21_色々な活動家(みんな役満のやつらです)
【アテンションプリーズ】
【カリスト軌道上、第六ステーションへようこそ。料金所を通過する場合はクレジットセンサーを引き落としモードに設定し、一列にお並びください。ステーションに入る場合は料金所を抜けて、左へとお進みください】
ゆっくりとだが宇宙船アローラがついに渋滞の先頭にたどり着き、検問を突破して料金所を通過する。渋滞に並び始めて三時間……長かったがこれでようやくカリストに入れるわけだ。
「あー、くそ。なにも湯沸かし器が壊れてるだなんて。ぐずっ……」
そんな中、俺はひとりバスローブ姿のまま寒さでガタガタと震えていた。
下水管が破裂したあの後、すぐに元栓を閉めに行き、全身糞まみれだった俺はシャワーを浴びにいったのだ。しかし、肝心のお湯が出ず、やむなく冷水で全身の汚れを洗い流した俺はものの見事に風邪をひきかけていた。
「妾の忠告を聞かないからじゃ。やはりこの船は呪われていたようじゃのぅ」
「まざが、下水管が破裂するどば……ぐずっ……ぶび――、ああ、鼻水がアーチみたいになってら」
俺は鼻をかみながら、操縦席で目的地を再設定してパーキングエリアならぬ第六ステーションに入るため、進路を左に傾ける。
「そうだ。お前の上に着る服も買いたいし、ちょっと寄っていくか」
「ん……それはいいんじゃが、軌道上のコロニーとなると物価もそれなりに高いのではないか?」
「ネオ・サントリーニも悪くはないんだが、やっぱ他の星からの輸入品とかはまずここに集積されるからな。カリストに降りるよりも安い場合があるんだよ」
第六ステーションはドーナツ状……いわゆる回転リング型と呼ばれるタイプで、回転させることで遠心力を生みだし、擬似的に重力を作りだしている。もっとも、今は人工重力技術が確立しているのでこの形は昔の名残らしいが。
ちなみにドーナツ状のステーションの真ん中の穴を通ることで料金所を通過し、地上に降りられるのだがそれを無視して何もないところから降下するとカリストを覆うレーダー網に引っかかり、すぐに沿岸警備隊に捕まるらしい。とはいえ、囮となる小惑星を無数に落とし、防衛ネットワークをハッキングすれば監視の目を潜れることもあるらしいが。
とにもかくにも、そのまま舵を左に傾けた俺たちは自動操舵AIによってドーナツ状に回転するステーションの宇宙港に入ると接岸し、エアロックに連絡橋を接続してくれたのを確認して立ち上がった。
「よし、じゃあ行くとするか」
***
「我々は――、女王の名のもと――、活動していて――」
「なぜ、女性の権利が踏みにじられているのか――」
「培養肉は愛護法に反しています。それを変えるために――」
ドーナツ状に形成されたSFチック満載な街を見る間もなく、入場した途端に選挙演説じみた声が聞こえてくる。俺はなんだと声のする方に顔を向けると、宇宙港からの出入り口でもある街の広場に統一された服を着た団体が三つほどいることに気づく。
しかし、そのうちのひとつがボンキュッボンのお姉さん方で露出度の高い蜂柄の服を着ていたことで、俺は蜜に誘われるカブトムシのように女性陣の方へと歩いていく。
「我々、蜂人族はみなひとりの女王蜂を頂点にすべての者が平等な存在として生きています。社会を動かす歯車として生まれ、同じ服を着て同じ飯を食べ、同じ寝床で眠る。……そう、この銀河には他者を思いやる同族意識の欠如と、圧倒的な王による統治が不足しているのです!」
「ほぅ、専制政治ですか。ぜひ、話を聞かせてください」
俺は演説していたお姉さんの手をとり、できるだけ格好のいい(自分ではそう思っている)決め顔をした。蜂の特性を持つ種族らしく――お姉さんたちはみな巨乳美人で同じ蜂柄の服を着て、毒針のあるボテッとした尻尾を生やし、黄色にぬらぬらと濡れた槍を持っていた。
警察官をしていた蟻人間と違って、蜂のお姉さん方は人間寄りの顔をしているおかげで虫っぽさがあまりない。どちらかというと、蜂のコスプレをしている感じが強い。
