『 』のゆりかご
星を創る作法は、至極シンプルだ。
ただ、爆発である。
銀河の干渉を受けぬ真空の淵で、巨大な臨界を引き起こす。それだけで、無数の光が産声を上げる。星々にいくつかの初期設定を施し、あとは放置すればいい。やがて、その星固有の生態系という名の「物語」が、勝手に芽吹き始める。
逆に、星を壊す作法もまた、シンプルだ。
ただ、爆発である。
崩壊のエネルギーは宇宙を循環し、かつての星が抱いた記憶や記録を遺伝子のように引き継いで、新たな生命の苗床となる。複合され、反復される星々の輪廻。
知的生命体を、それこそ星の数ほど見守ってきた私にとって、「命」とはその程度の、容易くも必然的な事象に過ぎなかった。
「……」
けれど一つだけ、歪で面白い星がある。
水が七割、地表が三割。彼らが『地球』と呼ぶ、瑠璃色の小さな惑星。
他の生命体にはない、絶妙な、あるいは危ういバランスの上に成り立つ均衡。小さな綻びひとつで秩序を失う脆弱さを持ちながら、外敵を殲滅しうる力を秘め、偽りの平和を語り、支配者を自称する奇妙な種族。極寒にも酷暑にも適応し、命を繋ごうとするその執念深き遺伝子に、私の興味は尽きることがない。
今、その種族を超える知性が世界を揺るがそうとしているが、彼らはそれさえも「適応」と「共鳴」のプロセスとして飲み込んでいくのだろう。
「人生……か」
その星を観る。視る。診る。
苦痛が澱み、けれど幸福が満ち溢れる矛盾した世界。
「行ってみる、か……」
肉体を持たぬこの『 』にとって、依り代となる器は、地球の至る所に遍在している。
世界を巡り、旅をし、移り住んでみよう。この『 』は一つではなく、同時に存在し、同時に存在しない。個として生きるには、この世界はあまりに広大すぎる。
「楽しみだ」
世界中に散らばった私の断片。
知的生命体のみならず、その外敵たちへも意識を拡張して。
私は、この「物語」の中を。
ただ、漂うのだ。




