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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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〈神龍島〉の巫女たち

 元々二人はこんな関係であった。

 サイカが厳しいことを言って、エニシが『しかし』だとか『でも』とか反論をし、そんなサイカの言い方をミズホやホノカがいさめる。

 だからこそこんな状態であっても、サイカはきっとこんな風にエニシに言葉をぶつけることができているのだ。

 サイカは能力によって、信頼する人間を選別していた。

 だから巫女たちの中でも陰口をたたくような者に対しては厳しい態度をとっていたし、あまり好かれるタイプでもなかった。

 ただ、エニシたちに対しても言葉は変わらず真っすぐであった。


 エニシはついつい昔のようにまくし立てられてしどろもどろになっていたが、なんとなく当時のことを思い出して、懐かしく、そして少し寂しく思う。

 誰の話を信じたとしても、当時一緒にいた他の巫女たちの中には裏切り者がいたのだ。

 自身がどんなに嫌われていようとも、最悪仕方のないことであったが、自らの欲望のために他の巫女を犠牲にするような者がいたというのは、時間がたっても悲しいことであった。


「サイカは、〈神龍島〉を、巫女を守ろうとしたのだな」

「それが私の使命です。この国のことなど知りません」

「そうか……。……しかし我は、この国が丸ごと平和になった方が嬉しいのだ」

「無理です」


 エニシの言葉をサイカはバッサリと切り捨てる。


「無理とて望んでしまった」

「自分の配下である巫女にすら裏切られたエニシ様が、この国を平和にできるとは思えません。エニシ様のお優しさはよく知っております。しかし世の中にはそうでない者が圧倒的に多いのです」

「相変わらず厳しい」

「この場所なら、この場所だけならば、神龍様のご威光で守られております。それでも手を出してこようとする輩は様々ございます。私はそういった卑劣な輩から故郷を守ることができませんでした」


 サイカは戦に負けて、ボロボロになってこの〈神龍島〉へ送られてきた。

 巫女であるから、という理由で生かされ、殺されもせず、敵を討つこともできず、〈神龍島〉へ流されたのだ。

 何度も死のうとするサイカを、なだめすかしてこの場所に馴染ませたのはエニシたちである。

 外の世界を見て、〈北禅国〉の経過などを見守ってきたエニシは、サイカの言っていることがなんとなく理解できた。


「そんな私を受け入れてくれたここを、今度こそ私は守りたいのです。その中にはエニシ様、あなた様も含まれております。生きて帰られたのならば、今度こそ、素直にこちらで穏やかにお過ごしください」

「サイカ……。……我は、この国を平和にするのだ。我ができることは限られておる。お主なんかよりもずっと頭も口も回らぬ。できることと言えば、偉そうに理想を語ることくらいなのかもしれぬ。しかし、我の理想に共感してくれる者もいるのだ。手を貸してくれる者もいる。だから我は島を出て、どうにか自分のできることをしていこうと思うのだ」

「…………無駄死にするだけです。一度〈神龍島〉から出ているのです。負けて捕まれば、私のように〈神龍島〉へ送られることはなく、殺されるだけですよ」


 サイカは声を震わせながら反論を続ける。


「捕まらぬように気を付ける」

「気を付けててもうまくいかぬことはあります。分かるでしょう!」

「分かる。でもやるのだ。我もだが、神龍様も本当はきっと、平和なこの国が見たいに違いない。……サイカ、お主だってそうだろう?」

「私は……、エニシ様や、巫女たちが穏やかに暮らせていればそれで十分だったのです……!」


 俯いたサイカの目からポロリと涙がこぼれる。

 エニシはサイカのことを抱きしめ、背中を優しく叩きながら言い聞かせるように話す。


「お主が〈神龍島〉を守る。我は外で頑張る。年に数度は会いに来られよう。そのたび、少しずつ、国が良くなっている話をするのだ。積み重ねれば、いつかお主が暮らしていた故郷も平和になろう。その頃には、巫女も穏やかに旅ができるようになっておるかもしれぬ。そうしたらサイカよ、その時は、お主の故郷を案内してほしい。なぁ、楽しみになってくるだろう?」


 二人がそうして話をしているうちに、他の巫女たちも集まってきて、エニシがいなかった間のことを話していく。どうやら、その様子を見る限りサイカの話には嘘はないようであった。

 モンタナが黙って見守っている時点で、そうであることはハルカたちにはわかっていたのだけれど。


 それにしても、ハルカたちとしては手持ち無沙汰な状況である。

 しばらくすると、落ち着いたらしいサイカの縄をほどきながらエニシが言う。


「……奥宮へ戻って、巫女たちと話をしてこようと思うのだ」

「いいと思います。……ええと、私は神龍様ともう少し話がしたいので、声をかけてみようと思うのですが」

「では拙者は一応エニシ殿の護衛でもするでござるよ」

「侍は信用ならん」


 きっ、と縄をほどかれたサイカが護衛を申し出たリョーガを威嚇する。


「これ、失礼なことを言うな。リョーガ殿、すまぬが頼む。……何、何か大変な事態があれば、ここに逃げ込んでくればよかろう。上が片付いたら声をかけるが、ハルカもここでの用事が終わればいつでも声をかけてくれ」

「分かりました。ええと、それではお気をつけて……?」

「うむ、久々に巫女たちの顔をじっくり拝んでこよう!」


 サイカとの話し合いが上手くいったと思っているのか、エニシは嬉しそうだ。

 リョーガはその辺りが心配でついていくと言っているのだが、やはりエニシは、サイカの言う通り少しばかり人が良すぎるようである。

 だからこそ、ついていこう、手を貸そう、と思う者がいるのかもしれないけれど。

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― 新着の感想 ―
個人的にはエニシはかなりたちの悪い人物に見えてしまうなぁ。 善人であり他者に優しく魅力的で理想を語る。 彼女の為ならば、と動く人間は多数いるだろうね。 でも清濁併せ吞むタイプには見えないから結局、そう…
神龍はもう暫く出番は無いのかと思ったけれど、未だ何かあるんだな。 神龍が朧を変える何かヒントみたいのを知っていたら助かるのだが。
自分が救われたやさしさを否定してでも守りたかったんだな。 そして、失敗してエニシを失っても守り続けたんだ。
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