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私の心はおじさんである【書籍漫画発売中!】  作者: 嶋野夕陽
14章

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1615/1627

巫女総代VS元巫女総代

 サイカは縛られたまま座りながらも背筋を伸ばし、エニシを真っすぐに見つめた。

 元々吊り目で目力が強いからか、そうするだけで睨みつけているようにも見える。


「……エニシ様を外遊に連れ出し、他勢力との交渉をしようという話があったのを覚えておいでですか?」

「……南方の商業が発達した国であったな」

「それを強く勧めたのは、エニシ様の近くで命を落とした、武闘派の方々だったということは? あまりに前向きであるからと、エニシ様も怪しく思われていましたよね?」

「……そうだったが、飛び込まねばわからぬこともある、と決めた」


 エニシの返答が探り探りであるのは、会話の流れに嫌なものを感じ取っているからだろう。


「私は最後まで反対をしました。彼女たちがエニシ様を売ることによって、あの国での地位を約束されていたのを知っていましたから」

「……聞いたのか。しかし……、巫女が直接あの国の者と接触する機会はなかったはずだ」

「……御殿の外へ出たのですよ。武闘派の者たちがこの山を下り、戻ることなど容易いですから」

「しかし、それではお主の力も……、あ……」


 元々サイカは自身の力の効果範囲を、おおよそ御殿内部までとしていたはずだ。

 しかしそれが本当であるとすれば、今日ハルカに対して能力を使用して倒れていたのはおかしな話だ。


「お主もしや、虚偽の能力申告をしておったのか? 嘘を見抜ける者が同席していたはずだぞ」

「嘘はついておりません。本当のことをすべて言わなかっただけです」


 幼い時に送られてくる巫女は、よく分からずに全て本当のことを言うので、虚偽の申告は滅多にあることではない。

 そもそも巫女側だって『嘘偽りなく能力を述べるように』と伝えるくらいで、嘘を見抜けるものを同席させているなどとは説明しない。それでもサイカが能力を上手く誤魔化したのは、元々国元で能力を使って酸いも甘いも噛みしめてきた後であったからだろう。


「改めてわざわざ私の力を説明するようなことは致しません。しかし、あの者たちが裏切っていたことは事実です。エニシ様を隠し通路から追い出し、海へ出るように仕向けたのも、あの者たちではございませんか? 事実が発覚するのを恐れてのこととは思いませんか?」

「……ミズホやホナミは、我を逃がそうと足止めをすると……」


 これまでの考えの根底がぐらぐらと揺らぎ、エニシが声を震わせながら言うと、それに関してはサイカは首を横に振る。


「あの方々はエニシ様に忠実だったからこそ、あそこに閉じ込めておいたのです。私がいくら事情を説明して協力を願いましても、納得していただけませんでした。……いえ、納得していたからこそ、エニシ様を死地である海へと送り出してしまったことに罪悪感を覚えてあそこから出ようとしなかったのでは?」


 エニシが振り返ると、地下牢に入っていた者たちは目をそらしつつも静かに首肯する。


「巫女を……、下の街に放って情報を探っていたのは……?」

「結果的には私がエニシ様と側近を粛清して地位を得たことになっています。エニシ様に可愛がられていた巫女たちが、そんな私の傍にいたいと思いますか? 私だって通りがかるたびに恨めし気に見つめられるのはごめんです。それに……」


 サイカは目を細めてエニシからスッと目をそらす。

 そうしていると、冷淡で計算高い美女に見える。


「巫女を外に出して情報収集をしていることにしておけば、私が直接情報を集めていることもばれないでしょう」

「…………ではお主は、元々は我を巫女総代から追い出す気などなかったと?」

「いえ? それは退いていただくつもりでした」

「えぇ……?」


 威厳を保って話していたつもりのエニシは、その返答に思わず困惑して声を上げてしまう。


「素直すぎない?」


 何か企んでいるのかとコリンがツッコミをいれる。

 するとサイカはじろりとコリンを睨みながら続けた。


「この話は既にミズホ様方にはしておりますので。今更隠したところで意味がありません。結局のところ、外の世界を知らぬエニシ様が、〈神龍島〉の内部からこの国を変えようなどということが無茶なのです。エニシ様が、よそから来た私のことを心配し、気にかけてくださっていたことはよく知っておりますし、恩に感じております。ですから穏便に引退していただこうと思っていただけなのです。それがまったく……、どうして荒れた夜の海にあんな小舟で逃げ出すなど……! 愚かしいにもほどがある。命が惜しくないのですか! 頭にお花が咲いているエニシ様だけならばともかく……、ミズホ様やホノカ様まで……! これだからこの島育ちの巫女は皆、頼りにならないというのです……!」


 話しているうちに腹が立ってきたのか、サイカの語調が強くなっていく。


「お、追い詰められて、再起を図る他ないと思ったのだ……! そ、そもそも、お主が我を追い落とそうとしたのが悪いのではないか!」


 エニシがまるで子供のように言い返すと、サイカもまた目を吊り上げた。


「人聞きの悪い。引退して大人しく暮らしていただこうとしていただけです。エニシ様は外の世界の厳しさを知らぬのです。毎日血が流れ、人が死に、耕した土地を荒らされ、金品や女子供が奪われる。とてつもない悪人がはびこる世なのです。〈神龍島〉の巫女がすべきは、世界平和を願うことなどではなく、この島を……。……よそ者の私を馬鹿みたいに心配して、受け入れてくれたこの場を守ることです。なぜエニシ様にはそんなことも分からないのです。〈神龍島〉は神龍様が自分の世話をさせる、という名目で巫女を守るために用意してくれた。そう私に語って下さったのはエニシ様ではありませんか!」

「う、ぐ……」


 サイカの言葉に押されたエニシは、小さくうめきながら変な顔をする。

 外の世界に出て心こそ立派に成長はしたものの、甘やかされていたせいで、論戦は昔よりも弱くなっている可能性があった。

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― 新着の感想 ―
この小説が他のなろう小説と比べて面白いと思うのは、物事を片方だけの意見をもとに判断する事の愚かさと、世の中、勧善懲悪や白黒で判断出来ない多面性を教えてくれる所ですね。
物事には多面性があるってことを分かりやすく?かどうかは分からないが、提示してくれる良い小説だ。 一面的に思考を偏らせることで対立が生まれやすい現代社会でも、常に考えなければならないこと。
更新お疲れ様です。 ……なんかもう色々めんどいというか、一辺この国の権力者連中を全部叩き潰した方がまだ近道な気もして来ましたなぁ…(脳筋思考 それでは今日はこの辺りで失礼致します。
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