソフトドラッグでな。この星系でしか飲めないんだぞ」


 だが、俺は情報端末を見せながら申し訳なさそうな顔をつくって、肩をすくめる。


「悪いが、いま無一文でな。金が工面できたら、また来るよ」

「クソー! 冷やかしかよぉ! おとといきやがれバカやろー!」


 後ろから怒号が聞こえてきたが、俺は心の中ですまぬと手を合わせながら店を出る。


 水平線には今にも落ちてきそうなほど大きな木星が顔を覗かせている。空は薄い水色で、海は濃い青、島の斜面にずらりと並ぶ住宅は漂白されてるのかと思うほど白く、屋根がこれまた空とも海とも違ったラピスラズリ色で塗装されている。

 地中海に似た気候もあいまって、写真で見たことのあるサントリーニ島にそっくりで、俺は期待と潮風を肺いっぱいに吸い込みながら歩きだした。



    ***



 さて、どうしようか。

 ただいま無一文で、持っているのはいま着ている宇宙服と腰の携帯型荷電粒子砲、あと情報端末しかない。これはSPACE CITIZENで自分のアカウントで所持していた装備一式だ。淡い期待も込めてバックパックも覗いてみたが、残念なことに持っているのはこれだけらしい。

 これら装備を売ればそれなりに金になるかもしれないが、クラスがレジェンダリーなのがまずい。宇宙服と荷電粒子砲に至っては古代の遺跡で発見した遺物を限界まで改造したものなので、きちんと査定できる店なんて存在しないのではないだろうか。


「それに――」


 頬をつねってみる。

 痛い。


「どう考えても、現実だよなぁ……」


 はぁ、とため息をつきながら、俺は階段に座って項垂うなだれる。


「花壇の花も、なんだこれ……オブジェクトにしては細かすぎるだろ。グラフィックも綺麗すぎてゲームならCPU(*パソコンの脳)爆発するんじゃねーのか?」


 思わず植えられていた赤い花をゼロ距離でガン見する。

 たしか、これはゼラニウムとかいう花だったはずだ。詳しくは知らないが、明るい朱色の五枚の花弁や茎に維管束(葉脈)があるのを見て、これがゲームならテクスチャを貼るのにどれだけのリソースを費やしているのだと冷や汗をかきそうになる。……あっ、しかも土のとこに変な虫いるし。


「だけど、レジェンダリー装備の宇宙服と荷電粒子砲はなぜか持ってるんだよなぁ……もう訳わかんねぇよ」


 近くのバザール(市場)では、エプロンをつけた狼のような亜人が肉らしきものを売っていて、魚人のような見た目の男が魚を捌いていた。……いや、おいおい、冷静に考えれば同族って食ってもいいのか? 肉食魚は小魚を食べたりするからセーフなのか?

 だが、その活気は本物で、客を呼び込む声がひっきりなしにここまで聞こえてくる。その言語も多種多様なはずなのに、なぜか耳を澄ますと日本語へと変わっていく。なんで言葉が通じてるんだ。もしや日本語は宇宙公用語になったのか? あんなマイナー言語が?


「自動翻訳インプラント……って感じなのかな」


 分かったことといえば、どうやら彼らの話す言語はみな違っていて、鼓膜に入ると同時に脳内で日本語に変換されるようだった。というのも、さっきの魚人のカフェ店主の口を見ていると、どう見ても発音(口の形)と内容が違っていたからだ。

 なぜかは分からないが、この世界ではみな自分の言語を話し、勝手に翻訳されるのが当たり前らしい。SPACE CITIZENではフルダイブ型VRゲームなのに基本英語で、有志の方がつくった日本語翻訳MODを差し込んでゲームしてたのが懐かしくなる。

 しばらく頬杖をつきながらバザールのようすを見ていたが、俺は決心すると立ち上がり、両手を上に掲げた。



「よし、決めた!」



 近くにいた子連れの魚人ファミリーが危ないひとを見るような目を向け、そそくさと去っていく。


「直近の目標は、地球に帰ること! 幸い、実家の住所は覚えてるしな。自分の顔も変わってないし、もしかしたら知ってるひとと会えるかもしれない」


 地球が存在するのであればもしかしたら実家があるかもしれない。それにSPACE CITIZENは一応、宙域こそ違えど天の川銀河という設定ではあったので、知ってる銀河地図ギャラクシー・マップとかもあるかもしれない。


「この世界が現実か、超クオリティのゲームの中なのかは分からないけど、もしかしたら他にもこの宇宙に放り出されたプレイヤーだっているかもしれないしな。そいつらに出会うためにも――」


 がくりと項垂うなだれ、腰を捻ってストレッチする。


「まずは情報収集から始めないとだよなぁ……」


 俺はバザールを後にすると、その足でとある場所へと向かうのだった。



この作品には実在の人物、企業、団体、宗教が出てきますが、権利関係上まずそうなものはもじって登場させてあります(例、ブルースリー→レッドリーなど)。実在する名ともじった名が混在するところも含めて、パラレルワールドだと思っていただければ幸いです。

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