「おい、やめとけ。おぬし、こやつらは……」
「す、すばらしい! 私たちの活動に賛同する者がいるとは! あなたも同志になれる素質があると見えます」
「いいですよね、うんうん。僕も悪くないと思います。専制政治、プロレタリアート独裁を経ての共産主義。なんか名前がかっこいいっすもん! ぐへへ……」
俺はお姉さん方の露出した胸の谷間をちらちらと見ながら、存分に天然モノのそれを堪能する。もしかしてあの胸に花粉なんかつけて運んじゃったりするのかな。谷間から蜜がこぼれ落ちちゃったりしちゃって、ぐへへ。
「そうなんです! この銀河は広く、種族があまりに多い。そのせいで集団意識が欠けているのです。集団意識がなければどうなるか。各々が私利私欲に囚われれば、社会は冷徹な利益のみの関係で冷え切っていき、やがてはモラルハザードを起こすことになるのです!」
「う――ん、言ってる意味はよくわかんないっすけど、たぶんそうなんだと思います。ぐふふ……」
やけに人々が広場を避けているのが気になるが、俺はうんうんと頷きながら同意する。
「なんかきれいごとを言っておるが、こやつらは同じ種族同士で女王が違うという理由だけで、年中殺し合いをしておる生粋の戦争屋なんじゃがなぁ」
「あらあら、うふふ。真実を伝えても今の生殖器に思考を支配されたクソオスのご主人様には分かりませんよ」
「おい、聞こえてるぞ」
後ろでコソコソと喋っているバカどもは放っておいて、俺はにこにこと微笑んでくれているお姉さん方の胸を横目で眺める。こう、焦点を明後日の方向に合わせて、バレずに胸を見るコツがあるんだなこれが。
と、そのとき、広場にいた別の団体らしき女の人が怪訝な表情で近づいてきては、俺の腕をがっしりと掴む。
「ちょっと、あなた男ですよね?」
「どうしたんですか、マダム。僕でよければ話聞きますよ」
キリッと決め顔(自分ではカッコいいと思っている)をしながら、俺は話しかけてきた女性としっかりと目を合わせる。こういうのは目を逸らさず、しっかり目を見た方が好感度が上がるんだな。ちなみに女性は宇宙汎用語で『女性よ、今こそ声をあげろ』的なフレーズが書かれた黒いTシャツを着ている。いやはや、意外とデカいというか俺は偽物でなければ選り好みしない主義なんだ。
「私たちは女性の権利を取り戻すべく活動している団体です。この銀河ではあまりにも多くの星で女性が酷使され、抑圧され、搾取されています。ですが、それはおかしい。女性は子どもを産む機械ではないし、クソオスにいいように使われる性処理道具でもないのです!」
「…………」
あー、まずい。
クソオスというワードに、メロウがぴくりと反応した。さっきから会話に入ってこないのは、自分がセクサロイドであることを配慮してのことだろうが、ここは無難に否定せず、全肯定しておかないと命の危険があるな。
「あなたも、あまりの多くの女性の権利が踏みにじられていると思いませんか!?」
「うんうん、思いますとも!」
「いいですか。洗濯機のボタンを押すのは重労働なんです。食洗器から食器を取り出すのも、子守りロボットに赤ちゃんの世話を指示するのも。私たち女性にとっては限りある人生を消費して行う、緩やかな自殺行為に等しいんです! もっと男は私たち女性を労わるべきだ――!!」
「うんうん、その通りだと思います。銀河政府は銀河法を改めるべきだ! あなたの言うことはすべて正しい!!」
わっ、と感極まったような表情をつくりながら、俺は拍手する。
俺はこういうとき顔を赤らめて涙を流せる特技があるのだ。まさか男にここまで肯定されるとは思っていなかったのか、フェミニスト団体の代表の女性はキョトンとした顔をしたあと、真剣な眼差しで俺のことを見てくる。
「どうやら、あなたとは気が合いそうですね。私の名はカレン。ここのフェミニスト団体のリーダーです。どうです、あなたも去勢してこちら側へと来ませんか?」
「しま~~す!」
するわけないだろ。




